書痙の特徴,症状

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している、公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「書痙」です。

書痙,taako様作成

当コラムでは書痙を基礎から一通り解説していきます。目次は以下の通りです。

①書痙と症状
②書痙の原因
③間違えやすい疾患
④書痙の治療法

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

書痙とは

書痙とは

まずは書痙とは何かについて押さえていきましょう。臨床心理学辞典によると、書痙(writer’s cramp)とは以下のように定義されています。

人前で書字をする際に筋緊張が生じて手が震えてしまい、うまく字が書けなくなる神経症的な症状の一つ

ここでの定義はあくまでも精神的な要因であることがポイントです。書痙は長らく心理的な問題によっておこるとされていました。一方で、平(2005)「1」は以下の可能性を示唆しています。

書痙は上肢の局所性ジストニアで、大脳基底核などの機能異常によるもの

局所性ジストニアとは自分の意志とは無関係に体が動いてしまう神経疾患を意味します。局所性ジストニアは体の仕組みの問題なので、原因を心に求めてもうまく治療ができないことがあります。

このように現代の書痙は

・心因性によるもの
・局所性ジストニア

の2つの視点から考える必要があると言えます。どちらか一方の原因と断定できるものではなく、局所性ジストニアと心因性の両方が関連しているケースもあると推測されます。

症状

前者の心因性の場合、人前で字を書くときに緊張してうまく字が書けなくなります。これは書字の時だけに起こり、他の動作では普通に行えることが特徴です。例えば、

結婚式の記帳で手が震えて名前が書けない
テストの答案が記入できない
契約書に字が書けない

などが挙げられます。

書痙の有病率

書痙のみの有病率について、根拠のあるデータは今のところないようです。局所性ジストニアを含めた場合の有病率は10万人に15~20人の割合であると言われています。山下,西上(2014)「2」

さらに書痙のみの割合で考えると稀な病気であると言えます。

間違えやすい疾患

パーキンソン病

パーキンソン病とは動きが鈍くなったり、震えが起こる神経性疾患です。特に震えが起こることを振戦といい、手の震えを書痙と間違えやすいことがあります。パーキンソン病の振戦の場合は何もしていない時に震えることが基本的ですが、文字が小さくなくなったり、稚拙さが目立つことがあります。

本態性振戦

本態性振戦とは手や腕に律動的な不随意運動がみられる症状です。不随意運動によって、書字が困難になることがあります。遺伝的な要因が大きく、最低5年は継続して症状があります。心因性、外傷性、薬物性などの要因によるものは含まれません。

これらの疾患による書字の困難には、心因性のものとは別に考える必要があります。脳や神経系の異常によるものなので、脳や神経の専門科に受診する必要があります。

 

書痙の心理療法

当コラムでは、臨床心理学や精神保健福祉の観点から、心因性の書痙に対してよく使う対策を紹介します。

①系統的脱感作
②行動療法
③森田療法
④薬物療法

①系統的脱感作

系統的脱感作が書痙の治療に効果的だったという報告があります。系統的脱感作とは、不安階層表や全身をリラックスさせる方法を使って、不安を軽減させていくものです。

柴田ら(2014)「3」は神経内科で心因性の書痙患者に対して、系統的脱感作を導入した例を紹介しています。

・23歳女性
・学校で落第点や、対人関係のストレスで心因性の書痙と診断
・対人緊張場面で書字困難になり、動悸や呼吸困難もあり

この女性に対して系統的脱感作や自律訓練法を実施し、緊張や症状をコントロールできるたびに賞賛や励ましを与えることを中心に進めています。その結果、書字の不随意運動が軽快し、中断していた就職活動も再開できるようになりました。系統的脱感作によって、緊張の緩和や不安が軽減し、書痙の症状そのものの回復につながるとしています。

②行動療法

行動療法とは、人の行動は学習に基づくものであり、不適応な行動に対しては、新たな学習をすることによって変容できるとする心理療法です。書痙に対してはバイオフィードバック法という行動療法が有効的であるとしています。

バイオフィードバック法とは、自分でコントロールできない生理的な反応を、視覚的にモニターすることで、体の反応をコントロールする技法です。字を書く際に震えてしまう症状に対して、手の筋肉から筋電図を使う方法が多いです。書字の際に生じる過剰な筋収縮を抑制して、正常な書字ができるように筋肉の再教育を行うことで症状が改善されます。行動療法については以下のコラムを参照ください。

行動療法とは何か

③森田療法

森田療法とは、森田正馬という人が神経症に対して開発した心理療法です。その方法とは、まず症状を取り除こうとせずに、あるがままに受け入れて不安や恐怖を軽減していくものです。この森田療法は神経症の治療だけではなく、書痙の症状にも効果があるという報告もあります。

例えば、林ら(2006)「4」の研究では外来での森田療法の治療を試みています。

・26歳男性
・字が震えてうまく書けない訴えがあり
・鍼治療や精神安定剤などの服用も効果なし

この男性対して、
”右手で下手に震えて日記を書く”
このように指導をしたことで、書字が可能になったと報告しています。森田療法では
×「震えないように」
ではなく
〇「震えるように」
とあえて促すことで心理的な葛藤が解かれて、書痙が改善するとしています。

森田療法について詳しい解説はこちらを参考にしてみてください。

森田療法入門,あるがまま,精神交互作用

④薬物療法

心因性の書痙には、書字の不安に対して処方されることが多いです。この不安には抗不安薬が使われます。器質的な要因が大きいと考えられる場合は、ボツリヌス注射による治療が一般的であるとしています「5」。ボツリヌス注射とは、筋肉内にボツリヌストキシンというたんぱく質を入れることで、筋肉の震えを抑える方法です。

いずれにせよ書痙の原因が心因性か器質性のものかによって、治療の方法が大きく変わってきます。症状が改善しない場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします。

心理学講座のお知らせ

心理療法を独学で学ぶことに不安がある場合は、専門家の元でしっかり学ぶこともお勧めしています。 私たち公認心理師は、対人不安、緊張の軽減を目指し、心理学講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・人の目を気にする心理の改善
・森田療法,精神交互作用の学習
・緊張緩和法の学習
・人と楽しく会話をする練習

興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。

緊張しやすい,書痙の特徴,症状,心理学講座

 

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
Twitter→
元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

「1」平孝臣,堀智勝(2005) 書痙の脳神経外科治療 脳神経外科ジャーナル 14(5), 316-322
「2」山下浩史,西上智彦(2014) 3年来の有痛性下肢ジストニアが認知課題によって改善した一症例 理学療法学Supplement 2013 (0), 0887
「3」柴田達徳,米良貴嗣,高橋昌稔,鈴木麻美,林晴男,辻貞俊(2014) 系統的脱感作法を中心とする心身医学的アプローチが奏功した心因性書痙の一例 心身医学 54(2),188

「4」林吉夫, 村手恵子, 平林由香, 日比野祐子 2006 外来森田療法が著効した書痙の1例 心身医学46巻 7号

「5」平孝臣(2004)  書痙の病態と治療(B5 不随意運動の基礎と臨床)  日本脳神経外科コングレス Japanese Journal of Neurosurgery13(4),301-