強迫性障害とは何か

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「強迫性障害」です。強迫性障害の理解を深めて、症状の改善に役立ていただけたらうれしいです。目次は以下の通りです。

①強迫性障害とは
②種類
③強迫性障害の問題
④治療方法
⑤具体的な事例

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に、特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。動画にもまとめています。参考にしてみてくださいね♪

①強迫性障害とは

定義

強迫性障害とは次のように定義されています。

不合理な考えが繰り返し浮かび生活に支障のある行動が止められない障害

強迫性障害になると、頭の中に非現実的な考えが何度も思い浮かんでしまい、追い詰められるように異常な行動を繰り返してしまうのが特徴です。

強迫観念とは

強迫性障害の人は、強迫観念を持っている方が非常に多いです。強迫観念とは

異常な考えや非日常の考えが頭の中をぐるぐる回る状態

になります。強迫概念は不安を生みます。強迫性障害の人は、この不安を取り除こうとして強迫行動を起こし、更に大きな強迫行動をするようになってしまうのです。

たとえば、数字の9にこだわる人が、携帯電話のアドレスに9が入っていたことを見つけたとします。絶対に不吉なことが起こる!と強く思ってしまい不安を消すため、アドレスを変えます。不安は一時的に小さくなります。

心の悪循環

しかし、ここが問題です。強迫行動をとると一時的に成果がでてしまいます。この一時的な成果が落とし穴になってしまうのです。強迫観念が残っているため、時間の経過と共にまた別の不安がでてきてます。再度出現した不安は、より大きくなっているため今までは気にならなかったような小さなことも気になってしまうのです。

不安を消去しても時間が経つと、もっと不安が大きくなってしまいます。これが繰り返されて、強迫行動はどんどん大きくなってしまうのです。

診断基準

強迫性障害の診断基準は以下の通りです。理解を深めたい方は展開してみてください。

精神疾患の診断基準であるDSM-5[1]によると、強迫性障害の診断基準は以下となります。

A.以下の「強迫観念」「強迫行為」またはその両方が存在する

強迫観念
(1)繰り返される持続的な思考、衝動、イメージで、侵入的で不適切なものとして体験されており、たいていの人において強い不安や苦痛の原因になる。

(2)その思考、衝動、イメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動によって中和しようと試みる

強迫行為
(1)繰り返しの行動(例:手を洗う、順番に並べる)や心の中の行為(例:祈る、数える)であり、強迫観念に対応して厳密に適用しなくてはいけないある決まりに従ってそれらの行為を行うように駆り立てられているように感じている。
(2)その行動または心の中の行為は、不安や苦痛を避けたり緩和すること、または何か恐ろしい出来ごとや状況を避けることを目的としている。しかしその行動または心の中の行為はそれによって中和したり予防したりしようとしていることとは現実的な意味ではつながりを持たず、明らかに過剰である。

B.強迫観念、強迫行為は時間を浪費させる(1日1時間以上かける)または、意味のある苦痛を感じ、または社会的、職業的、他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

C.その障害は薬物などの物質、他の医学的疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。

D.その障害は他の精神疾患の症状ではうまく説明できない。

 

②種類

強迫性障害には様々な種類があります。ここでは代表的な5つを紹介します。

汚染の心配

掃除や洗浄に関する強迫性障害になります。いわゆる潔癖症です。外出するたびにシャワーを浴びたり、洋服を全て着替えなおしたりします。

人や自分を傷つける心配

大事な誰かを傷つけてしまうのではないか・・・という考えに捉われてしまう強迫性障害です。例えば、「運転中に暴走して事故を起こしてしまうのではないか」「家族を突然殴ってしまったらどうしよう」といった考えに捉われてしまいます。

正確性の追求

物事がきちんと正確になされているか・・・という考えに捉われてしまう強迫性障害です。例えば、鍵のかけ忘れをなんども確認してしまう方もいます。強迫性障害のレベルになると、3回、4回、多い場合には10回も確認してしまいます。

数字へのこだわり

特定の数字を極端に嫌ってしまう強迫性障害です。例えば、特定の数字が入った商品を手に取れない、嫌いな数字が入った部屋に泊まれないなど、数字へのこだわりが過剰になってしまいます。

対称性へのこだわり

均一でないものがあるとすごく気になってしまう強迫性障害です。例えば、部屋の雑貨がきまった位置にないと気が済まない、家族が家具を移動すると異常に怒るといった状態になります。

それぞれの発生確率については下記を参照ください。[2]

強迫性障害とは

 

