メランコリー親和型の意味とは
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「メランコリー親和型」です。
目次は以下の通りです。
①メランコリー親和型の意味
②メランコリーと関連用語
③遺伝との関連
④心理療法と治療
⑤心理師としての雑感
当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。
お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。
①メランコリーの意味
意味
メランコリー親和型とは心理学辞典(1999)[1]によると以下のように解説されています。
几帳面,対配慮を本質的特徴とする。つねに秩序のなかにあり、秩序との一体感をもって生きている。生活の秩序が脅かされると、メランコリー親和型の特徴に含まれる自己矛盾が先鋭化し、前うつ状態からうつ病へと追い込まれる
*一部簡略化
メランコリー親和型の方は、几帳面、繊細、酷く落ち込みやすい傾向があります。例えば、以下のような事例が挙げられます。
特に生活に問題がないにも関わらず悲観に暮れる
感傷的になりやすい,物思いにふける
冗談を間に受けてひどく傷つく
遊園地などに行っても楽しめない
歴史
メランコリーとは紀元前400年前後に生まれた言葉です。医学の師であるヒポクラテスは人間には、血液、胆汁、黒胆汁、粘液の4種類の体液があり、このうち黒胆汁はメランコリーと呼ばれました。メランコリーが多い人は、鈍重で陰気な気質になりやすいと考えました(心理学辞典,1999)[1]。この考え方は、1000年近く使われました。
中世になると、憂鬱になる原因は「魂が関連する」「信仰の過不足により起こる」という宗教的な考え方が台頭し、黒胆汁という考え方は衰退していきます。一方で、憂鬱な気質、という意味でのメランコリックという言葉は受け継がれ、一般的な用語や芸術活動の中で定着してきました。以下の写真は作家であるキャロルの〝Melancholetta”の詩集による挿絵です(平,2006)[2]。
1961年になると、ドイツの精神科医であるテレンバッハが、メランコリー親和型という概念を提唱し、うつ病の方によくみられる性格傾向として研究を進めていきました。[3]
現在では、アメリカ精神医学会のうつ病の診断基準でも、With melancholic features(メランコリアの特徴を伴う)として使用されています。
②メランコリー親和型と関連用語
メランコリーに関しては2つの関連用語があります。
マニー型とは
マニー型はメランコリーの対極にある性格傾向です。楽天的で、外向的、秩序にとらわれず自由であることを好みます。マニー型の方は特に、双極性障害の病前性格と言われています。
ディスチミア親和型とは
ディスチミア親和型は、他責的で、自己愛が強いタイプです。メランコリー親和型は環境に影響されず、落ち込みやすいのに対して、ディスチミア親和型は環境によって気分が左右されやすいとされています。
正式な診断名ではないですが、ディスチミア親和型うつと呼ばれることもあります。特定の状況で発症する新型うつに近いという意見もあります。
③メランコリー性格と遺伝
メランコリーは性格の一部であり、最近の研究では遺伝的な要素も多くあることが分かってきています。例えば、神経質傾向の遺伝率はおよそ30~50%程度であると言われています。
下記はメランコリーと比較的概念が近い、神経質の遺伝率です。
先天的な遺伝率 41%
家庭環境 7%
外部環境 52%
(安藤,2006)[4]
という結果になっています。憂鬱になりやすい性格はざっくりと半分ぐらいは元々持っている気質と考えると、これを丸ごと変えるのは現実的ではなく、うまく付き合っていく姿勢が大事になると言えます。
④心理療法と治療
当コラムでは、臨床心理学の視点からメランコリー傾向がある方におすすめの手法をお伝えします。
①認知行動療法
②ネガティブ反芻に気をつける
③マインドフルネス療法
④悲しい時に対処する
ご自身でも活用できそうなものを中心にご活用ください。
①認知行動療法
メランコリーと相性が良いのは、認知行動療法と言われる心理療法です。認知行動療法は抑うつ気分を改善する考え方の学習、感情コントロール法、健康的な行動の仕方を学ぶ最もベーシックな手法です。
