自動操縦状態,脱中心化の意味

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「自動操縦、脱中心化」について解説していきます。

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目次は以下の通りです。

①自動操縦状態の意味とは
②脱中心化の意味とは
③MBCT(脱中心化ワーク)の効果
④脳と自動操縦,脱中心化
⑤関連コラム

是非最後までご一読ください。

①自動操縦状態の意味とは

自動操縦状態の定義

自動操縦状態は以下のように定義されています。

意識的な意図や現在の瞬間の感覚的知覚の認識なしに行動する心の状態
(Crane,2009)[1]

私たちが日常生活の中で,「何気なく」「無意識的に」「機械的に」振る舞ってしまうことがあるように,思考,記憶,感情,計画など何らかのことに捉われて無自覚に行動している「心ここにあらず」な状態を指す(Segal, Williams, & Teasdale,2002)[2][3]

自分の行動を認識せずに行う心理状態のことを自動操縦状態といいます。例えば、列に割り込んだ人を見てカッとなり大きな声で怒鳴り散らす、ゲームが面白くて我を失い仕事に遅刻する、などが挙げられます。

メリット

自動操縦状態は理性的ではなく本能的に活動している状態になります。ご飯を食べている時、余暇を楽しんでいるときは、自動操縦状態の方が楽しめる側面があります。

また、慣れ親しんだ活動であれば、特に注意することなく、自動的に行うことができます。例えば、歩いたり、車を運転したり、キーボードで入力しながら、別のことに注意を向ける等の活動は、自動操縦状態の働きがあってこそと言えます。

デメリット

自動操縦状態は本能的に活動している状態なので、理性的な行動や考えが求められる場合に不利になります。例えば、怒りを持った時に自動操縦状態が維持されると、暴力や暴言につながることがあります。

また、ネガティブな感情において自動操縦状態になると、ネガティブ思考の反すうやうつ状態につながりやすくなります。

②脱中心化の意味とは

脱中心化の定義

脱中心化を以下のように定義しています。

思考や感情を,自分自身や現実を直接反映したものとして体験するのではなく,それらを心の中で生じた一時的な出来事として捉えること
(Teasdale,2002)[2]

思考や感情に巻き込まれるのではなく、一歩離れたところで観察するのが脱中心化の感覚です。例えば、列に割り込んだ人がいたときにカッとなったら「今自分は怒っているな・・・」と冷静に把握し、落ち着いて「並んでますよ」と指摘するなどが挙げられます。

 

混同しやすい用語

ワシントン大学のマーカス・レイクル教授は、このネットワークをデフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network:DMN)と命名しました。DMNは、心がさまよっているときに働くネットワークですが、脳に次々雑念が湧いてくる時に活性化するほか、これから起こりうる出来事に備えるため、さまざまな脳領域の活動を統括するのに重要な役割を果たしていると考えられています

 

③MBCT(脱中心化ワーク)の効果

不安感の改善

佐渡(2016)[4]は不安障害患者13名を対象に、MBCTを一部改変した8週間のプログラムを実施しました。プログラムの中では毎週2時間のマインドフルネスの教室に加えて、毎日30分程度の瞑想のホームワークを実施しました。そして、MBCTのプログラムの前後の不安度を測定し、効果を検証しました。その結果が以下の図です。

自動操縦の画像

上図はMBCT後の方が、大きく不安が低下していることを意味しています。脱中心化の技術を8週間トレーニングすることで、メンタルヘルスが大幅に改善すると言えそうです。

幅広い効果

Russellら(2018)[5]はMBCTのプログラムを実施した結果、受講者の心理的苦痛、不安、心配、精神的健康、他者への思いやりの測定値がすべて大幅に改善されたことが示されました。MBCTは特定の感情だけでなく、様々な感情にプラスに働くことがわかります。

④脳と自動操縦,脱中心化

自動操縦状態にある時は、脳のデフォルトモードネットワーク(DMN)が機能するためです[6]

DMNとは、人が外部の刺激に注意を向けず、むしろ内部的な空想や思索に没頭している際に活発になる神経活動のことです。この状態では、過去の出来事や将来の予測、個人的な感情、自己評価など、さまざまな情報が処理され、自己に関する概念が形成されます。

しかし、うつ病、不安障害、PTSD、統合失調症スペクトラム障害などの精神疾患では、DMNが過剰に活動していることが原因の1つとされています。これにより、クヨクヨとした反芻思考や強い心配が増幅され、症状が悪化します。DMNの活動性が高まるほど、うつ病や不安障害は重症化する傾向があります。

幸いなことに、マインドフルネスという瞑想的なアプローチが、DMNの過剰な活動を抑制し、うつ病や不安障害の改善に寄与するとされています。マインドフルネスは、現在の瞬間に焦点を合わせ、過去や未来の思考から解放される練習です。この状態では、DMNの活動性が低下し、精神的な健康へのポジティブな影響が期待されます。

⑤関連コラム

マインドフルネス療法

当コラムでは自動操縦や脱中心化の意味や効果を中心に解説してきました。より実践的にマインドフルネスのワークを学んでみたい方は以下のコラムを参照ください。

マインドフルネス療法

 

パニックになりやすさ診断

自動操縦状態になる方は、混乱しやすい、冷静さを失いやすいという特徴があります。以下の診断ではパニックになりやすさを客観的な指標で把握することができます。自動操縦のなりやすさの参考としてご活用ください。

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ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Crane, R. (2009). Mindfulness-based cognitive therapy. New York, NY: Routledge.

[2] Segal, Z. V., Williams, J. M. G., & Teasdale, J. D. (2002). Mindfulness-based cognitive therapy for depression: A new approach to preventing relapse. Guilford Press.

[3] 高田圭二(2020).体験の観察が well-being を向上させる条件 ―無執着の観点から―  Japanese Psychological Review Vol. 63, No. 2, 192–215
*[2]の記述は[3]を参考にしました。

[4] 佐渡充洋(2016).うつ病および不安障害に対するマインドフルネスの費用対効果研究  科研 慶応義塾大学 研究課題/領域番号 2546062

[5] Russell Hodgson; Elinor Morgan Graham; Amanda McGough (2018). “Improving the well-being of staff through mindfulness at the Tees, Esk, and Wear Valleys NHS Foundation Trust“. Global Business and Organizational Excellence. 37(5): 29–38.

[6] 山本彬貴,渡辺明日香,木村一志(2021).慢性疼痛とマインドフルネス ―注意機能に関わる脳内ネットワークの観点から―   北海道文教大学研究紀要 第 45 号