ネット依存症のチェック,治療方法

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。今回は「ネット依存症」について解説をしていきます。

ネット依存の原因と問題

現代社会はSNSで世界中の方と、いつでもどこでもつながることができます。おそらく100年前の人が今の時代に来たら、夢のような世界と感じるのではないでしょうか。一方でネットには危険性があります。

ネットゲームを1日5時間以上している
会話中もスマフォが気になる
30分おきにSNSをチェックする
ラインのやり取りを1日50件近くしている

このような状態が続くとネット依存症の可能性が出てきます。そこで当コラムでは、ネット依存の正しい理解と対策をしっかりお伝えしていきます。目次は以下の通りです。

①ネット依存症とは何か
②ネット依存と様々な統計
③デメリット,メリット
④ネット依存症8つの対策

ネットを健康的に付き合うために、是非最後までご一読ください。

①ネット依存症とは何か?

ネット依存の始まり

インターネット依存症が認識されてきたのは1990年代です。精神科医のキンバリーヤング(1998)[1]が「インターネット依存」という言葉を最初に使い、全世界に広がっていきました。

日本では1995年以降にネットの普及が急速に進み、大人から子どもまで誰もがオンラインに触れることができるようになります。その中で、心身の健康に支障をきたすほどネットに没頭してしまう若者も増えてきました。

厚生労働省研究班の2017年の調査[2]によると、ネット依存が疑われる中高生は全国で推定93万人に上ることが分かりました。

ネット依存と診断基準

2013年になると、アメリカの精神医学会の診断基準で、インターネットゲーム依存症が定義されました。具体的には以下の9の項目のうち、1年の間で5つ以上あてはまると依存状態とみなされます[3][4]

ネット依存の診断基準案

②ネット依存と様々な統計

ネット依存については関連する様々な統計があります。以下折りたたんで掲載したので興味があるものをクリックしてみてください。現在、最新の情報に更新中です。

三島(2020)[5]は、高校生831名を対象に「自己意識」と「日常生活に対する主観的評価」がスマートフォン依存傾向とについて調査を行いました。

自己意識には大きく分けて、以下の2つがあります。

私的自己意識
→自分がありたいようにふるまう自己意識

公的自己意識
→周りにどうみられるか気にする自己意識

その結果、以下の図です。まずは私的自己意識から見ていきましょう。

ネット依存 自己意識B

このように、日常生活に生活に対する主観的評価の「良好群」は、私的自己意識が高まるにつれて、スマートフォン依存傾向がやや低下しています。一方で、「非良好群」は私的自己意識が高いほど、スマートフォン依存傾向も高まっていることが分かります。

日常生活がうまくいっていない人ほど、ネットで自分の居場所を探してのめり込んでしまうのかもしれません。

次に公的自己意識の結果を見ていきましょう。以下の図をご覧ください。

ネット依存 公的自己意識

このように、公的自己意識が高いと、日常生活に対する主観的評価の「良好群」「非良好群」のいずれも、スマートフォン依存傾向が高まっていることが分かります。

しかし、その得点は「非良好群」の方が高いことが示されています。公的自己意識が高い人は、周りの目を気にするあまり、インターネットにのめり込んでしまう傾向があるようです。

内閣府(2023)[6]の調査では、中学生・高校生のインターネットの利用に調査を行いました。その結果が以下の図です。

 

ネット依存 過剰利用

このように、中学生では30~40%もの生徒が1日5時間以上、ネットを利用していることが分かりました。そして男子生徒の方が、ややネット利用している傾向が高いことが分かります。

また高校生では、約50%もの生徒が1日5時間以上、ネットを利用していることが分かりました。特に高校生にとってはインターネットの存在は欠かせないものになっていると言えそうです。

 

株式会社ライボ(2022)[7]は、スマホを所有する社会人男女2,215人を対象にスマホ依存についてインターネット調査を行いました。

その調査の一部に、スマホ依存の割合を調べたものがあります。調査では、スマホ依存度のチェック項目に当てはまった数で依存度を測定しました。具体的には以下がチェック項目になります。

ネット依存とチェック項目

結果は以下のグラフのようになりました。

ネット依存の割合

このなかでは、6~8項目の「依存」が40%ともっとも多く、ついで、「やや依存」が32%と次に多い結果となりました。そして、3つの依存している派をすべて合計すると、79.6%もの人が多かれ少なかれ、スマホに依存していると言えます。