うつ病の治療、不安障害の治療に広く活用され、メランコリーにも効果的と言えます。心理療法を学んだことがないという方は是非下記のコラムを参考にしてみてください。
②ネガティブ反芻に気をつける
伊藤ら(2001)[5]は大学生,大学院生640人を対象に、
上図は、過去にうつ状態がなかった群と高群を比較したものです。メランコリー親和型については差がないことがわかります。つまり、メランコリー親和型自体は、うつ状態に影響を与えないと言えます。
一方で、ネガティブ反芻をすることにより、
上図は、うつ状態がない群はネガティブ反すう傾向が少なく、高群はネガティブ反芻が多いことを意味しています。すなわちマイナスな体験を繰り返し思い返すことで、うつ病の傾向が高まってしまうと言えるのです。
この点、メランコリー傾向がある方は、悲観的になるとしても、
詳しくは以下のコラムを参照ください。
③マインドフルネス療法
メランコリーは先天的な性格傾向であり、ある程度受け入れいく姿勢も大事です。受け入れていく姿勢を身に着ける手法としてはマインドフルネス療法がおすすめです。
マインドフルネス療法とは、不安を客観的に眺め、冷静に対処する力を高める心理療法です。ここ15年で研究が進み、うつ病にも効果があることがわかってきました。マインドフルネスの特徴としては、不安や悲しみを無理に無くそうとしない点にあります。
あくまで自然な感情として、ただあるがまま冷静に眺めることことを大事にしていきます。東洋的な考え方が土台にある心理療法で、日本人にもしっくりきやすいという特徴があります。以下のコラムを参照ください。
④悲しい時に対処する
メランコリーの方は悲しい気持ちになることが多く、ある程度自分の気質と付き合っていく必要があります。この時、悲しい気持ちになったときの自分なりの過ごし方を確立しておくといいでしょう。例えば、悲しい気持ちの時は、本を読む、掃除をする、漫画喫茶に行くなどが挙げられます。以下のコラムでは悲しい時の過ごし方について様々な提案をさせて頂きました。参考にしてみてください。
⑤心理師としての雑感
メランコリーは古くからある用語ですが、統計的な研究は少なく、歴史の研究や事例検討が中心となっています。メランコリーと言う用語は精神医学で使われ、心理学の研究では使われません。これはメランコリーという概念がやや不安定で扱いが難しいことに原因があると考えています。
一方で、心理学では、ビックファイブという性格傾向の1つでる「神経質」が統計的な研究としては豊富で、概念も安定しています。そう考えるとメランコリーという分類はしばらくは残るものの、心理学研究と統合されて、変化していくと筆者は感じています。
一般の方はメランコリーという用語にとらわれすぎず、落ち込みやすい性格傾向と考え、心理療法をコツコツ勉強していくことをおすすめします。
心理療法を学びたい方へ
メランコリー親和型コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。
・心を安定させる,認知行動療法の学習
・悲しい気持ちを緩和,認知の偏りの改善
・感情のコントロール法
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社会復帰の準備をしている時期、再発を予防したい時期におすすめです。皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください↓
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 中島義明,安藤清志,子安増生,坂野雄二,繁桝算男,立花政夫,箱田裕司(1999).心理学辞典 有斐閣
[2] 平倫子(2006).メランコリーの諸相 : Lewis Carrollの “Melancholetta” から派生するもの 北星学園大学文学部北星論集 43 (2), 73-91,
[3] tellenbach, H. (1961). Melancholie. Berlin: Springer.
[4] 安藤寿康(2000).心はどのように遺伝するか―双生児が語る新しい遺伝観,講談社
[5]伊藤拓,竹中晃二,上里一郎(2001).うつ状態に関与する心理的要因の検討 健康心理学研究 14 (2), 11-23, 一般社団法人 日本健康心理学会