被害妄想の特徴,症状
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している、公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「被害妄想」です。当コラムでは被害妄想を基礎から一通り解説していきます。目次は以下の通りです。
①被害妄想と症状
②被害妄想の種類
③被害妄想の心性
④治療方法
当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。
お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。
①被害妄想とは
被害妄想とは
精神医学事典(2011)によると被害妄想は以下のように定義されています[1]。
他者から嫌がらせをされる、危害を加えられるといった、自分自身が被害を被ることをテーマとする妄想の総称
被害妄想は統合失調症、妄想性障害の症状として現れることが多いです。こうした妄想の内容は現実的にはあり得ず不合理なものです。そして、内容を訂正ししても不可能で、確信を持っていることが特徴です。てんかん、認知症などにおいても現れることがあります。
症状
被害妄想には、”自分が害を加えられている”という確信を中心に、様々な症状があります。
①対人的な被害
「誰かが自分の悪い噂を流している」「誰かにあとをつけられている」など
②物理的な被害
「食事に毒を盛られている」「電波が頭の中に入ってくる」など
③物盗られ
「バックを盗まれた」「財布からお金が抜き取られた」など
主に①と②は統合失調症の症状で、③は認知症の症状としてあげられます。
②被害妄想の種類
関係妄想
周囲の人の態度や行動を自分と関連付ける妄想です。
例:「自分の噂や悪口を言っている」「テレビで自分のことを報じている」
注察妄想
他人から監視されているなど、自分が常に見られていると思う妄想です。
例:「監視カメラで行動が観察されている」「盗聴器が仕掛けられている」
追跡妄想
誰かに跡をつけられていると感じる妄想です。特定の人ではなく、団体や組織から追われていると感じる場合もあります。
例:「警察に追われている」「自分の様子が探られている」
被毒妄想
食べ物や飲み物に毒を入れられていると妄想することです。幻味や幻嗅などの幻覚を伴うことがあります。
物理被害妄想
電波やテレパシーなどの物理的な障害で、自分の考えが乱されていると妄想することです。
例:「頭の中に電波が入ってくる」「テレパシーによって動かされている」
③被害妄想の心理
金子(1999)[2]は学生261名を対象に被害妄想の心理について調査を行いました。その結果以下のことがわかりました。
自己関連付け
尺度を作成する過程で、被害妄想には1つ目の因子として「自己関連付け」があることがわかりました。自己関連付けとは、周りに起こるなんらかの出来事が自分と関連していると感じる心を意味します。この意味で被害妄想がある方は、周りの出来事を自分のこととして考える傾向が強いと推測されます。金子の研究では以下の結果も得られています。
こちらの図は、自己関連付けが強い人は、他人の心を読みやすい、人間関係であれやこれや考えやすい、周りの人の見た目に囚われやすいことを意味しています。
猜疑心
尺度を作成する過程で、2つ目の因子として「猜疑心」があることがわかりました。被害妄想がある方は、疑い深く、自分が攻撃されているのではないか、ネガティブな評価をされているのではないか、と感じやすいと推測されます。金子の研究では以下の結果も得られています。
こちらの図は、猜疑心が強い人は、周りからみた自分をあまり考えない、自分の気持ちに焦点をあてやすい、人間関係で不安を抱えやすいことを意味しています。被害妄想を抱えている方は、周りからの評価を感じる余裕がなく、自分のことで精いっぱいになっていると推測されます。
④被害妄想の治療
被害妄想については、統合失調症に準じた治療法が基本で、薬物療法の場合は、抗精神病薬が使われることが多いです。また臨床心理学や精神保健福祉の観点から、以下の対策がよく行われます。
①心理教育
②認知行動慮法
③SST
④入院治療
⑤作業療法
①心理教育
被害妄想については、自己理解を深めることは何より大事です。障害の特性を理解すると、妄想が出た時にいたずらに混乱することが減り、冷静に対処する力をつけることができます。具体的には、専門家から話を聴く、書籍を読む、克服した当事者の方のSNSや動画を見るなどが挙げられます。
②認知行動療法
認知行動療法は様々な心理学のエッセンスが盛り込まれた心理療法です。認知行動療法は大きく分けると2つの分野があります。
・認知療法
思考の歪みを発見し、現実的にしていく手法です。合理的でないない考え方になりやすい時に効果的です。認知療法を学ぶと気分の波を緩やかにすることができます。
・行動療法
行動療法は行き過ぎた行動を修正する練習をする手法です。例えば、身体的な疾患の妄想が出たときに、仕事に行けなくなってしまう方がいたら、スモールステップを作って、少しずつ会社にいけるように訓練をしていきます。
詳しく学習したい方は以下のコラムを参照ください。
③SSTで社会性を身につける
SSTはソーシャルスキルトレーニングの略で、社会性を身に着ける様々なトレーニングの総称です。被害妄想は、治療期間が長引くと、人間関係に支障が出てきて、不安定になることがあります。SSTではこれらの関係性を回復するスキルのかくとくをめざしていきます。
SSTについては、筆者が講座を開催しています。参加のタイミングとしては、症状が落ち着いた頃に、ちょうどいいと思います。興味がある方は以下のリンクを参照ください。
④入院治療
症状が深刻で生活がままならない場合は、入院をして集中的な治療をすることもあります。入院治療の必要なケースは
日常生活が成りたたない
暴力など他者を傷つける恐れがある
自傷、自殺など自身の生命の危険の恐れがある
などのケースが考えられます。場合によっては、本人が抵抗してスムーズな入院治療が難しいことがあります。その場合は、家族の同意が得られれば入院治療が進むことがあります。これは医療保護入院と呼ばれます。入院後は、薬物療法や心理療法を基本としながら、生活リズムを整え、社会復帰を目指していくことになります。
⑤作業療法
被害妄想によって症状が落ち着かない場合は、入院による治療が必要になるケースがあります。入院では日々の社会的なスキルを維持したり、回復したりするために作業療法を行うことがあります。作業療法では、以下のような活動をします。
*体力強化維持のためのプログラム
スポーツ 家庭菜園 体操など
*気分転換のためのプログラム
レクリエーション カラオケ 音楽鑑賞
*社会生活への適応のためのプログラム
料理 掃除 会話の練習
などがあります。作業療法を行う上では、妄想という症状に対して、作業という現実の活動に目を向けながら実践していくことが大事になります。
心理療法を学びたい方へ
被害妄想コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。
・心を安定させる,認知行動療法の学習
・辛い気持ちを緩和,認知の偏りの改善
・現実的に出来事を捉える練習
・健康的に生きる,生活環境の作り方
社会復帰の準備をしている時期、再発を予防したい時期におすすめです。興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 加藤敏,神庭重信,中谷陽二,武田雅俊,鹿島晴雄,狩野力八郎,市川宏伸(2011).現代精神医学事典 弘文堂
[2] 金子一史(1999).被害妄想的心性と他者意識および自己意識との関連について 性格心理学研究 8巻 1号