③強迫性障害と問題

強迫性障害になると、さまざまな問題を抱えることとなります。

時間の喪失

膨大な時間を失うことになります。例えば、潔癖症の人であれば、着替えや消毒など現実的にはあまり意味のない行動に貴重な時間を費やしてしまうのです。

行動範囲の縮小

極端なこだわりから行動範囲が狭まってしまいます。例えば、特定の数字が嫌いな場合、数字を扱う仕事はできなくなります。場合によっては、数字へのこだわりから、お店に入れないなど、行動範囲が狭まってしまうのです。

他人を巻き込んでしまう

周囲の人を巻き込んで感情をぶつけてしまうことがあります。他人の巻き込みは、大きく分けて「強制型」「代行型」の2つあります。

強制型
「あなたも○○しなさいよ!」と命令します。例えば、対称性へのこだわりがある場合、コップの位置が少しでも移動すると怒ってしまう。

代行型

「代わりに○○してよ!」と命令します。例えば、鍵が締まっているか不安になり家族に連絡をして確認に行かせてしまう。

併発率・有病率など

強迫性障害の約6割がうつ病を併発すると言われています。生活の質(QOL)が低くなりストレスの多い生活になるため、精神疾患を発症しやすくなるのです。松永ら(2004)[3]の調査によると、強迫性障害の割合は受診した患者の1.75~3.82%であったとしています。

⑤治療方法

治療にはさまざまな方法があります。今回は、中核となる4つの治療方法を紹介します。

①行動分析
②不安の理解
③暴露反応妨害療法
④認知療法

①行動分析

強迫性障害が起こる心と行動のプロセスを分析していく手法です。ワークシードなどを使い、自分の強迫観念や強迫行動がどのように悪化していくのかを冷静にみつめるようにします。厚生労働省が公開しているワークシートを使うのがおススメです。

強迫性障害 ワークシート

 

*図中の用語
先行刺激:不安になる出来事
強迫観念:頭の中をぐるぐる回るこだわり
強迫行動:不安を取り除く行為

ワークシートにまとめていく中で、自分にどのようなことが起きているのかが客観的に分かるようになります。詳しくは以下を参照ください。

強迫性障害の認知行動療法 マニュアル

②不安の理解

強迫性障害は「不安をうまくコントロールできない心の病気」と言い換えることができます。不安の性質をしっかり理解しておくと不安への対処がしやすくなります。以下の図は厚生労働省が公開している不安の程度が時間と共にどのように変化するかをまとめたものです。[4]

強迫性障害 

不安は長く続くものではありません。不安が軽減していく経験をすることで「強迫行動をしなくても自然にまかせておけば良い」と思えるようになります。

③暴露反応妨害法

暴露反応妨害法は、暴露療法と反応妨害療法の2つを足した療法になります。

・暴露療法
強い不安があった時には逃げずに行動する方法です。例えば「潔癖症の方に電車の吊革を触ってもらう」「数字への恐怖があれば、その数字を眺めてもらう」などを行います。具体的には不安構造表を作って行います。自分の主観で不安にレベルを付けて不安が小さいものからチャレンジしていきます。

強迫性障害 

 

・反応妨害療法
強い不安に対しての異常行動をやめる方法です。例えば「潔癖症の方の、何度も着替えるという異常行動をやめる」「鍵の閉め忘れで何度も帰宅するのであれば、家に帰らず目的地に向かう」などを行います。具体的には、不安を感じる行動を実際に行って、心の動きを時間経過と共に観察していきます。

強迫性障害 

まず反応妨害することを宣言します。そのうえでこだわりが強い場面について、強迫行動をせず不安の程度を見ていきます。時間の経過と共に不安が小さくなっていく経験をすることがポイントになります。

以下の図をご覧ください。暴露反応妨害法は、回数を重ねるごとに不安が小さくなっていきます。

強迫性障害

最終的には「不安を自分でコントロールできる!」と実感できるようになり不安とうまく付き合うことができるようになるのです。是非いかしてみてください。

 

④認知療法

認知療法は考え方を合理的、現実的にすることで、感情を安定させたり、健康的な行動をとれるようにする心理療法です。例えば、以下のような考えと行動になっている方がいたとします。

4という数字は不吉で病気や死に至る
(認知)

4階に行けなくなる
4両目に乗らない
電話番号に4がついていると変える
(行動)

このように考えていると、生活のあらゆる場面で行動が制限されてしまいます。そこで考え方を次のように改善していきます。

4という数字は不吉で病気や死に至る
科学的には実証されているわけではない
逆に生活が不便になる
こだわりすぎないようにしよう
(認知)

不安を感じながらも4階に行く
不安を感じながらも4両目に乗る
不安を感じながらも4のつく電話番号を使う
(行動)

