認知的均衡理論(バランス理論)
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「認知的均衡理論(バランス理論)」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①認知的均衡理論とは何か
②p-o-xとは何か
③不安定な場合の対処法
④認知的均衡理論への批判
⑤関連コラム
是非最後までご一読ください。
①認知的均衡理論とは何か
意味
認知的均衡理論は、以下のような意味があります。
第三者に対する認知関係のバランスを保とうとする理論
私たちは人と接するときに価値観がずれることがあります。例えば、お酒が大好きな人が、お酒が大嫌いな人と接すると心理的には混乱しがちとなります。この時私たちの心は、試行錯誤してバランスを取ろうとするのです。このバランスを取ろうとする、理論の体系が認知的均衡理論となります。
提唱者
心理学者のハイダーは1940年代に認知的均衡理論を提唱しました[1]。ハイダーの功績は、社会心理学における社会的認知の研究にゲシュタルト心理学の発想を持ち込んだことにあります。ゲシュタルト心理学とは、心の働きを、部分や要素の集合ではなく、全体性や構造に重点を置いて捉える心理学の一派のことです。この考え方によってバランス理論は発展していきました。
▼ハイダーの様子 参考動画
認知的均衡理論は、その後、CartwrightとHarary(1956) [2]によってグラフ論的に定式化・一般化され、数学的な枠組みを用いた検証が可能となりました。
②p-o-xとは何か
バランス理論は別名p-o-x理論と呼ばれます。それぞれ以下のような意味があります。
P=ある人
O=他者
X=物事
さらに好意を「+」非好意を「ー」とします。この時、それぞれを掛けた時に「+」であれば、バランスが保たれた状態、「ー」であれば、不安定な状態でなんらかのバランスを保とうとします。
自分と友人が猫好きの場合
例えば、P=自分、O=友人、X=猫、と置いた状況で考えてみましょう。「自分と友人がお互いに猫が好き」な場合は、以下の図のような状態となります。
このように、(+)×(+)×(+)=+なので、バランスが保たれた状態になります。つまり、似た者同士はお互いに好意を持ちやすいと言えます。
自分が猫嫌い、友人が猫好きの場合
一方で、自分が猫が嫌いだった場合はどうなるでしょうか。以下の図をご覧ください。
このように、(+)×(-)×(+)=-とバランスが崩れた状態になっています。自分は友人は好きだけど、猫は嫌いという複雑な状況に陥ってしまっています。
③不安定な場合の対処法
認知の均衡が崩れると私たちの心はバランスを保つために、掛け算がプラスになるようにしていきます。
猫を好きになる
1つ目は猫を好きになるやり方です。
自分(P) → ネコ(X) +
自分(P) → 友人(O) +
友人(O) → ネコ(X) +
このように掛け算が+になるので安定状態になります。好きな相手のために自分の価値観を変えていく場合は、このケースにあたります。
友人を嫌いになる
2つ目は友人を嫌いになるやり方です。
自分(P) → ネコ(X) ー
自分(P) → 友人(O) ー
友人(O) → ネコ(X) +
このケースも掛け算が+になるので安定状態になります。相手と価値観が合わない場合に、一緒にはいられないとあきらめるなどが挙げられます。
友人を猫嫌いにさせる
3つ目は友人を猫嫌いにさせるやり方です。
自分(P) → ネコ(X) ー
自分(P) → 友人(O) +
友人(O) → ネコ(X) ー
このケースも掛け算が+になるので安定状態になります。相手の価値観を変えさせるため、対象の欠点やデメリットを一生懸命アピールする場合などが挙げられます。
④認知的均衡理論への批判
Churchill (1963)[3]は、認知的均衡理論への批判として、以下の3つを上げています。
現実は流動的
Churchillの指摘は、「人」や「関係」は本来は流動的なものであり、グラフ化することで、静的な概念となってしまうというものです。つまり、CartwrightとHararyによる一般化によって、Heiderの理論の持つ動的特性が失われたとしています。これにより、人間関係の変動や成長といった重要な要素が捉えられなくなると述べています。
グラフの表現力の限界
次に、グラフにおける有向線が、事実的関係を表すものか、認知的関係を表すものかの区別ができないと指摘しています。このため、グラフ理論は、現実の複雑な人間関係を正確に表現するには不十分であるとしています。
現実は非対称的
最後の批判は、現実の対人関係は対称的であるよりもむしろ非対称的である場合の方が多い点です。例えば、Xが人であった場合、XがPやOをどう評価するかが考慮されていない問題があります。認知的均衡理論のほとんどは対称関係のみによるグラフについて述べられているため、現実の人間関係を適切に反映していないと指摘されています。
⑤関連コラム
認知的不協和理論
当コラムでは認知的均衡理論について解説をしていきました。認知的均衡理論に類似した理論に「認知的不協和理論」があります。よく混同しがちなので、以下のコラムをご一読頂くことをおすすめします。
人が嫌いな原因と対策
人が嫌いになりやすい・・・という方向けにコラムを書かせて頂きました。人間関係を築くと不安定になりやすいという方は以下のコラムを参照ください。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] Heider, F. (1946). Attitudes and Cognitive Organization. The Journal of Psychology, 21(1), 107–112. https://doi.org/10.1080/00223980.1946.9917275
[2] Cartwright, D., & Harary, F.(1956). Structural balance: a generalization of Heider’s theory.Psychol. Rev., 63, 277-292.
[3] Churchill, L. (1963). Types of formalization in small-group research. Sociometry, 26, 373-391.