デフォルトモード・ネットワークの意味
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「デフォルトモード・ネットワーク」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①デフォルトモードネットワーク(DMN)の意味とは
②デフォルトモードネットワークの働き
③3つのネットワークとマインドフルネス
④関連コラム
是非最後までご一読ください。
①デフォルトモードネットワーク(DMN)の意味とは
デフォルトモードネットワークの定義
デフォルトモードネットワークは以下のように定義されています。
外的な刺激が少ない状態で、自己関連情報を処理するための脳内ネットワーク(中野,2013)[1]
特定の課題遂行中に比較して,安静時において活動が高くなる脳領域がいくつか認められたことから注目されるようになった脳のネットワークである。この活動は,安静時にみられることから基本的な脳活動という意味で、デフォルト脳活動と呼ばれている。また,比較的共通したパターンを示すことからネットワークを形成していると考えられ,基本的ネットワークという意味でデフォルトモードネットワークと呼ばれている(苧阪,2013を一部簡略化)[2]
人間の脳は日々約2000kcalのエネルギーを消費し、そのうち20%が脳に使われます。このうち5%は意識的な活動に、20%は脳の細胞維持に使われ、残りの75%は休息中に内側前頭前野、後帯状皮質、海馬などの複数の脳領域が協調して活動し、自動操縦状態でエネルギーを消費しています。これらの脳ネットワークのことをデフォルトモードネットワークと呼びます。
デフォルトモードネットワークの歴史
デフォルト・モード・ネットワークは、1929年にハンス・ベルガーによって提案され、安静時に脳が活発であるアイデアから始まりました。1990年代には、PETスキャンやfMRIを用いてデフォルト・モード・ネットワークに関連する脳活動が証明され、2001年にワシントン大学のマーカス・ライクル教授によってその名前が提唱されました[3]。
デフォルト・モード・ネットワークは、内部思考に関与し、外部タスク中には抑制される脳ネットワークとして研究が進み、2000年代半ばから急速に論文が増加しました。デフォルト・モード・ネットワークは脳の重要な機能の一部として現代の神経科学において重要な役割を果たしています。
③デフォルトモードネットワークの研究
デフォルトモードネットワークと抑うつ
山本ら(2021)[4]は、大学生・大学院生309名を対象に、デフォルトモードネットワーク活性時に起こる「マインドワンダリング(MW)」と、メンタルヘルスの関係について調査を行いました。マインドワンダリングとは、心がさまよう状態を意味します。
その結果の一部が以下の図です。
このようにデフォルトモードネットワークが活性化し、心ここにあらずの状態では、抑うつ症状が増えることが分かっています。デフォルトモードネットワークが活発な状態では、自動思考に飲まれやすく、ついネガティブなことを考えてしまう状態にあると言えます。
デフォルトモードネットワークとネガティブ反すう
山本ら(2021)[4]の同研究では、マインドワンダリングとネガティブ反すうについても調べられています。その結果が以下の図です。
デフォルトモードネットワークと発散的思考
Jarmoら(2016)[5]では、16 名の大学生を対象にfMRIを用いて、脳のネットワークと、新しい発想を無数に生み出す「発散的思考」のメカニズムについて調査をしました。研究では、参加者たちに家庭用品の写真を提示し、参加者はそれらのアイテムの別の用途を考え出す課題を行ってもらいました。この時、脳のどの領域が活性化されたかを調べました。
その結果、デフォルトモードネットワークの領域とされる、楔前部/楔骨、下頭頂小葉、後帯状皮質が活性化していることがわかりました。つまり、デフォルトモードネットワークは、ひらめきやいいアイデアを生み出す役割を果たしていると言えそうです。
④3つのネットワークとマインドフルネス
マインドフルネスは簡単に言えば、今ここに気づきを向けることを指します。マインドフルネスが行われる場合、デフォルトモードネットワークを含めた3つのネットワークで説明されることが多いです。下記にそれぞれのネットワークの役割を解説していきます。
デフォルトモードネットワーク
デフォルトモードネットワークは、心ここにあらずの状態である「マインドワンダリング」が起きている時に働きます。とりともなく思考をしたり、反射的に行動したりする際に活性化します。つまり、マインドフルでない状態に活性化するネットワークです。
セントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)
セントラルエグゼクティブネットワークは、タスクに集中し、情報を処理し、課題を遂行する際に活性化します。注意の制御、計画、問題解決などの高度な認知プロセスをサポートします。
セントラルエグゼクティブネットワークは意識を集中させ、特に呼吸などの身体活動に注意を向けるのをサポートします。また、セントラルエグゼクティブネットワークは、デフォルトモードネットワークの活動を抑制する役割も果たします。
つまり、今ここに意識を向けるマインドフルな状態の時に活性化するネットワークです。
セイリエンスネットワーク(SN)
セイリエンスネットワークは、外部からの刺激や内部の情報に注意を向け、注意の切り替えを調整する役割を果たします。セイリエンスネットワークは、環境の変化や重要な出来事に注意を引き付け、意識の切り替えを助ける「スイッチ」のような役割があります。
また、セイリエンスネットワークは情動の処理にも関係します。セイリエンスネットワークは、自己観察を行い、気づきを持つのに役立ちます。マインフルネスによって、セイリエンスネットワークは、デフォルトモードネットワークとセントラルエグゼクティブネットワークの切り替えを効果的に行うように訓練され、意識のコントロールを向上させます。
つまり、マインドフルネスの最中に、注意が散漫になっていることに気づいて、また注意の対象に意識を戻す際に働くネットワークです。
⑤関連コラム
マインドフルネス療法
当コラムではデフォルトモードネットワークの意味や効果を中心に解説してきました。デフォルトモードネットワークの活動を健康的な状態にしたい方は、下記のマインドフルネスのワークを学んでみてください。
自動操縦状態
デフォルトモードネットワークが活性化すると、思考や感情に自動操縦されやすくなります。ネガティブな思考を繰り返し考えてしまう…、つい衝動的に行動してしまう…という方は下記のコラムを参照ください。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 中野珠実(2013).瞬きにより明らかになったデフォルト・モード・ネットワークの新たな役割 生理心理学と精神生理学 31(1)27‒40
[2] 苧阪満里子(2013).デフォルトモードネットワーク(DMN)から脳をみる (jst.go.jp) 生理心理学と精神生理学 31(1)1‒3,
[3] Wikipedia Default mode network
[4] Jarmo Heinonen,Jussi Numminen,Yevhen Hlushchuk,Henrik Antell,Vesa Taatila,Jyrki Suomala(2016).Default Mode and Executive Networks Areas: Association with the Serial Order in Divergent Thinking
[5] 伊東沙也加 伊藤拓(2020).マインドワンダリングと抑うつの関連に影響を及ぼす要因―脱中心化の緩衝効果・ネガティブな反すうの媒介効果の検討― 明治学院大学大学院心理学研究科 心理学研究科紀要 第25号