現代の社会人にとっては、スマホはなくてはなならないものであり、SNSだけではなく、「YouTube」や「Netflix」など最近ではコンテンツも拡充しているため、今後もますますネット依存の割合が増えていくいえるでしょう。

 

③デメリット,デメリット

ネットを過剰に利用すると、どのような影響があるのでしょうか。デメリットとメリットを折りたたんで解説しました。興味があるものをクリックしてみてください。

ネット依存とデメリット

佐藤ら(2015)[8]は、中学生から大学生を対象に、インターネット依存度と精神疾患のテストを行いました。その結果、全ての世代で、うつ症状とインターネット依存に関連のあることがわかりました。

ネット依存とうつ病の関連インターネット依存は運動不足、不安定な睡眠、会話の減少などをもたらします。その結果、うつ病を合併しやすいといえます。

大里ら(2014)[9]は、大学生を対象に、ネット依存と授業出席率の関係を調査しました。その結果の一部が下図となります。

ネット依存症と症状

図はのように、授業出席率が75%未満の人を示しています。ネット依存がある人は16.1%ととても高くなっている一方で、ネット依存が無い人が9.9%という結果になっています。ネット依存は学業に悪影響と推測できます。

河合ら(2011)[10]は日本最大級のSNSである「SNS X」を利用する、71,926ユーザーについて調査を行いました。以下の図は「犠牲にしたもの」についての結果の図となります。

SNS依存と利用実態についての調査

図のように、「勉強」「趣味」「仕事」など、本来やるべきことへの時間が少なくなっていることが分かりました。

久里浜医療センターの中山(2015).[11]は、ネット依存とBMI(体格指数)について調査を行いました。以下の図は、BMI(正常値22)が25以上の人を示しています。

ネット依存の症状と肥満の関係

インターネットに依存が無い人が3%に対して、インターネット依存場ある人は28.4%と、とても高くなっています。この結果から、インターネット依存の症状は、肥満につながると言えそうです。

河合ら(2011)[10]は、体への影響についても調査を行いました。以下の図を見てみましょう。

ネット依存による身体的問題

このように、「視力の低下」や「睡眠不足」など、身体面への影響が高いことが分かります。インターネット依存傾向が高まると、主に眠れなくなるなど心身へ悪影響を与えてしまうのです。

 

ネット依存とメリット

ネット利用についてはデメリットばかりではありません。メリットも確認しておきましょう。以下、折りたたんで記載しましたので、興味のある項目を展開してみてください。

河合ら(2011)[10]は日本最大級のSNSである「SNS X」を利用する、71,926ユーザーについて調査を行いました。以下のグラフはその結果の一部です。

コミュ力が上がる

このように、SNSを使うことで現実のコミュ力も上がることが分かります。インターネットにはまってる人は、内向的でおとなしいイメージを持たれがちですが、実際には社交性が高まるという効果もあるのです。

河合ら(2011)[10]はSNSと人間関係についても調査を子なっています。下図は結果の一部です。

SNS依存 友人が多い

図を見ると依存者の方が、人との交流、現実の友人数が増えています。ネット依存と言うと、家で引きこもっているイメージがありますが、SNSの利用に関しては現実の友人関係にも前向きな影響が一部あると推測できます。

 

④ネット依存症8つの対策

ここからは、ネット依存の方向けに8つの対策を提案させて頂きます。

①失うものを自覚する
②時間にルールを作る
③場所にルールを作る
④第三者に協力してもらう
⑤現実に近い手段を選択
⑥メタ認知力をつける
⑦打ち込むものに集中する
⑧医療機関の受診を考える

ネットの利用が過剰になっていると感じる方は、組み合わせてご活用ください。

①失うものを自覚する

ネット依存を改善するには、長時間利用することで失うものを、紙に書きだしてしっかり自覚することが大事です。例えば以下のように紙に書きだします。

失うもの
家族との会話 友人と遊ぶ時間 勉強をする時間 身体の健康を害する 睡眠時間

紙に書きだしたら、何回か復唱することをおすすめします。口に出してすことで、失うものを自覚し、ネットに依存しない意識を高めることができます。

②時間にルールを作る

長時間利用のリスクを自覚できたら、次に時間のルールを作ります。ルールについては、使いすぎない、何度も見ない、など抽象的な表現はNGです。以下のように数字を使うことをおすすめします。

SNSは1日30分まで
動画の視聴は夕食後1時間
ゲームは平日1時間 休日2時間まで

このように具体的な時間帯などを明確にしましょう。最近のスマートフォンでは使用履歴もチェックできますし、制限機能もついています。これらの機能も積極的に設定しましょう。

