愛着の意味とは

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「愛着」について解説していきます。

愛着の意味

目次は以下の通りです。

①愛着とは何か
②愛着の種類
③ハーロウの実験
④愛着の障害
⑤関連コラム

是非最後までご一読ください。

愛着の意味とは何か

意味とは

愛着は以下の意味があります。

ある特定の他者に対して強い結びつきを形成する人間の傾向
(Bowlby,1977)[1]

特定の対象に対する特別の情緒的結びつき
(心理学辞典,1999)[2]

愛着はアタッチメント(attachment)とも言います。愛着は養育者との応答を繰り返して発達し、子供の情緒的発達に大事なものです。子どもの時期に安定した愛着の形成がなされると、健全なパーソナリティの発達につながると考えられています。

提唱者

愛着はジョン・ボウルビィによって提唱された概念です。ボウルビィはイギリスの精神科医です。ケンブリッジ大学で学んだ後、大学病院で医師の資格を得て、児童精神医学を専攻していきました。

第二次世界大戦中には、陸軍の精神医官として将校を選抜するための施設で働いていました。戦後になると、WHOの精神衛生顧問になります。

当時、戦争孤児の問題があり、実の親から離され施設収容されている子供は、心身発達に問題があることが指摘されていました。その中で、施設収容されている戦争孤児の発達について調査をしていきます。

調査の中で、乳幼児の発達には母性的養護が大事であり、将来の人格の発達に大きな影響を及ぼすとしました。この母性的養護が奪われた状態を「母性的養護の剥奪」(maternal deprivation)と言います[3]

こうしたボウルヴィの研究は、子供の愛着形成の重要性を提唱しただけでなく、孤児院などの児童施設の処遇改善に大きく貢献していきました。

愛着の種類

子供の愛着スタイル

エインスワースはストレンジシチュエーションという方法を使って、愛着のタイプを調べています[4]。ストレンジシチュエーションでは、同じ部屋にいた母親が退出して一人になったり、他者が入ってくるような状況にします。その後、母親と再会した後にどのような反応をするかという実験です。

その実験の結果、愛着のタイプを3つに分けました。

A, 回避型

母親に再会しても、関心を示さず反応が薄い傾向にあります。このタイプは一般的に他の活動に関心を示し、母親に対して冷淡な反応を示すことが多いです。そのため、関係性の構築に時間がかかる可能性が高くなります。

B, 安定型

母親に再会すると安堵して抱き着く傾向にあります。このタイプは母親に対して信頼を感じ、安心して依存することがあります。母親の存在は安全を示すものとして受け入れられ、親子の絆が強まります。

C, 両価型

母親に再会して抱き着くも、怒りを示します。このタイプは母親への依存と同時に、時折怒りや不満を表すことがあります。感情の起伏が激しい一方、安心感も強い傾向があります。関係性は複雑で、母親とのコミュニケーションに挑戦をもたらすことがあります。

D, 無秩序型

母親に再会し、近づくことと回避が同時に見られる。このタイプは母親との関係において、矛盾した行動を示すことがよくあります。母親への関心と距離を保とうとする欲求が入り混じり、不規則で予測困難な行動が特徴です。親子の関係は安定感に欠け、時折混乱を引き起こすことがあります。

大人の愛着スタイル

中尾・加藤(2004)[5]は大人の愛着スタイルとして、他者との関わり方から4つに分類されています。

・安定型
一番健康的なタイプで、母親に再会すると安堵して抱き着き、母親の存在から安心感を得ます。この安心感は、子供の安全な発達と信頼性のある親子の絆を形成するのに重要です。安定型の子供は感情的に安定し、他の基本的なタイプに比べて一般的に健康で幸福な関係を築きやすい傾向にあります。

・見捨てられ不安型
関わりは積極的で、母親に再会すると情緒的な援助を求める一方、見捨てられ不安が高まります。このタイプは他人とのつながりを求める一方、不安や不信感を経験し、相手からの拒絶を怖れることがあります。この緊張と不安が、関係構築に影響を及ぼす可能性があります。

