自我の意味

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「自我とは何か」について解説していきます。

自我の意味とは,elleve様作成

目次は以下の通りです。

①自我とは何か
②生物学的と自我
③精神分析と自我
④発達心理学と自我
⑤自我の強さと診断
⑥メリット、デメリット

最後まで読むと自我の意味を一通り理解することができます。是非最後までご一読ください。

①自我とは何か

意味

自我には一般的には以下のような意味があります。

「わたし」という感覚
行動の主体が自分であるという感覚
他人と区別できる自分

ざっくりと定義すると自我は「わたし」を指します。そのため「わたしは〇〇と考える」「わたしは〇〇がしたい」など、「わたし」を頻繁に使う人、「わたし」を最優先に考える人、は自我が強いと表現したりします。

自我の芽生え

自我が芽生えるのは何歳くらいなのでしょうか。守(2015)[1]は、幼児の自我の芽生えを年齢別でまとめています。

幼児の自我の芽生えを年齢別

上図を見ると、わたしを使って会話をするのは、2歳に集中しています。この意味で人間は2歳ぐらいに自我が芽生えると言えそうです。

自我は「わたし」を表す非常に広い概念なので、などさまざまな学問の世界で横断的に研究されてきました。そこで本コラムでは、生物学、精神分析、発達心理学の視点から、「自我」の特徴を追っていきます。

 

②生物学と自我

生物学と自我

生物学では自我を主に大脳の観点から研究していきます。大脳は、人間らしさの源と言われ、考えたり、記憶したり、思考したり、司令塔としての働きをしています。大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉に区別されます。この大脳が発達していくと「わたし」が芽生えると言われています。

脳の各機能

 

鏡像自己認知テスト

生物の中には「わたし」がわかる動物とわからない動物がいます。例えば、カマキリ、ネズミ、マグロ、は自我がありません。そのため、本能的に生きていると言えます。一方で我々の親戚であるサルの中には自我が芽生えているものがあります。ここで皆さんに質問です。以下の中で、自我があるサルはどれだと思いますか?

鏡像自己認知テスト

ここで参考になるのが鏡像自己認知テストです。鏡像自己認知テスト(mirror self-recognition test)とは、心理学者のゴードン・ギャラップ(1970)[2]が開発した動物の行動実験で、動物に鏡を見せ、自分がわかるかどうか(自己認知の能力)を確かめます。

ゴリラ、チンパンジー、二ホンザルに、鏡像自己認知テストを行った結果、自分がわかったのは、ゴリラとチンパンジーでした。我らがニホンザルは、残念ながら自分がわかりませんでした。ちなみに、脳の量は、ゴリラが500ml、チンパンジーが400mlに対し、二ホンホンザルは100mlです。この点から、サル科では自分がわかるかどうかの脳量は、400ml程度といえそうです。

自我と脳量

 

人類と自我の芽生え

では、私たち人間は、いつから自我が芽生えたのでしょうか。今から300万年前、私たちの祖先アウストラロピテクスは、脳の量が500ml前後あったとされています[3]。脳の量から推測すると、私たち人類の自我の芽生えは、300万年前と考えることができます。逆をいえば、それまでの私たちには「わたし」という認識はなかったかもしれません。

先祖と自我の芽生え

ちなみに現代の私たちの脳の量は1,400ml前後です。そのため、「わたしはどう生きるか」「私の人生とはなにか」と自我はより高度に発展していくことになるのです。

③精神分析と自我

主我・客我

心理学では自我研究が盛んです。ウィリアム・ジェームズ(1890)[4]が「心理学原理」において、自我を「主我」「客我」に分類しました。

主我(I)とは、知るものとしての自我、純粋自我のことです。主我は「私がある」という根本的な感覚のことで、主観や感覚、思考を外側から見るなど対象化できないとされています。

客我(Me)とは、知られるものとしての自我、経験的自我のことです。主我とは反して、客体化対象化できるものとして説明されています。客我はさらに「物質的自我」「社会的自我」「精神的自我」の3つに分けられています。

物質的自我は身体や服装、財産などのことで、社会的自我は周囲の人から受ける認識から作られる自我のことです。精神的自我は、意識の状態や心の能力を意味します。

精神分析と自我

精神分析を提唱したフロイト(1923)[5]は「自我とエス」において自我の機能を定義しました。精神分析では、以下のような意味があります。

欲望やルールと折り合いをつけ、現実的にのりこえていく心

精神分析では、心の全体図を以下のように表しています。超自我はルール、イドは欲望、自我はその調整役と捉えてみてください。

精神分析の全体図

たとえば、思春期の私(川島)は、大好きなアイドルがいて、アイドル写真を四六時中、見たいと考えていました(イド)。一方で学校に持っていくと、先生に見つかるかもしれないので、校則を守らなくてはと考える自分もいました(超自我)。

精神分析における自我

ここで自我の登場です。自我は、欲望であるイドと、ルールに厳格な超自我の調整を行います。そして、「学校では見ないようにして自宅でこっそり見よう」という結論を導きだしたのです。このように欲望と、ルールの間を調整し、冷静かつ理性的に働く心を精神分析では自我として扱っていくのです。

