コーチングの意味

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「コーチング」について解説していきます。

コーチング,ティーチング

目次は以下の通りです。

①コーチングの意味とは
②コーチングのスキル
③コーチングの研究
④ティーチングとの違い
⑤コーチングの対象
⑥批判,問題点

是非最後までご一読ください。

①コーチングの意味とは

コーチングの定義

コーチングとは以下のような意味があります。

コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと。対話を重ね、クライアントに柔軟な思考と行動を促し、ゴールに向けて支援するコーチとクライアントとのパートナーシップを意味する[1]

エグゼクティブ コーチングやライフ コーチングなど、個人が特定のスキルを獲得または強化したり、スポーツ コーチングやアカデミック コーチングなどのパフォーマンスを向上させるために提供される専門的な指導とトレーニング[2]

1対1の対話で、自立性・能力向上・成長促進の3つを促すことで、メンバー自らが問題解決思考になるようステップアップを図ります。

提唱者

トマス・レナード

トマス・レナードは、人間の潜在能力にアプローチし、可能性を最大限に引き出すことに重きを置いた、コーチングの原型を提唱しました[3]。レナードは1988年に、「デザイン・ユア・ライフ」で指導を行い、1989年には「カレッジ・フォー・ライフプランニング」というコースを設立しました。このコースでコーチングはさらに、発展していきました。

1991年に、カレッジ・フォー・ライフプランニングを閉鎖し、1992年に後に最大のプロのコーチトレーニング組織となるコーチUを設立。その後、国際コーチ連盟、コーチビル、国際コーチング協会の設立に参加しました。

語源

コーチの語源は、中世ヨーロッパで馬車の産地だったハンガリーのコチ(Kocs)に由来します。ここで生産された大型馬車がコチ・セケールと呼ばれるようになり、やがて「コチ」がヨーロッパで普通名詞化していき、「馬車」自体をコチと呼ばれるようになりました。さらに英語圏でも、コチから発展して、鉄道やバス、タクシーもコーチと呼ばれるようになります。

1830年には、オックスフォード大学の学生たちのスラングで、家庭教師が「ゴールに連れて行く手段である馬車」になぞらえて「コーチ」と通称したことがきっかけで、インストラクターやトレーナーもコーチと呼ばれるようになったとされます[4]

1861年には、イギリスでスポーツのトレーナーもコーチと呼ばれるようになりました。その後、1900年以降、スポーツの世界を中心に活用され、1950年代にビジネスマネジメントの世界でも使用されるようになりました。

コーチングが用いられる場面

コーチングは「何かに挑戦したい」「結果を出したい」という気持ちがある人に効果的です。コーチとの1対1によるコミュニケーションによりクライアントは囚われていた価値観に気づき、視野を広げることができるようになります。

その結果、自分の内に秘めた能力や可能性を信じてモチベーションを高めることができます。

②コーチングのスキル

Myra E. Dingman(2006)[5]はコーチングの過程を比較し、次の6段階が一般的にみられるとしました。

1.形式的な契約

必要な場合は、クライアント(多くはエグゼクティブ)との契約を結びます。契約は信頼関係によって行われるものではなく、契約書によって行われる形式的なものになります。

2.関係の構築

2番目にクライアントとの信頼関係を構築していきます。具体的には、観察・傾聴などを通して、相手に理解を促し、お互いに信頼できる関係を構築します。

3.アセスメント

コーチングには入る前に、アセスメントでクライアントの自己の状態の棚卸しと課題の明確化を行います。このアセスメントには、課題によって、リーダーシップ、変化対応力、ストレスレベルなど評価します

4.フィードバックの取得と反映

クライアントはアセスメントの結果を受け取り、目標設定の土台にします。

5.目的設定

アセスメントの結果で導き出された、課題に対して、どのような目的設定するか、クライアントと話し合います。また、目標を達成するための行動計画を立てます。

6.実施と評価

実際にクライアントに行動してもらい。実践中にコーチからの支援をもらいながら、計画を進めていきます。コーチング・セッション終了後に評価を行い、目標を達成できたかどうかを客観的に確認します。

そのほか、国際コーチ連盟が認可した株式会社CITジャパンのコーアクティブ・コーチング(2007)[6]では、以下のようなコーチングの姿勢が説明されています。

以下に折りたたんで、紹介してありますので、詳しく知りたい方は展開してご参照ください。

クライアントは不完全な存在

クライアントはもともと不完全な存在であり、自分自身で答えを見つける力を持っていると考えることが大切です。前述の通り、コーチングは自発的な目標設定や問題を解決を促します。その中で、クライアントの不完全性を補い、自分で答えを見つけるように導きます。

クライアントの人生全体を扱う

コーチングはある1つの目標だけに焦点を当てるものではなく、クライアントの人生全体を扱います。クライアントが達成しようとしている目標は、クライアントの人生をより良いものにするかを考える必要があります。

クライアントが主題を決める

コーチの役割は、あくまでも、対話や質問によってクライアントの課題や目標達成をサポートすることです。主題はクライアント自身が決定し、常に決定権はクライアント側にあります。

