アイデンティティの意味とは
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「アイデンティティ」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①アイデンティティ意味とは
②ライフサイクル論とアイデンティティ
③アイデンティティ拡散とは
④アイデンティティの構成要素
⑤アイデンティティと研究
是非最後までご一読ください。
アイデンティティの意味とは
意味とは
アイデンティティは以下のように定義されています。
内的な不変性と連続性を維持する各個人の能力(心理学的意味での自我)が他者に対する自己の意味の不変性と連続性に合致する経験から生まれた自信(Erikson,E.H.1959)[1]
エリクソンの人格発達理論における青年期の心理社会的危機を示す用語[2]。
アイデンティティは自我同一性とも訳されます。
・自分は何者か?
・自分の目指す道は何か?
など、自己の存在意義や、社会的な位置づけを見失わず、肯定的、確信的に答えられることです。
提唱者
アイデンティティ確立の重要性は、アメリカの発達心理学者エリクソン(Erikson,E.H)によって提唱されました。
エリクソン自身はデンマーク人の母親から生まれ、父親は不明であったとされています。ユダヤ系の社会と、ドイツ系の社会の中で二重の差別に悩まされていました。
アンナ・フロイトにも弟子入りし、のちにアメリカで国籍を取得して発達心理学者として活躍しています。1950年には「幼児期と社会」において代表的なライフサイクル理論を打ち立てています [3]。
ライフサイクル理論とは、人生の発達課題を8つのステージに分けて、人生の各年代に起きる心理的な課題を挙げています。その中で、青年期の発達課題をアイデンティティの確立としました。
アイデンティティの概念を打ち出したエリクソン自身もアイデンティティに悩み、人生を模索し続けていたとされています。
ライフサイクル論とアイデンティティ確立
エリクソンのライフサイクル論を簡単に説明します。
①信頼対不信
(乳児期)
生まれてから約1年間の時期で、主要な課題は信頼の構築です。親やケアギバーとの信頼関係が築かれることで、基本的な安全感や信頼感を育みます。
②自律対恥辱(幼児期)
幼児期(約1〜3歳)では、自己主張や自己制御の発達が重要です。適切な自己表現や自己管理の経験を通じて、自己肯定感や自己効力感が形成されます。
③結束対罪悪感(幼児期 – 学齢期)
幼児期後半から学齢期(約3〜6歳)にかけて、社会的な規範や価値観の習得が進みます。周囲との関係を通じて、良心や倫理的な価値観の発達が促されます。
④勤勉対劣等感(学齢期)
学齢期(約6〜12歳)では、学業やスポーツなどの活動において成果を上げることが重要となります。努力や成果を通じて自己評価を高め、自己肯定感を向上させます。
⑤アイデンティティ対役割の拡散(思春期)
思春期(約12〜18歳)はアイデンティティの形成が中心です。自己理解や自己同一性を追求し、自己の役割や価値観を見つける過程が進みます。
⑥親密さ対孤独(若年期)
若年期(約18〜35歳)では、パートナーシップや友情の発達が重要です。親密さや相互依存の関係を築くことで、愛情やつながりの喜びを経験します。
⑦生産性対停滞(中年期)
この段階では、個人は自己実現や仕事の成功を重要視し、家庭や職場での貢献が求められます。しかし、中年期には停滞感や不満が生じ、達成感を求めることが特に重要になります。この時期は、キャリアや個人の成長に焦点を当て、新たな目標を設定する重要な時期です。
⑧統合対絶望(高齢期)
高齢期に入ると、過去の経験や人生の意味を総括しようとする傾向があります。絶望感を克服し、人生を満喫するか、逆に過去の後悔や未練に囚われ、絶望感を感じるかが重要です。統合は前向きで満足感のある高齢期をもたらし、絶望は不幸せな高齢期をもたらす可能性があります。
アイデンティティ拡散
自我同一性拡散とも言います。自己の存在意義などが曖昧になり、自分を見失っている状態です。Erikson,E.Hはアイデンティティ拡散には7つの状態があることを指摘しています[4]
時間拡散
時間拡散は、心理学的な現象で、個人が時間的展望や希望を見失っている状態を指します。これは通常、将来への計画や目標を持たないことを特徴とします。時間拡散は個人のモチベーションや意欲に影響を与え、生活の質を低下させることがあります。
同一性意識
同一性意識は、個人の自意識が過剰な状態を表現します。これは通常、自己評価が過度に高まり、他人との関係に悪影響を与えることがあります。自己中心的な態度や他人との共感力の欠如が見られます。
否定的な選択
否定的な選択は、社会的に望ましくない行動や選択をする状態を指します。これは通常、個人が自己害的な行動や犯罪行為に関与することを含みます。否定的な選択は個人と社会の安定に悪影響を及ぼす可能性があります。
労働マヒ
労働マヒは、個人が課題に集中できない状態を示します。これは通常、仕事や学業に対する興味やモチベーションの喪失を伴います。労働マヒは生産性の低下やストレスの増加につながることがあります。
両価的拡散