自我が強い人の考え方

精神分析では自我が強すぎても、弱すぎても問題が起こるとされています。自我が強すぎる人は、欲望や本能をおさえすぎて、ストレスを溜めやすくなります。例えば、怒りをおさえすぎる、性欲をおさえすぎる、などが挙げられます。

一方で、自我が弱すぎると、社会のルールを守れなくなります。怒りをおさえられなかったり、浮気をしたりします。自我は、これらをバランスよく調整する、「現実的で健康的に生きていく為の機能」とされているのです。精神分析について理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。

精神分析療法の意味とは

 

④発達心理学と自我

発達心理学と自我

人間の心の成長を研究する発達心理学では、自我は次のような概念とされています。

生きる目的や人生の意味を発見するわたし

発達心理学では「自我同一性」「自我の確立」という用語を使います。これは「わたしの生き方が定まる」「わたしという人間がわかる」ことを意味しています。

思春期に確立される

生物学においては、2歳から自我が芽生えるとされていますが、発達心理学上は、思春期に本格的な自我の確立がなされるとされています。以下の図は、年齢別の心の発達を表しています。

年齢・時期別の心理的課題

13歳以前くらいまでは、眠りたい・愛されているかなど、本能的な部分が課題になっているのが読み取れます。そして思春期を迎えると、自分はどう生きていくかと考えはじめるのです。アイデンティティ確立について理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。

アイデンティティを確立する方法

 

⑤自我の強さと診断

中尾ら(2005)[6]は自我の強さを図る尺度の研究を行っています。

対他的ER-9問

人と関わる時に、周りとの関係の中で自分を調節する自我の強さを意味します。以下の質問が当てはまるほど、人と関わる時の自我が強いことになります。

対他的ER-9問

*コラム用に改変されています。正確には論文を参照ください。

 

対自的ER-7問 

自分の感情をしっかりコントロールできるかの自我の強さです。以下の質問が当てはまるほど、自分とうまく向き合う自我が強いことになります。

自我とは?対自的ER7問

*コラム用に改変されています。正確には論文を参照ください。

 

自我の強さと心理的影響

中尾ら(2005)[6]の研究では、自我の強さと心理的な指標について調査が行われました。その結果の一部が下図となります。

自我 自尊感情

上図は、自我の強さは、自尊感情を強くすることを意味しています。自我を確立すると、自分自身を尊重できるようになるのです。次に見捨てられ不安との関連についてみていきましょう。

自我 見捨てられ不安

上図は、自我が確立されると、見捨てられ不安が少なくなることを意味しています。わたしが定まってくると、他人に振り回されることが減り、自分自身の人生を安定して進めることができると推測できます。

 

⑥メリット、デメリット

最後にまとめとして自我を確立することのメリットデメリットをまとめます。

メリット

自我を確立した人は、考える力があるので自分で考えて問題を乗り越えていくことができます。また、「わたし」がしっかり持っているので、意見をしっかりと持ち、主張することもできます。さらには、自我が強いとメンタルヘルスにおいて、プラスの影響があります。心理学の研究では、自尊心が高い、充実感がある、幸福感が高いという結果になっています。

デメリット

自我が強い場合の短所を考えてみましょう。「わたし」が強すぎると、自己主張が肥大化し社会性が低くなり、他人の意見に耳を傾けられなくなります。集団での自我が強くなりすぎると、価値観と価値観が強くぶつかり、戦争になることもあります。また、自我が強い時には、自分の本能を抑えてしまうことがあります。そのため、素直な行動ができないことがあります。さらには、本能を抑えてつけてしまうと心身症など、体に問題が出ることもあります。

まとめ

自我とは、広義の意味で「自我≒わたし」でしたね。抽象的な「わたし」を指すため、いろいろな角度から議論がされています。生物学的では、「自我=大脳」とされており、精神分析では、欲望やルールと折り合いをつけ、現実的にのりこえていくわたしという概念でした。

メンタルヘルス的にはプラスの要素が多いので、基本的には自我を鍛えるようにしましょう。ただし、自我が強い状態は争いに発展したり、相手を尊重できないこともあります。しっかりと理解して自我を強めていきましょう。

動画でも解説しました。仕上げとしてご活用ください。
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ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 守秀子(2015).幼児期の自称詞使用に関する実態調査 文化学園長野専門学校 研究紀要 第 7 号 p15-27
[2] Gordon G. Gallup(1970).Chimpanzees: Self-Recognition.Science167,86-87
[3] 桑原尚史(2022).[資料] ヒトの進化過程における情報行動の形成について : ヒトの情報行動の形成過程(2),関西大学総合情報学部紀要「情報研究」第54号
[4] James, W. (1890).The principles of psychology : Volume one, Dover Publications Inc., NY.
[5] Freud S.(1923).The Ego and The Id,Standard Edition of the Complete Psychological Works of Sigmund Freud
[6] 中尾 達馬・加藤 和生 (2005). CAQ 版 ER 尺度 (CAQ-Ego-Resiliency Scale) 作成の試み  パーソナリティ研究,13, 272–274.