強迫性パーソナリティ障害とは何か

みなさんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「強迫性パーソナリティ障害」です。目次は以下の通りです。

①強迫性パーソナリティ障害とは
②診断の流れ、診断基準
③治し方,心理療法
④具体的な事例

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

①強迫性パーソナリティ障害とは

強迫性パーソナリティ障害とは

強迫性パーソナリティ障害は精神医学事典(2011)[1]で以下のように定義されています。

さまざまな形の完全主義と柔軟性のなさによって特徴づけられるパーソナリティの障害。患者はしばしば厳しい規律によって特徴づけられる背景をもっている。

完璧さを求めすぎたり、柔軟性が欠けてしまうことで、仕事で支障がでたり、日々の生活で不自由さが生まれてしまうこともあります。

有病率

強迫性パーソナリティ障害の有病率は2~8%[2]といわれています。男女比は男性の方が多いとも言われています。

位置づけ

強迫性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害の中の1つです。パーソナリティ障害は3つの群にわけられます。

A群
奇異的な考え,理解しがたい行動が目立つ

B群
情緒不安定,激しい行動が目立つ

C群
不安が強い,内向的

強迫性パーソナリティ障害はC群のうちの1つとされています。C群の中で他には依存性パーソナリティ障害、回避性パーソナリティ障害が含まれています。

パーソナリティ障害とは何か

強迫性障害との違い

同じ”強迫”という言葉が使われている疾患に、「強迫性障害」があります。しかし、強迫性障害と強迫性パーソナリティ障害は、本質的には違う疾患であるとしています。

強迫性障害は、強迫観念、強迫行為など、考え方や行動の問題が特徴となります。例えば、頻回に手を洗う、何回も確認する等が挙げられます。

一方で、強迫性パーソナリティ障害は、柔軟性に欠ける、融通のきかなさなど、性格や特性の問題が特徴となります。例:完璧すぎる性格、極端な頑固さが挙げられます。

両者は同じような行動をすることがありますが、疾患の性質としては違うことがわかります。強迫性障害について理解を深めたい方は以下を参照ください。
強迫性障害の種類と治療法

②診断の流れ,基準

診断の流れ

実際の診断は精神科や心療内科で行われます。ただし初診から強迫性パーソナリティ障害という診断名がつくことは稀です。何度も面接を重ね、症状の変化などを把握する必要があるからです。

診断基準

精神疾患の診断基準であるDSM-5[3]では、強迫性パーソナリティ障害の診断には以下の基準があります。

秩序、完璧主義、精神および対人関係の統制にとらわれ、柔軟性、開放性、効率性が犠牲にされる広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つまたはそれ以上によって示される。

①細目、規則、一覧表、順序、構成、予定表にとらわれ、活動の要点が失われる
②課題の達成を妨げるほどの完璧主義
③娯楽や友人関係を犠牲にしてまで、仕事と生産性にのめりこむ
④道徳、倫理、価値観について、過度に誠実で良心的かつ融通がきかない
➄感傷的な意味を持たなくなってでも、使い古した、または価値のないものを捨てることができない
➅自分のやるやり方通りに従わなければ、他人に仕事を任せることができない
⑦自分のためにも他人のためにもけちなお金の使い方をする。お金は将来の破局に備えてためておくものと思っている
⑧堅苦しさと頑固さを示す

③強迫性障害の原因

曖昧さ耐性の低さと強迫行為

清水ら(2017)[4]は、大学生216名を対象に実施された研究で、あいまいさの受容と強迫行為の関連性を調査しました。その結果は、次の図です。

白黒思考

上図の結果から明らかなように、曖昧さを受け入れることが難しい人ほど、強迫行為が増加しやすい傾向が見受けられることがわかりました。強迫行為とは、手洗いを繰り返す、鍵の確認を何度も行う、特定の数字を避けるなどが含まれます。

たとえば、鍵を施錠したことは記憶しているものの、「確信を持てない」という状況では、鍵が確実に施錠されたという証拠が得られない限り、安心できず何度も確認を繰り返す傾向があります。

汚染不安の要因にも

清水ら(2017)[4]は大学生216名を対象に、あいまいさの受容と汚染不安との関係について調べました。その結果が以下の図です。

白黒思考

上記は、曖昧さの受容が苦手ほど、汚染不安が増えやすいことを意味しています。汚染不安とは、自分の身体が少しでも汚れることを極端に

例えば、過剰に手を洗い続ける人は、「細菌が体に入ると病気になる」「少しの汚れが命にかかわるかもしれない」と極端に考えるため、行動も極端になってしまいます。

④治し方,心理療法

強迫性パーソナリティ障害は大きくわけて心理療法と薬物療法の観点から治療をしていきます。当コラムでは、心理療法の視点から、よく使う対策を紹介します。

①認知療法
②行動療法
③森田療法
④完璧主義を緩める
⑤自己受容を進める

ご自身に役立ちそうなものを組み合わせてご活用ください。

①認知療法

強迫性パーソナリティに対する心理療法の1つに認知療法があります。認知療法は考え方の偏りを柔軟にほぐす手法です。何事も柔軟に考えられない強迫性パーソナリティの人は「予定通りに進めなければならない」「この仕事はこのやり方ではないといけない」など偏った”べき思考”を持っています。