クライアントと協働関係を築く

コーチングは一方的にコーチが指示をしたり、クライアントが完全に独自で行うものではありません。コーチとクライアントは協働関係を築き、お互いに力を合わせてコーチングを成り立たせていきます。

この3つの指針は、コーチングの主題となるもので、クライアントの人生をよりよくするものと考えられています。

フルフィルメント

フルフィルメントとは充実感のことです。クライアント自身が自分の価値観を明確にさせることで、自然と人生に充実感が現れ、毎日がより良いものになっていくと考えられています。

バランス

日常生活の中で、私たちは多くのやるべきことを抱えています。仕事や家庭、恋愛、趣味など人生の領域はさまざまなものがありますが、なるべく広い視点を持ち、1つの活動に偏るのではなく、バランスよく進めることが大切だとされています。

プロセス

目標を求める中で、いい時もあれば、悪い時もあります。クライアントが今どんなプロセス中にいようとも、励まし、支えることで難局を乗り越えることができます。その結果、クライアントは人生のあらゆる体験に意味を見出し、味わい深い人生を送ることができるようになります。

コーチに必要な5つの資質として、以下の5つが挙げられています。

傾聴

ここでいう傾聴とは、単にクライアントの話に耳を傾けるだけにとどまりません。クライアントの背景や文脈など想像しながら、より深いレベルの傾聴が求められます。

直感

コーチングは、クライアントから得られた情報だけで行うものではありません。クライアントから得られた情報にプラスして、コーチがこれまで培ってきた直感を導入することで、型にハマったコーチングではなく、より枠を超えた次元にクライアントを導くことができます。

好奇心

答えを持っているのはクライアントであり、コーチがクライアントに好奇心をもつことで、おのずと必要な質問や対話に導くことができます。

行動と学習

コーアクティブ・コーチングの目的は、クライアントの行動を進めること、学習を深めることの2つです。クライアントの自分の行動と学習に責任を持ち、もしうまくいかなくても行動することによって、何かしらの学びを得ることができます。

自己管理

コーチの中で起きていることに囚われず、クライアントの中で何が起きているかに全神経を向けます。そして、クライアントが自分自身に集中できるように促します。コーチは必要に応じて、クライアントの自分や他人への評価や判断を脇においておけるようにサポートします。その結果、クライアントの自己管理の助けとなります。

 

③コーチングの研究

活気をもたらす

浜田ら(2013)[7]は、コーチングがもたらす心理的効果について調査を行いました。研究では、18~24歳の大学生・大学院生10名を対象にコーチングにまつわる心理テストやアンケートを行わいました。

その結果の一部が以下の図です。

コーチング

このように、コーチング後に活気が高まり、コーチングを受けることで、自分の目標やキャリアが明確になり、心身にポジティブな影響を与えるのかもしれません。

疲労、緊張が軽減する

浜田ら(2013)[7]はコーチングにより、疲労や緊張・不安にどのような影響があるかも調査しました。

コーチング 疲労 緊張・不安

このようにコーチングを受けると疲れが少なくなり、緊張や不安が軽くなることがわかります。コーチングを受けると心が整理され、未来に対して前向きな気持ちになるので不安が軽くなると推測されます。

 

④ティーチングとの違い

ティーチングとは

コーチングと類似する概念にティーチングというものがあります。ティーチングとは以下のような意味があります。

指示やアドバイスによって相手に答えを与え、その通りしてもらうコミュニケーション手法

方法を具体的に教えることで、集団のやり方やルールを覚えてもらうことができます。また、答えを教えることで、クライアントに新たな気づきが生まれ、アイディアを発展させることにもつながります。

ティーチングが用いられる場面

ティーチングは、基礎知識や技術を教える時に効果的です。ただ、上司が持っている知識やスキルやノウハウを伝えるだけでは、自分を超える人材に育てることは難しいです。また、ティーチングは一方的なコミュニケーションを作りがちで、クライアントは次第に受け身(指示待ち)になり、模範解答を欲しがるようになります。

それぞれのメリットデメリット

コーチングとティーチングのメリットとデメリットは以下の通りです。

コーチング,ティーチングのメリットデメリット

コーチングは個人に合わせたリーダシップが取れることが特徴ですね。ただ、お互いの相性が悪かったり、コーチがうまく話を聞けないと効果が薄くなります。

ティーチングは、一度に大人数の部下に対して教育できるので効率がいいです。ただ、その反面、個人の能力に気づけないなどの問題点があります。

⑤コーチングの対象

コーチングの対象はビジネス、スポーツ、心の病気など多岐にわたります。

ビジネス上のコーチング

ビジネス上のコーチングは、個人や組織の目標達成をサポートするために行われる効果的な手法です。コーチングは、リーダーシップスキルの向上、キャリアの発展、ビジネス戦略の策定など、さまざまな分野で利用されます。