この例はかなりうまくいったケースを極端に表しています。現実的には考え方が強いほど、修正には時間がかかります。認知療法について理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。

認知療法の基礎,やり方

⑤具体的な事例

以下強迫性障害についての具体的な事例です。折りたたみを展開して参考にしてみてください。


小林,坂井(2021)[5]は強迫性障害を持つ人の病気の考え方についてインタビューを行っています。

・40代女性
・不潔恐怖と地面恐怖がある
・20代の頃から精神科を受診

この女性の症状は、地面に触れるものへの恐怖や、不潔への恐怖があり、日常生活に支障が出てしまっています。

1.外食場面の恐怖

外食では席に着く際に以下のような思考になり、恐怖を感じるとしています。
「前の人が地べたに座っていたかもしれない」→「服にそれが付く」→「自転車に乗るとそれがサドルに付く」
といった思考になり、外食をするのができないと言います。また、汚れについては「それ」と表現し、直接地面に接触しなくても、間接的に接触が考えられるものは恐怖の対象になっています。

2.手洗い場面の恐怖

蛇口や石鹼のポンプに手が触れた際に、「洗ってないかもしれない」と不安になり、何度も洗う。洗い終わったあとに、ペーパーを取り出してうっかり容器に触れてしまうと、また最初から洗い直す…。ということを繰り返し、手がガサガサになって、ひび割れや出血を起こしています。

2つの場面から考えられることは、どちらもはっきりと目に見える形で汚れが知覚されていないことです。はっきりと知覚できないからこそ、不安や恐怖を喚起してその場を避けたり、何度も洗うなどの行為につながっていることが考えられます。

強迫性障害には曝露反応妨害法が有効であると述べました。ここでは、実際に治療を行った例を紹介します。仁藤,奥田(2021)[6]の研究では、家族の協力を得ながら曝露反応妨害法によって強迫障害への治療を行った例を紹介しています。

・30代男性
・不潔恐怖があり、除菌シートで自分や家族の体を拭く行為がある
・入浴中は自分の体を洗うのに時間がかかり、浴室の掃除に長時間費やす
・入浴に時間がかかり布団で寝れていない

この男性に対し、妻の協力を得ながら曝露反応妨害法による以下の介入を行っています。

・除菌シートを使わずにドアノブや椅子の座面を触る
・入浴時間の制限をして洗浄行為を減らす

その結果、除菌しないまま子供を抱っこしたり、入浴の時間が短縮されたことで布団で寝れるようになったとしています。

 

心理療法を学びたい方へ

強迫性障害コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・心を安定させる,認知療法の学習
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心理療法の講座のお知らせ

最後に、これまで「強迫性障害」コラムにお付き合いしていただき、ありがとうございました。必要以上に潔癖になっててまう方、誰かを攻撃してしまうのではないかと考えてしまう方、数字や物の配置にすごくこだわってしまう方は、コラムで紹介した内容を参考にしてみてください。

公認心理師など専門家から心理療法や人間関係を学びたい!という方は良かったら私たち公認心理師が開催している、心理学講座への参加をおすすめしています。講座では

・認知行動療法の学習
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などを学習していきます。参加のタイミングとしては、社会復帰の準備をしている時期、復帰後に再発を予防したい時期におすすめです。皆さんのご来場をお待ちしています。↓興味がある方は以下の看板をクリック♪↓

強迫性障害の種類と治療法,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 高橋三郎,大野裕(2014).DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院

[2] H. Matsunaga, N. Kiriike, A. Miyata, Y. Iwasaki, T. Matsui, T. Nagata, Y. Takei, S. Yamagami(2007). Personality disorders in patients with obsessive-compulsive disorder in Japan Acta Psychiatrica Scandinavica Volume98, Issue2 Pages 128-134

[3] 松永寿人,切池信夫,大矢健造,守田嘉男,中井丈夫,福居顕二,山下達久,吉田卓史,多賀千明,岸本年史,徳山明広,洪基朝,米田博,西田勇彦,稲田泰之,木下利彦,柳生隆視,越智友子,武田 雅俊,中尾和久,渡邊章,前田潔,千郷雅史,中嶋照夫(2004).強迫性障害(OCD)に関する9施設共同研究-半年間の総初診患者におけるOCD患者の割合,およびその臨床像に関する検討 精神医学 46 (6), 629-637

[4] 中谷江利子,中川彰子 強迫性障害(強迫症)の認知行動療法 マニュアル (治療者用) 厚生労働省

[6] 仁藤二郎,奥田健次(2021).強迫性障害の男性に対する曝露反応妨害法による介入―日常生活における行動指標の測定と介入効果の検証―日本行動分析学会 行動分析学研究36(1)27-36