認知療法ではこれらの、偏った思考を現実的にしていく練習を行います。認知療法は体系化された心理療法でマスターしやすいので、学習したことがない方は以下のコラムで理解を深めることをおすすめします。

認知療法のやり方

②行動療法

行動療法は新しい学習を通して、行動のありかたを変えていく方法です。強迫性パーソナリティの人は、細部にとらわれて本来の課題や計画を達成できないという特徴があります。この時、不安な気持ちを、点数化して、まずは小さな不安があるものについては思い切って行動する練習をしていきます。細部へとらわれて生活の行動範囲が狭くなっている、という方は下記のコラムも参考にしてみてください。

行動療法のやり方とは

③森田療法を学ぶ

森田療法は感情や気分に左右されずに、自分の課題に目を向けることで症状の改善を目指す心理療法です。森田療法では、感情を無理に押さえつけるのではなく、自然な感情として「あるがまま」受け入れ「目的本位」に生きることを大事にしていきます。森田療法は東洋的な思想が基盤にあり、日本人に馴染みやすい心理療法です。興味がある方は以下のコラムを参照ください。

森田療法のやり方

④完璧主義を緩める

強迫性パーソナリティの人の特徴として、完璧主義であることが挙げられます。これは、自分自身にだけでなく、周囲の人にも求めてしまいがちです。この完璧主義を完全になくすことは難しいですが、もう少し緩めることで対人関係でも柔軟に対応できます。完璧主義について理解を深めたい方は以下のコラムをご参照ください。

完璧主義をやめる3つの方法

⑤自己受容を進める

これまでの研究で人間の性格はおよそ30~50%程度、遺伝が影響することがわかってきています(安藤ら,2000)[5]。そのため、完璧主義な傾向やこだわる傾向をすべて柔軟にするのは現実的ではないこともあります。自分自身の性格を受け入れて、長く付き合っていく覚悟が必要になる方も多いでしょう。自己受容については以下のコラムを参照ください。

自己受容のやり方,方法

⑤具体的な事例

ここでは強迫性パーソナリティ障害の具体的な事例を紹介します。

宮谷ら(2006)[6]では入院治療により強迫性パーソナリティ障害を改善した例を紹介しています。

・44歳女性
・家事を強迫的に続けて身体症状が悪化
・疲れていても休めない

この女性は12歳で母親が病気で倒れて、家事をすべて担いながら勉強も頑張っていました。それにも関わらず、父親や姉からは認められずに暴力を受けていました。

結婚後に麻痺が出現しリハビリによって歩けるようになりましたが、それを認めてくれる人はいなかったとしています。入退院を繰り返した後、6年間は外来で通院をしていました。外来では、自身の努力が認められない状態と、主治医への要求水準が高い状態が続いていました。

そこで、夫がうつ病に伴い強迫的に家事をし続けたため、安静・休養目的に1か月間入院をしていきます。入院という適度に依存できる環境の中で、対象者の強迫性を確認していくことができます。その結果、「私不満があっても逃げずに頑張っているでしょ?」と自らの努力が認められるようになりました。さらに、強迫性の症状も緩和していったとしています。

このように、強迫性パーソナリティ障害の人は完璧主義で、自身を犠牲にしても義務を全うしてしまう傾向にあります。こうした状態に対しては、少し違った環境に身を置くことで、休養をとっていくことも大事です。

 

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 加藤敏, 神庭重信, 中谷陽二, 武田雅俊, 鹿島晴雄, 狩野力八郎, 市川宏伸 編(2011).現代精神医学事典 弘文堂

[2] ベンジャミン・J.サドック/ヴァージニア・A.サドック(2016). カプラン臨床精神医学テキスト – DSM-5診断基準の臨床への展開 (第3版) メディカルサイエンス・インターナショナル

[3] 清水健司 清水寿代(2016). 思考抑制と曖昧さ耐性が強迫傾向に及ぼす影響 信州大学人文科学論集 4 103-112, 信州大学人文学部

[4] 高橋三郎,大野裕(2014).DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院

[6] 宮谷由希子,細井昌子,津元智子,横山寛明,安藤勝己,判田正典,大谷弘行,山城康嗣,有村達之,久保千春 (2006).身体症状を愁訴とする強迫性人格障害の入院治療の意義 日本心身医学会 心身医学 46 (4), 339-340