コーチは、クライアントとの信頼関係を築きながら、洞察力に基づいた質問や挑戦を通じて自己認識を促し、目標に向けた具体的なアクションプランをサポートします。

ビジネス上のコーチングは、個人の成長と組織の成果を高めるための貴重なツールとして、ビジネス界でますます重要視されています。

スポーツにおけるコーチング

スポーツにおけるコーチングは、アスリートやチームのパフォーマンス向上を促進するために行われる専門的な指導方法です。コーチは、技術的なスキルの向上や戦術の習得に加えて、アスリートの自己啓発やメンタル面のサポートにも重点を置きます。

アスリートとの個別の対話やビデオ分析などの手法を通じて、コーチはアスリートの強みを引き出し、短期および長期の目標を達成するためのプランを立てます。

スポーツにおけるコーチングは、アスリートのパフォーマンスを最大限に引き出すための重要な要素となっています。

心の病気に対するコーチング

ADHDコーチングは、1994年にハロウェルとレイティによって提唱され、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を持つ人々を支援する特殊なタイプのライフコーチングです[8]

実行機能欠陥の影響を軽減するため、クライアントと協力して時間管理や計画立案、目標設定、プロジェクト完了の支援を行います。

また、クライアントがADHDが生活に与える影響を理解し、課題に対処するための回避策戦略を開発し、個人の強みを活用する支援も行います。さらに、ADHDの人々は自己認識のために外部の「鏡」を必要とすることが多く、クライアントの合理的な期待を理解するのに役立つことも特徴です。

⑥批判,問題点

コーチングには以下のような批判や問題点も指摘されています。

コーチの資格や専門性が薄い

まず、コーチの資格や専門性の欠如が大きな懸念事項です。コーチングは現在、規制や統一された基準が存在せず、誰でも簡単に自称コーチとなることができます。これにより、資格や実績のないコーチがクライアントに適切なサポートを提供できない可能性があります。

コーチングを行う人々は自身をコーチと称していますが、自己啓発セミナーと同様に、質を保証する公的な資格は存在しません。一定の訓練や経験を積んだコーチも存在しますが、また、会社の簡単な研修だけを受けた人々が部下に対してコーチングを行う場合もあります。

コーチ養成組織の中には、資格商法と見なされるものも少なくありません。数日間の訓練を受け、料金を支払うことで「認定マスターコーチ」と名乗ることができる場合もあります。アメリカでは、子育て中などに最適な在宅ビジネスワークとしてコーチングの資格を与える詐欺的な商法が蔓延していました。

コーチングの商業化の問題

またコーチングの商業化も問題視されています。コーチング市場の拡大に伴い、質の保証や信頼性の問題が浮き彫りになっています。

資格商法を通じて短期間の訓練だけで認定されるコーチが存在し、「専門的な知識」や「実践的な経験」に欠ける場合もあります。さらに、コーチングの技術を商業的な利益追求の手段として捉える傾向もあり、本来の目的や効果を追求する姿勢が欠如していると指摘されています。

コーチビジネスは、一般的にはビジネスチャンスとして扱われることも多く、無批判に養成講座の需要が高まるという状況にあります。これによって、詐欺的な商法としてコーチングの資格を与える問題が広まっています。

この問題に対し、連邦取引委員会(FTC)は2013年1月に悪質な事業者の社名や経営者名を公表し、注意喚起した事例もあります[9]。さらに、2022年8月にはコーチング全般にわたる注意喚起を再度行いました[10]

関連コラム

初級リーダーシップ論

コーチをする立場の方はリーダーシップを求められる場面がたくさんあります。コーチング理論と合わせてリーダーシップ論を学ぶとより適切な指導がしやすくなります。以下のコラムを参照ください。

初級リーダーシップ論

傾聴力をつける

コーチング力つけるには傾聴力が必須です。オウム返しスキル、褒めるスキル、質問するスキルを高めたい方は以下のコラムを参照ください。

傾聴力,トレーニング法

コーチング講座のお知らせ

コーチングに関する学びを深めたい方、トレーニングをしたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。

・初学者向けコーチングトレーニング
・人を育てる,傾聴スキル練習
・支援の力をつける,共感トレーニング
・やる気を引き出す,フロー心理学

🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。社会人基礎講座の中にコーチング講座があります。是非お待ちしています。

コーチングの意味とは,コミュニケーション講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
Twitter→
元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[2]  American Psychological Association(2023).coaching APA Dictionary

[3]  山本淳平(2016). コーチングの始まりとその歩みへの一考察 ~歴史の整理と教育分野におけるネイティブコーチの新たな可能性~ 支援対話研究 第 3 号 Journal of Assisting Dialogue and Communication Studies

[4]  Douglas Harper (2001-2023).coach Online Etymology Dictionary.

[5] Myra E. Dingman(2006).Executive Coaching: What’s the Big Deal? Regent University

[6] ローラ・ウィットワース, ヘンリー・キムジーハウス, フィル・サンダール,CTIジャパン 訳(2007).コーチング・バイブル 人がよりよく生きるための新しいコミュニケーション手法 東洋経済新報社

[7] 浜田 百合 庄司 裕子(2013).コーチングの心理的効果に関する研究 日本感性工学会論文誌  12 巻 2 号 p. 311-317