演技性パーソナリティ障害の症状と治療法
みなさんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「演技性パーソナリティ障害」です。
目次は以下の通りです。
①演技性パーソナリティ障害とは
②診断の流れ,基準
③心理学的な研究
④治し方,心理療法
当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。
お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。
演技性パーソナリティ障害とは
演技性パーソナリティ障害とは
演技性パーソナリティとは、パーソナリティ障害に含まれる分類の一つです。精神医学事典(2011)[1]によると以下のように定義されています。
過度な情緒的で、他者からの注目や関心を要求する行動様式
特徴としては、演技的な自己表現で、自分が注目されるように行動することが特徴です。外見的魅力で誘惑したり、感情の不安定さなどもあります。
有病率
演技性パーソナリティ障害の有病率は1~3%であると言われています[2]。林(2008)[3]が精神科病院に入院した患者7131人を対象にした調査によると、7131人のうち531人がパーソナリティ障害を持っていたことがわかりました。それぞれの人数は以下の通りでした。
妄想性 4人
統合失調質 6人
非社会性 45人
情緒不安定性 302人
演技性 7人
強迫性 3人
不安性 5人
依存性 3人
このように演技性パーソナリティ障害は比較的珍しい障害であることがわかります。
位置づけ
演技性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害の中の1つです。パーソナリティ障害は3つにわけられます。
A群
奇異的な考え,理解しがたい行動が目立つ
B群
情緒不安定,激しい行動が目立つ
C群
不安が強い,内向的
演技性パーソナリティ障害はB群のうちの1つとされています。B群は反社会性、境界性、演技性、自己愛性が含まれています。いずれも情緒的、演技的な面を有しているのが特徴です。
B群の比較
同じB群のパーソナリティ障害とはどのような違いがあるかを、下の表にまとめてあります。自己愛性、境界性との比較を参考にしてみてください。
診断の流れ,基準
診断の流れ
実際の診断は精神科や心療内科で行われます。ただし初診から演技性パーソナリティ障害という診断名がつくことは稀です。何度も面接を重ね、症状の変化などを把握する必要があるからです。
診断基準
精神疾患の診断基準であるDSM-5[4]では、演技性パーソナリティ障害の診断には以下の基準があります。
過度な情動性と人の注意を引こうとする広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つが示される。
①自分が注目の的になっていない状況では楽しくない
②他者との交流はしばしば不適切なほど性的に誘惑的、または挑発的な行動
③浅薄で素早く変化する情動表出を示す
④自分への関心を引くために身体的外見を一貫して用いる
➄過度に印象的だが内容がない話し方をする
➅自己演劇化、芝居がかった態度、誇張した情動表現を示す
⑦被暗示的(他人または環境の影響を受けやすい)
⑧対人関係を実際以上に親密なものと思っている
演技性パーソナリティ障害の研究
自尊感情との関係
市川ら(2014)[5]は大学生、大学院生111名を対象に、パーソナリティ特性と自尊感情の関係について調べています。下の図は境界性と演技性、それぞれの自尊感情について表しています。
この結果、境界性は低群のほうが自尊感情の得点が高くなっています。一方、演技性は高群の方が自尊感情得点が高くなっています。つまり、境界性パーソナリティは低い自尊心のために不安定な対人関係を築きやすいとしています。
対照的に、演技性パーソナリティはもともと内在化された自尊感情が高いということになります。もともとの自尊感情が高いため、他者から注目を浴びることにも抵抗がないとも言えます。そのため、対人関係では社交性や誘惑性の高さが目立つとしています。
被受容感がある
市川ら(2015)[6]は大学生362名を対象に、被受容感や被拒絶感について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
こちらの図は、他のパーソナリティ障害はその傾向があるほど、被受容感が低くなりやすく、拒絶されたと感じやすい一方で、演技性パーソナリティ障害は、被受容感が高く、拒絶されたとは特別思わないと解釈できます。他のパーソナリティ障害に比べて、他人から受け入れられていると感じやすい点は特徴的であると言えます。
④治し方,心理療法
