劣等感の意味とは

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「劣等感」について解説していきます。

劣等感の意味,elleve様作成

目次は以下の通りです。

①劣等感とアドラー
②劣等感の意味と種類
③劣等性,劣等感の違い
③現代の劣等感研究
④関連コラム

最後まで読むと劣等感の意味を一通り理解することができます。是非最後までご一読ください。

①劣等感とアドラー

まずはじめに劣等感の提唱者であるアドラーの理解から進めていきましょう。

アドラーと病弱な身体

劣等感という用語をはじめに使用したのは精神分析家であるフロイトとされています。しかし、フロイトは劣等感について詳細に言及したわけでなく、実質的に劣等感を取り扱ったのは、オーストリア出身の医師アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)とされています。

アルフレッド・アドラー

アドラーは、1870年ウィーンの郊外ルドルフスハイムで、6人兄弟の次男として生まれました。幼い頃のアドラーは、とても病弱だったことが知られています。声帯の異常、骨格異常、身長が低い、これらの身体のハンデに対して劣等感を抱いていたとされています。一方でアドラーは身体の弱さをバネにして、医師を志したといわれています。

曲芸師との出会い

ウイーン大学の医学部を卒業したアドラーは、遊園地の近くで診療所を開きます。遊園地には、曲芸師たちがたくさんいて、日々アクロバティックな演技を披露していました。そこでアドラーはある事実に気が付きます。それは曲芸師たちは、高い身体能力を持っているにも関わらず、幼少期には身体弱かった人が多かったのです。その姿を見て、アドラーは劣等感は自分の能力を飛躍させるエネルギー源になるのではないか?と考えたのです。

劣等感は活かすことができる

アドラーは小さい頃からの身体的なコンプレックスを「器官劣等性」と名付けました[1][2]。「器官劣等性」は、身体の一部が機能的に周りより劣っていと感じることです。この感覚は、身体だけでなく心にも影響を及ぼします。時には精神的な問題を引き起こし、神経性の病気につながることもあります。

ただし、一方でこの劣等感は自分の欠点を補う努力をすることを奨励し、優れた成果を生み出すこともあるとアドラーは言います。この劣等性をエネルギー源として活き活きと活かして活躍していている状態を心理的補償と呼びます。それから劣等感を人生でどう活かしていくべきかという視点で様々な主張をしていったのです。

 

②劣等感の意味と種類

アドラーが重視した劣等感は現代社会でも重要な用語として定着しています。

意味とは

劣等感(Inferiority complex)は以下のように定義されています。

容姿、体力、知的能力、性格、血筋、などの点で、自分は他者よりも劣っているという感情
(心理学辞典,1999)[3]

実存する,あるいは想像上の身体的・心理的欠損から生じる不適切な不安の基本感情
(APA,2007)[4]

低い自尊心;low self-esteem
(マダックス,  2014)[5]

日本ではコンプレックスと言われることがありますが、本来は「劣等」コンプレックスと呼ぶべき概念になります。

種類

高坂(2008)[6]が、549人(中学生204人、高校生173人、大学生172人)を対象に行った調査では、劣等感の種類を以下のようにまとめています。

*家庭水準
経済的に低い家庭であることを、コンプレックスとして考える。

*性格の悪さ
意地悪をしてしまう、いつも落ち込む、空気が読めない、など自分の性格を気にする。

*異性にもてない
モテない、恋愛が続かない、容姿に魅力がない、など異性に対して自信が持てない。

*友達が少ない
友達付き合いが面倒、友人が少ない、友達の輪に入れない、などをコンプレックスと考える。

*運動が苦手
運動能力が低い、周囲から笑われた、などからスポーツが苦手というコンプレックスをもつ。

*成績が悪い
成績が低い、勉強が理解できない、努力しても結果がでない、など成績の悪さに劣等感を抱く。

③劣等性と劣等感の違い

アドラーは劣等性(inferiority)と劣等感(inferiority feeling)という用語を使い、両者を区別しました[7]

劣等性

劣等性とは、自分が持つ身体的や精神的な特徴や能力を、他の人と比べて劣っていると判断することです。この判断は客観的な事実に基づくものではなく、主観的な評価によるものです。例えば、自分は背が低い、顔が不細工だ、勉強ができないなどと思うことが劣等性の表れです。

劣等感

劣等感とは、劣等性を感じることによって生じる心理的な状態です。つまり、自分は他人よりも劣っていると感じて、自己評価が低くなる心の状態です。劣等感は、劣等性を感じる原因となるさまざまな要素に影響されます。社会的な比較や批判、個人的な失敗や挫折などが劣等感を引き起こす要因となります。

