戦うか逃げるか反応の意味

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「戦うか逃げるか反応」について解説していきます。

戦うか逃げる反応,ヴィダル様作成

目次は以下の通りです。

①戦うか逃げるか反応とは
②反応を引きおこす要因
③身体反応の流れ
④ポリヴェーガル理論
⑤関連コラム

最後まで読むと、戦うか逃げるか反応を一通り理解することができます。是非最後までご一読ください。

①戦うか逃げるか反応とは

提唱者

戦うか逃げるか反応は、生理学者のウォルター・ブラッドフォード・キャノン(Walter Bradford Cannon)によって1915年に初めて提唱されました[1]。キャノンはハーバード大学医学部の生理学部の教授兼会長でした。

 

Walter Bradford Cannon 1934.jpg

意味

戦うか逃げるか反応とは

外敵に襲われるような緊急事態が起きた時の生理的・心理的な反応

を意味します。動物は外的に襲われそうになると、戦うか逃げるかによって生き残ろうとします。この時の体のメカニズムを表します。別名「fight-or-flight反応」「闘争・逃走反応」「戦うか逃げるかすくむか反応」「火事場の馬鹿力とも呼ばれます。

②反応を引きおこす要因

キャノンは戦うか逃げるか反応を引き起こす要因は以下の2つがあると主張しています。

身体的な脅威

暴力を受けそうになったとき、動物に襲われそうになった時、災害にあったとき、私たちの体は戦うための準備、もしくは逃げるための準備を行います。例えば、電車に乗っていた時に、だれかれ構わず暴力を振っている人がいたとします。この時、私たちは、身体に力を入れ、戦うか、逃げるかという選択を迫られることになります。

心理的な脅威

自分の自尊心を傷つけられる時、仲の悪い人と遭遇した時、嘘をつかれた時、などにも、戦うか逃げるか反応が起こります。例えば、自分の悪口をSNSで言ってくる人を見た時、神経を集中させて全面的に戦うひともいれば、その人をブロックして対処する人もいるでしょう。

③身体反応の流れ

このように私たちは脅威に遭遇すると「戦うか逃げるか」の選択を迫られ、以下のように脳や身体を臨戦態勢に変化させていきます。

脳のメカニズム

なんらかの脅威に直面すると、情動を司る脳の扁桃体(へんとうたい)と、体温調節などの生理機能を司る脳の視床下部(ししょうかぶ)が活発になります。

次に、ホルモンの分泌をうながす脳の下垂体(かすいたい)が、特定のホルモンを合成する副腎皮質を刺激するACTHを分泌させます。その結果、副腎皮質からは、血糖値を上昇させ体をエネルギッシュにさせる「コルチゾール」や「アドレナリン」が分泌されます。

引き起こされる身体反応

コルチゾールやアドレナリンが増えた結果、私たちの体は、筋肉に力が入り、早く走ったり、敵の攻撃に備える機能が向上します。また、より多くの情報を得るために瞳孔が開きます。

一方で、これらの反応は体に負担がかかるため、長時間続くと、自律神経のバランスが乱れ、不眠、胃痛、倦怠感などの症状が表れることもあります。

戦うか逃げるか反応により引き起こされる体の変化は以下のようなものがあります。

心拍数の増加 膀胱の弛緩 視野が狭くなる 震え 瞳孔が広がる 顔が赤らむ 口が乾く 消化が遅くなる 耳が遠くなる

ここまでの戦うか逃げるか反応をまとめたものが以下のインフォグラフィックです[2]

戦うか逃げるか反応 メカニズム

 

④ポリヴェーガル理論

ポリヴェーガル理論とは

ポリヴェーガル理論は多重迷走神経理論とも呼ばれる理論です。進化論と神経生理学をベースにPorgesが1994年から発展させてきた新しい理論です[3]。従来の考え方では、自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つに分けられていました。一方でポリヴェーガル理論では、副交感神経はさらに、以下の2つに分けられるとしています。

腹側迷走神経と背側迷走神経

*腹側迷走神経
表情や声など人とのコミュニケーションを取る時に活性化する神経です。人のつながりを促すことで、腹側迷走神経が優位になり、体がリラックスします。哺乳類だけに備わっていることがわかっており、進化の中では、比較的新しい迷走神経です。

*背側迷走神経
普段は睡眠や消化呼吸を司どっています。ただ、ストレスを受け続けると過剰に活性化し、最終的に身体のフリーズを引き起こします。体力を温存するために、節約モードに入るのです。この状態では身体が硬直し、呼吸が深くなり、心拍数が落ち着きます。

死んだふり反応とは

このように過剰に背側迷路神経が働き、硬直してしまう反応を「擬死(死んだりふり)反応」と呼ぶことがあります。擬死反応は、甲殻類から爬虫類まで様々な生き物で、確認されている現象です。

特に外敵に襲われた時に、戦うことも逃げることもできなくなった場合に、この反応が現れます。ポリヴェーガル理論は、交感神経と副交感神経による「戦うか逃げるか反応」に、新しく死んだふり反応を加える結果となりました。

 

⑤関連コラム

恐怖症

戦うか逃げるか反応に深く関わるのが恐怖心です。精神医学の世界では恐怖が過剰になる状態を恐怖症として治療の対象として考えて行きます。恐怖のメカニズムと治療法を理解したい方は以下のコラムを参照ください。

恐怖症の原因と治療法

マインドフルネス療法

私たちは脅威に直面したときに、しばしば混乱してしまい、冷静に行動することができません。この時、マインドフルネスの練習をしておくと、客観的に適切な行動を取りやすくなります。感情コントロールが苦手な方は参照ください。

マインドフルネス療法とは何か

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ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Walter Bradford Cannon (1915). Bodily changes in pain, hunger, fear, and rage. New York: Appleton-Century-Crofts. p. 211.

[3] Porges, Stephen W. (1995). “Orienting in a defensive world: Mammalian modifications of our evolutionary heritage. A Polyvagal Theory“. Psychophysiology.32 (4): 301–318.