・関係構築回避型
不安は低いが、関わりを回避しがちなタイプで、母親に再会しても冷淡な反応を示すことが多いです。このタイプは他の基本的なタイプに比べて関係に対する要求が低く、独立性を重視する傾向があります。しかし、関係の深化や感情的な絆を築く上で、課題が生じることもあります。

・引きこもり型
不安が高まり、関わりを回避してしまうタイプで、母親に再会しても抱き着かず、逃げ出すことがあります。このタイプは不安感を強く抱えながらも、他人との接触を避けることが多いです。この行動パターンは社交的なスキルや人間関係の発展に悪影響を及ぼす可能性があり、支援が必要な場合があります。

ハーロウの実験

愛着について理解を深めるために、抑えて置きたいのがハリー・ハーロウが行った古典的な研究です。

ハリー・ハーロウと愛着形成

ハリー・ハーロウはアメリカの心理学者で、主にサルを用いた心理学実験で知られています。最も有名な実験の一つは、愛着理論に関連する猿の行動を調査した「母子分離実験」です。この実験は20世紀の心理学において重要な研究となり、愛着や感情的な絆に関する理解を深めるのに貢献しました。

ハーロウの実験

ハーロウ(1958)[6]は、生物における愛着形成についての理解を深めるために、アカゲザルを用いて実験を行いました。 実験では、新生児のサルを母サルと引き離し、以下の2つと接触させました。

1.哺乳瓶が取り付けられた金属製のワイヤーでできた母サル
2.柔らかな布地で覆われた母サル

その結果、 アカゲザルの子供が、安心感と快適さのある柔らかな布地で覆われた母サルに愛着を示すことを示しました。これに対し、哺乳瓶が取り付けられたワイヤーできたサルには、愛着を示さなかった。

この実験から、愛着はただ食事を与えるだけではなく、安全性と心地よさに関連するものであることが明らかになりました。ハーロウの研究はその後、倫理的な問題から議論を呼びましたが、愛着と感情的な絆の研究において重要な一歩を踏み出したことは疑いの余地がありません。

愛着の障害

愛着の障害には2種類あります。いずれも、幼児期に発現するとしています。

反応性愛着(アタッチメント)障害

反応性愛着障害とは、養育者に対して最小限もしくは全く愛着を示さないことを特徴とします。

・素直に喜ぶことができない
・過度な警戒心がある
・苦痛を感じていても表現ができない

などの特徴があります。

脱抑制型対人交流障害

脱抑制型対人交流障害とは、見慣れない大人に対する、過度に馴れ馴れしい対人関係を特徴とします。例えば、

・誰構わず馴れ馴れしく近づく
・知らない人にも抱きつく
・子供同士の関わりは苦手

これは、愛着対象の選択ができないため起こるとしています

反応性,脱抑制愛着障害の特徴と治療法

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愛着の意味とは,心理学講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1]  Bowlby, J. (1977). The making and breaking of affectional bonds. British Journal of Psychology, 130,
201–210.

[2] 中島 義明・子安 増生・繁桝 算男・箱田 裕司・安藤 清志(編)(1999).心理学辞典.有斐閣

[3] Bowlby, J (1951).Maternal Care and Mental Health, World Health Organisation WHO

[4] Ainsworth, M. D. & Bell, S. M. (1970), Attachment, exploration, and separation: Illustrated by the behavior of one-year-olds in a strange situation. Child Development, 41:49-67

[5] 中尾達馬,加藤和生(2005).成人愛着スタイルは成人の愛着行動パターンの違いを本当に反映しているのか?パーソナリティ研究14 巻 3 号 p. 281-292

[6]Harry F. Harlow (1958) The Nature of Love.University of Wisconsin First published in American Psychologist, 13, 673-685