認知的不協和理論の意味とは
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「認知的不協和理論」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①意味と具体例
②ペグボード実験
③不協和が起きやすい状況
④不協和の低減法
⑤類似した理論
最後まで読むと認知的不協和理論を一通り理解することができます。是非最後までご一読ください。
①意味と具体例
提唱者
認知的不協和が提唱されたのは1950年代です。アメリカの心理学者レオン・フェスティンガー(Festinger, L.)[1]によって提唱された社会心理学の用語です。
意味
心理学辞典(2008)[2]によると認知的不協和は次のように定義されています。
認知を構成する要素相互の間に不協和が起きることを認知的不協和とよぶ。そして不協和を低減する行動がおきる(一部簡略化)。
少し難しいですね。もう少し細かく解説していきます。
認知を構成する要素
認知を構成する要素とは、幅広い意味があり、私たちが日々感じたり、考えたりしているあらゆる出来事を意味します。具体的には、考え、感情、価値観、欲求、直面している事実、味、匂い、などを表します。
不協和
認知感に矛盾が生じた状態を不協和と言います。例えば、「甘口のカレー」を食べたいと考えているにも関わらず、実際に食べてみると「辛口のカレー」だったとしましょう。このような認知間のギャップを不協和と言います。
低減する行動
不協和が生じると人間は何らかの手段で解消しようとします。例えば、「せっかくだから辛口のカレーもたのしもう」と考え方を修正してみたり、辛口のカレーを食べるのを止めて、ルーを買い直す人もいるかもしれません。
キツネとすっぱい葡萄
認知的不協和の有名な例として、イソップ物語の「キツネとすっぱい葡萄」が知られています。以下折りたたんで解説しました。興味がある方はご一読ください。
認知①
キツネは高い所にあるブドウが食べたい
認知②
何度か跳び上がるが届かない
*不協和
キツネはムスクれる
*低減行動
最後には「あのブドウはまだ青くて食べられない。酸っぱくて食べられたものじゃない」と負け惜しみの言葉を残して去る
②ペグボード実験
認知的不協和の実際の研究としては、フェスティンガー(1959)[3][4]によるペグボード実験が有名です。フェスティンガーは、実験参加者にあえて退屈な作業をしてもらうことで、認知的不協和を調査しました。
方法
①実験参加者
71人の男子生徒を参加者として募る
②退屈なタスク
ペグボードでペグを1時間回転させる。下図を見るとすごくつまらなそうですね!
③報酬をもらう
作業のあと次の2群に分けられる。
1ドルしかもらわない群
20ドルもらう群
④管理者役からお願い
この課題のあと、管理者役の人から、まだ作業をしていない他の人に、作業内容の魅力を語ってもらう。
実験結果と考察
この研究の結果、1ドルしか受け取らなかった人たちの方が、20ドルもらって人よりも、このタスクを楽しいと評価しました。
1ドルしかもらわなかった人たちは、当然不協和が生じます。この不協和を解消するには、仕事をどうにか楽しいと思い込むことにして、自分を納得させようとしたと推測されています。
20ドルをもらった人たちは、そもそも満足してしまっているので、わざわざ仕事を好きになる必要はなかったと考えられています。
*以下は実験の様子です。52秒前後からご参照ください。
③不協和が起きやすい状況
認知的不協和は、起きやすい状況と解消パターンの傾向があります。フェスティンガーは、不協和が起きやすい状況を5つ提唱しています。
➀決定後の不協和
一度決めた選択を後から修正しようとしても、もはや後戻りできない場合は不協和が生じやすくなります。
*具体例
馬券を買った後に、別の馬券が良かったと感じてしまう。しかしもう出走直前で買い直しができない。
②強制承諾の不協和
本人の考えと違う考えを強制的に選択させられると、認知的不協和が生じやすくなります。
*具体例
好きでもない人を仲人から強く勧められ結婚してしまう
③情報への偶発的不協和
相反する情報に偶発的に接触すると、不協和が生じやすくなります。
*具体例
恋人の携帯電話の画面がたまたま視界に入り、異性からの♡マーク付きのメールをみつけてしまう。
④社会的不一致の不協和
社会的に好ましくない感情を抱くと、不協和が生じやすくなります。
*具体例
ウイルスが萬栄しているにも関わらず、外に出かけたくなる。実際に遊びにいくと罪悪感がでてきた。