劣等性と劣等感は密接に関係していますが、異なる概念です。劣等性は主観的な評価に基づいて他人と比較し、自分の劣っている点を感じることを指し、劣等感はそのことに対する心理的な反応や感情を表します。劣等感は、自尊心の低下、不安感、抑うつ感などといった心理的な影響をもたらすことがあります。

④現代の劣等感研究

劣等感については現在までに様々な角度から研究されてきました。当コラムでは5つの研究をご紹介します。

①理想と現実のギャップ
②ミスを気にする人と劣等感
③何度も思い出すと悪化する
④自尊心を低下させる
⑤孤独感への影響

①理想と現実のギャップ

中村(2016)[7]は、大学生278人を対象に、劣等感が与える影響を調査しました。その結果の一部が下図となります。

劣等感 理想と現実A

劣等感は、理想と現実のギャップから生まれ、ギャップが強いほど劣等感を強めることがわかりました。劣等感を改善するには、理想を下げるか、現実を理想に近づける必要があると言えそうです。

②ミスを気にする人ほど劣等感

髙坂(2008)[6]は、中学生、高校生、大学生の計609名を対象に、完全主義と劣等感に関する質問紙調査を行いました。今回は結果の一部として、劣等感に関わる以下の3つの項目と「ミスを気にするかしないか」との関係を掲載します。研究結果は以下の通りです。
劣等感 ミスを気にする

上図を見ると、「ミスを気にする低群」の方が、3つの劣等感のグラフが低いことがわかります。つまり、ミスを気にない人の方が、学業へのコンプレックスが少ない、異性と自信をもって付き合える、身体的な劣等感も少ない、と言えます。

 

➂何度も思い出すと悪化する

中村の研究(2016)[7]では、理想と現実のギャップについて何度も考えてしまった場合にも、劣等感が強くなることがわかりました。

劣等感 何度も思い返す

自分が劣っている部分を何度も思いださないようにすることが劣等感を改善する上では大事になると言えます。

 

④自尊心が低下する

森津(2007)[8]は、大学生450人を対象に、ネガティブ反芻と自尊心の関係について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。

 劣等感 自尊心

上図は劣等感は、自尊心を低下させるという意味になります。自分が劣っているという感覚が強いと、自分を尊重する気持ちが減ってしまうので注意が必要です。

 

⑤孤独感は劣等感を増やす

学研究家の落合(1985)[9]は、若者を対象に生活感情について調査をしました。その結果、劣等感と関連の深い感情として「孤独感」「疎外感」があることがわかりました。

孤独感につながる劣等感とは

劣等感を抱えると、人と接することが億劫になってきます。そして周りができる人ばかりで、自分のダメな面が目に付くと、孤独を選択するようになってしまうのです。深刻な状況になると、引きこもりへと発展することもあるため注意が必要です。

 

⑤関連コラム

劣等感を克服する方法

姉妹コラムとして劣等感を克服する具体的な方法を解説しました。直接法、間接法、リフレーミング法などを紹介しています。劣等感を改善していきたい方は下記のリンクを参照ください。

劣等感を改善する方法

 

アドラー心理学

劣等感についてはアドラー心理学においてより詳細に解説されています。心的補償、共同体感覚などを学習すると劣等感の活かし方をより深く学ぶことができます。以下のコラムも是非ご参照ください。

アドラー心理学の基礎

 

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ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Adler, A.(1907).Studie über Minderwertigkeit von Organ. /安田一郎(訳)(1984).「器官劣等性の研究」金剛出版

[2] 安塚俊行(1981).劣等感の構造(I)予備的研究 幾徳工業大学研究報告.A,人文社会科学編 6 15-19, 1982-03-20 神奈川工科大学

*[1]は[2]を参考にして記述しました。

[3] 中島 義明 子安 増生 繁桝 算男 箱田 裕司 安藤 清志 (1999).心理学辞典 有斐閣

[4] VandenBos, G.R. (Ed.). (2007). APA Dictionary of Psychology. Washington, D.C.: American Psychological Association. (ファンデンボス, G.R. (監修)繁枡 算男・四本 裕子(監訳) APA 心理学大辞典 p.  培風館)

[6] 高坂 康雅(1991).自己の重要領域からみた青年期における劣等感の発達的変化  教育心理学研究 56 巻  2 号

[7] 中村 純子(2016).理想自己と現実自己の差異と自己注目が劣等感に与える影響,人間生活文化研究 Int J Hum Cult Stud.2016.26.168-172-19

[9] 落合良行(1985).青年期における孤独感を中心にした生活感情の関連構造  教育心理学研究,33(1),p70-75