ネット依存症を克服するルール

 

③場所にルールを作る

時間ではなく、場所でルールをつくるやり方もあります。具体的には以下のやり方が挙げられます。

会話をするときは電源を切る 漫画アプリは電車に乗っている時 SNSは帰宅後ソファーでくつろいでいる時だけ

などが挙げられます。ゾーンごとに使えるアプリを限定しておくのも有効です。

④第三者に協力してもらう

ネット依存を脱却するには、周りの方の協力も必要です。特に家族に宣言することはとても有効です。例えば、家族に以下のように宣言してしまうことをおすすめします。

夜10時以降は使わない!と宣言し、もし使っていたら電源を強制的に抜いてOK

家族には実際に約束を破った場合は、情け容赦なく実行するように強く伝えましょう。

⑤現実の関係を優先する

ネットの利用が過剰になっている方は、なるべく現実のコミュニケーションに近い方を選択しましょう。

友人にお礼をする場合はSNSではなく実際に会ってお礼をする
仕事を手伝ってくれた同僚に直接ありがとうと言う

などネットとリアル、どちらの選択肢もある場合は、なるべくリアルに近い方を選ぶようにしましょう。

⑥メタ認知力をつける

ネット依存になりやすい方は、自分をコントロールすることができず、気が付いたら長時間没頭していたという方が多いです。この「気が付いたら…」という状態を改善するにオススメなのが「メタ認知力」です。

メタ認知力とは、自分を冷静に観察する力です。この力がつくと自分自身の行動を制御できるようになります。自分を止められない感覚がある方は以下のコラムを参照ください。

メタ認知力UPコラム

⑦打ち込むものに集中する

現実世界でのコミュニケーションを増やす事は、オンライン上での人間関係への依存傾向を減らすことにつながります。

可能であれば、カフェや飲み屋、サークル活動、地域のボランティア活動など、継続して関われるコミュニティを複数探してみてください。特に、健康的なコミュニティに所属するのはオススメですね。たとえば、

ホットヨガ フットサルサークル バンド活動 ジム 歌のサークル 健康麻雀

などがおすすめです。現実世界でのコミュニケーションを増やすことで、ネットに偏らない場所づくりをしていきましょう。

⑧医療機関を視野に

インターネット依存については、ゲーム障害が2019年に正式に病名として採用されました。その他のSNS依存、買い物依存などについては、正式な診断名はありません。しかし、現在様々な医療機関で、積極的に治療されはじめています。

①~⑦の手法を試してもうまく行かない場合か、既に重篤化していると感じている場合は、医療機関の利用も視野に入れましょう。詳しくは以下のリンクを参考にしてみてください。

ネット依存,医療機関一覧

SNS疲れの対策を心理学の専門家が解説

 

まとめ

ネット依存について、ネット依存症の診断基準やネット利用のメリット・デメリットを、心理学の研究や統計を交えながら解説しました、

依存性の改善には時間がかかるかもしれません。しかし、徐々にでもしっかり対処していけば必ず回復できます。自分に合ったルールを決めてしっかりと対処してネット依存を緩和していきましょう。

コミュニケーション講座のお知らせ

私たち公認心理師は心理療法や人間関係を健康的に築く講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・現実の人間関係を豊かにする,SSTトレーニング
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興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。

コミュニケーション講座,心理療法の学習

 

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Young, K. S. (1998). Internet addiction: The emergence of a new clinical disorder. Cyber Psychology & Behavior, 1, 237–244.

[2] 樋口進 ゲーム障害について(独)国立病院機構久里浜医療センター依存症対策全国センタ

[3] 高橋三郎,大野裕(2014).DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院

[7] 株式会社ライボ(2022).2022年 スマホ依存の実態調査

[8] 佐藤 寛・松原正平・石川信一・高橋 史・佐藤正二(2014).「発達的観点に基づくインターネット依存の疫学調査」,研究助成論文集(50),68-76,明治安田こころの健康財団.

[9] 大里貴子・松本さゆり・五味愼太郎,他(2014).「大学生におけるインターネット依存と学年ならびに日常生活状況の関連性に関する調査」,Campus Health,51,195-197,

[10] 河井ら(2011).SNS依存とSNS利用実態  日本社会情報学会全国大会研究発表論文集 26(0), 265-270

[11] 中山秀紀(2015).「特集:現代の若者のメンタルヘルス 若者のインターネット依存」日本心身医学会,55:1343-1352.