⑤信念と現実の食い違い
信念と現実に食い違いがあると、認知的不協和が生じやすくなります。
*具体例
絶対あきらめない!と信念を持ち会社員を辞めて起業をしたが、うまくいかず貯金が底をつく。
④不協和の低減法
認知的不協和が生じると、不協和を低減する行動が起きます。不協和の低減法には以下の5つがあります。
①行動の変更
②認知要素の変更
③過小評価
④過大評価
⑤新しい認知要素の追加
以下、具体例と合わせて詳しく解説します。
①行動の変更
現実を理想に合わせることです。行動の変更は現実を受け入れず、理想を追求していく点で特徴的です。
・不協和
絶対あきらめない!と信念を持ち会社員を辞めて起業をしたが、うまくいかず貯金が底をつく
・低減
再び貯金をして成功するまでがんばる。
②認知要素の変更
現実はそのままに、理想を修正する方法です。
・不協和
馬券を買った後に、別の馬券が良かったと感じてしまう。しかしもう出走直前で買い直しができない。
・低減
もう出走してしまう!どうせなら応援しよう!と考えを変更する。
③過小評価
理想を価値の低いものと考え直すことです。
・不協和
恋人の携帯電話の画面がたまたま視界に入り、異性からの♡マーク付きのメールをみつけてしまう。
・低減
恋人なんていつでもできる。恋人に固執する必要はない。と考えを変更する。
④過大評価
理想を過大評価してしまうことです。
・不協和
ウイルスがまんえいしているにも関わらず、外に出かけたくなってしまい、遊びにいく。罪悪感に支配される。
・低減
遊ぶことは人生においてウイルスよりも大事なことだ!と考える。
⑤新しい協和的認知の追加
固定化した理想に、新たに考えを増やして、考えの幅を広げることです。
・不協和
絶対あきらめない!と信念を持ち会社員を辞めて起業をしたが、うまくいかず貯金が底をつく
・低減
チャレンジできた自分を褒めよう。失敗できたことが財産で次につながる。
このように私たちは、認知的不協和が生じると心に負担がかかるので、どうにか改善しようとあれやこれやと考え方を変更するのです。
⑤類似した理論
認知的不協和理論に類似した理論に「認知的斉合性理論」「認知的均衡理論」があります。よく混同しがちなので解説していきます。全体の関係は以下の通りです。
認知的斉合性理論
人は認知について常に安定させたいとする理論です。図のように、不協和一論、均衡理論の両方を包括的に含む概念です。
認知的均衡理論
認知的均衡理論は「好き,嫌い」「2者関係+対象」を扱うという特徴があります。アメリカの社会心理学者ハイダー(Heider,F.)により提唱されました。詳しくは下記のコラムを参照ください。
認知的不協和理論
当コラムで解説してきた認知的均衡理論は「好き,嫌い,態度,行動」「1人」を扱うという特徴があります。フェスティンガーによって提唱されました。
心理学講座のお知らせ
心理学をより深く学びたい方、人間関係に関するトレーニングをしたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。
・はじめての心理学講座,メンタルヘルス向上
・好印象になる,人間関係の心理学の学習
・聞き上手,話し上手になる,トレーニング
・ビジネスがうまくいく,社会心理学の基礎
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)是非お待ちしています。
ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] Festinger, L. (1957). A theory of cognitive dissonance. Stanford University Press.
[2] 外林ら(編)(2008).心理学辞典 誠信書房
[3] Festinger, L., & Carlsmith, J. M. (1959). Cognitive consequences of forced compliance. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 58(2), 203–210.
[4] Cognitive dissonance Induced compliance Wikipedia,
*[3] の記述は[4] を参考にしました。
*画像出典,参考サイト
ペグボード実験
https://www.simplypsychology.org/cognitive-dissonance.html