演技性パーソナリティ障害は大きくわけて、心理療法と薬物療法の観点から治療をしていきます。当コラムでは、心理療法の視点から、よく使う対策を紹介します。
①心理教育
②メタ認知力をつける
③認知行動療法を学ぶ
④アサーティブコミュニケーション
➄アンガーマネジメント
➅魅力として捉える
ご自身に役立ちそうなものを組み合わせてご活用ください。
①心理教育
演技性パーソナリティ障害において、自己理解を深めることは何より大事です。心理教育によって障害の特性を理解したり、自分の症状について理解が深められます。すると、自分を受け入れるきっかけになる、混乱することが減る、人間関係の失敗が減る、という効果があります。具体的には専門家から説明を受ける、書籍を読む、当事者の動画を見るなどが挙げられます。
②メタ認知力をつける
演技性パーソナリティ障害の方は浅はかな考えに左右されたり、感情がコロコロと変わりやすかったりします。この点を改善するには、メタ認知力をつけていくことが大事です。メタ認知とは自分自身の感情や考え方を冷静に把握する力を意味します。
具体的には、自分の考えを把握するエクササイズや日記を書くことで、自分と向き合う練習を行っていきます。詳しくは下記のコラムを参照ください。
③認知行動療法を学ぶ
演技性パーソナリティ障害の人は「注目されなきゃいけない」といった思い込みにとらわれているもあります。この思い込みによって、自己中心的な行動を取って人間関係を悪化させてしまうこともあります。
この思い込みの対処法の1つに認知行動療法という手法があります。認知行動療法で偏った考えを、柔軟で現実的な考え方に変化させることで、感情を安定させる手法を意味します。
一度思い込むとなかなか元に戻れない…という方は下記のコラムを参照ください。
④アサーティブコミュニケーション
演技性パーソナリティ障害の人は自分の注目を集めたいがために、つい自己中心的になってしまいがちです。自己中心的になってしまうことが多い方は、アサーティブコミュニケーションの学習をおすすめします。アサーティブとは、自他尊重のコミュニケーションと呼ばれ、自分と他人の、価値観、生き方、困り事をお互いに尊重する心理療法です。
しっかり学ぶと、自分のことだけでなく、相手の意見を尊重しながら建設的に話し合う力をつけることができます。理解を深めたい方は以下のコラムを産参照ください。
➄アンガーマネジメント
他人の言動にイライラしてしまい、周りとうまくいかなくなってしまう方はアンガーマネジメントを学ぶことをおすすめします。アンガーマネジメントとは、怒りを予防・制御するための心理療法プログラムで、不適切な怒りの感情をうまくコントロールすることを目指す手法です。怒りをうまくコントロールできない方は以下のコラムを参照ください。
➅魅力として捉える
演技性パーソナリティ障害は、「障害」として分類されていますが、あくまでそれは精神医学の世界の中の話です。芸術、役者、小説、漫画、音楽などの分野ではむしろ「才能」として開花することもあります。
例えば、演劇の世界では役に没頭し、演じ切ることが大事になります。高い演技力を、芸術という場に活かせば魅力の1つになるという視点も持つようにしましょう。
心理療法を学びたい方へ
私たち公認心理師は心理療法をわかりやすく学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。
・心を安定させる,認知行動療法の学習
・辛い気持ちを緩和,認知の偏りの改善
・SST,人間関係を健康的にするトレーニング
・ストレスを緩和,生活環境の作り方
興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 加藤敏, ら編(平野羊嗣:分担,編集協力者)(2011).精神医学事典 弘文堂
[2] ベンジャミン・J.サドック/ヴァージニア・A.サドック カプラン臨床精神医学テキスト – DSM-5診断基準の臨床への展開 (第3版) メディカルサイエンス・インターナショナル
[3] 林直樹(2008),パーソナリティ障害診断の現状と問題点:都立松沢病院病歴統計から,精神経誌,110,9,p805-p812
[4] 高橋三郎,大野裕(2014).DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院
[5] 市川玲子, 望月聡(2014). パーソナリティ障害特性と自尊感情の諸側面との関連 パーソナリティ研究 23 巻 2 号 p. 80-90
[6] 市川玲子,外山美樹,望月聡(2015).パーソナリティ障害特性における被拒絶感が自己認知および他者からの評価に対する欲求に及ぼす影響 パーソナリティ研究 第 23 巻 第 3 号 142–155