両価的拡散は、性のアイデンティティ拡散を指します。個人が性別や性的アイデンティティに関して自己同一性を確立できない状態を表現します。これは性的アイデンティティに関する混乱や不安を引き起こすことがあります。
権威の拡散
権威の拡散は、指導的役割や従う役割ができない状態を示します。個人が自己主張や意志決定に難しさを抱え、他人の指導や規律を受け入れられないことがあります。これは対人関係や組織内の問題を引き起こすことがあります。
理想の拡散
理想の拡散は、人生のよりどころになる理想像や価値観の混乱を指します。個人が自己の信念や価値観を明確に定義できない状態を表現します。これは方向性の欠如や自己同一性の危機をもたらすことがあります。これらのアイデンティティの拡散は、青年期に特に顕著であることがあります。
こうしたアイデンティティの拡散は青年期に特徴的です。こうした葛藤を乗り越えながら、アイデンティティ確立に向けて成長していきます。
アイデンティティ確立の構成要素
谷(2001)[5]は大学生390名を対象に、アイデンティティ尺度の作成を行いました。その過程でアイデンティティを確立する上では以下の4つの構成要素があることがわかりました。
自己斉一性
自己斉一性は、個人がどの場面でも自己を一貫して認識し、自己を保持することを指します。つまり、個人が異なる状況や環境で自己を変えずに一貫していると感じることが重要です。この自己斉一性が高いと、個人は自分自身をより確固としたものとして捉えることができます。
対自的同一性
対自的同一性は、個人が自分自身について明確な理解を持ち、自己の望む方向や目標を明確に把握していることを指します。自己の価値観や目標がはっきりしている場合、個人は自己に自信を持ち、行動に方向性を与えることができます。
対他的同一性
対他的同一性は、他の人々から自分自身が理解され、受け入れられていると感じることを指します。個人は社交的な状況や人間関係において、他の人々との関係を築き、相互理解を高めることで、自己のアイデンティティを確立します。
心理的社会的同一性
心理的社会的同一性は、現実の社会環境において、自分自身を受け入れられ、自分らしく生きることができることを指します。個人は社会の期待や役割に適応し、自己のアイデンティティを社会的コンテクストに統合させることが重要です。
アイデンティティと研究
自己肯定感が高まる
仲野,桜本(2010)[6]は、大学1年生100名を対象にアイデンティティの形成段階について調査をしました。具体的には「自分探しの心理学」という講義を通じて、アイデンティティと自己肯定感の関係について調べています。下図はその結果の一部です。
こちらの図は、自分を肯定的に捉えている人は、アイデンティティの形成も促される傾向にあることを意味しています。アイデンティティが形成されることによって、自分を受け入れたり、ポジティブに捉えることができると推測できます。
レジリエンスが高まる
柴田(2020)[7]は、497人を対象にアイデンティティとレジリエンスの関係について調べています。レジリエンスとは、「困難な状況に対してうまく適応する能力」のことを指しています。下図は研究結果の一部です。
こちらは、アイデンティティとレジリエンスには相互に正の相関関係性があり、それぞれが高めあうことを意味しています。アイデンティティが形成されている人は、困難な状況に対して肯定的に対処できるレジリエンスの能力が高いと推測されます。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1]Erikson, E. H. (1959). Identity and the life cycle: Selected papers. Psychological Issues, 1, 1–171
[2] 中島 義明・子安 増生・繁桝 算男・箱田 裕司・安藤 清志(編)(1999).心理学辞典.有斐閣
[3] Fenigstein, A., Scheier, M. F., & Buss, A. H. (1975).Public and private self-consciousness: Assessment and theory. Journal of Consulting and Clinical.Psychology, 43, 522-527.
[4] 稲垣応顕(1987).自我同一性の獲得に対する感情表出トレーニングの意義 – 歪められた感情の克服に着目して-/さいころぼっくす,2019年9月7日【療育プチコラム】アイデンティティ拡散〜青春の悩みを科学する~
[5] 谷冬彦(2001).青年期における同一性の感覚の構造 -多次元自我同一性尺度MEISの作成- 教育心理学研究 49 265-273
[6] 仲野好重,桜本和也(2009).大学一年生にとっての「自分探し」とは何か?–初年次教育としての自己発見授業とアイデンティティの模索 大手前大学論集 (10), 177-195
[7] 柴田康順(2020).大学生におけるアイデンティティとレジリエンスの概念的関連性――アイデンティティの問題に対して有効な心理的援助の検討 パーソナリティ研究 29(1), 34-45