内発的動機づけの意味
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「内発的動機づけ」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①内発的動機づけとは
②促進効果,抑制効果
③内発的動機づけの効果
④その他の影響要因
是非最後までご一読ください。
①内発的動機づけとは
意味とは
内発的動機は以下の意味があります[1]。
外部からの賞罰によらず、自らの自発性からくる動機づけ
自らの知的好奇心や興味によって行動し、報酬や罰に左右されない場合、内発的動機とされます。
例えば
・趣味に没頭する
・相対性理論について知りたい
・三国志の歴史を学ぶ
・仕事が楽しく自ら残業してしまう
などが挙げられます。一方で、報酬や罰に左右される動機づけは、外発的動機づけと言われます。
提唱者,歴史
1950年代は、動因低減説が主流でした。動因提言説とは人はもともと、自分にとって不快な出来事がない場合に行動するという説です。例えば、おなかが減るから働く、疲れをとるために横になるなどがあげられます(鹿毛,1994)[2]。
1960年代になると、人間は必ずしも不快な感情を解消するために行動するわけではないという主張が盛り上がります。そして心理学者のYoung(1961)とMurray(1964)が動因提言説への反論として「内発的動機づけ」の概念化を行いました[3][4]。
その後、1970年代には、DeciやLepperといった研究者が、内発的動機づけを高める要因や、抑制する要因などの研究を進めていきました。
②促進効果,抑制効果
内発的動機づけは「抑制効果」と「促進効果」によって高められます。それぞれ以下の意味があります。
抑制効果とは
抑制効果とは、外部からの影響によって自発的な行動を妨げることです。個人自身が自発的に行動する意欲を高めることで、やりがいや達成感を得られることが特徴です。
しかし、外的な報酬や罰則によって行動が制限されることで、内発的な動機が抑制されることがあります。報酬が与えられる場合、その報酬が目的となり、自発的な行動よりも報酬を得ることが目的となるため、内発的な動機が低下します。
また、罰則がある場合には、その罰則を回避することが優先され、自発的な行動が制限されるため、内発的な動機が低下することもあります。
促進効果とは
内発的動機の促進効果は、個人の内から生じる自発的な行動を促進することです。適切な方法を用いることで、内発的動機を促進することができます。
内発的動機を促進する方法として、個人の興味や関心に合った課題を与え、自己決定力を高めることが挙げられます。自分で目標を設定し、自分で進めることで、自発的な行動が促進されます。
また、個人の成長や発展を促すような環境やフィードバックを提供することも、内発的動機を高める効果があります。
③内発的動機の効果
内発的動機が高いと以下のような効果があります。
学習や作業が長続きする
心理学者のDeci(1971).は内発的動機づけの効果について、以下の実験をしています[5]。
その実験では、ソマ・パズルと呼ばれる当時流行していたパズルを用いて、2つのグループを比較しています。
A.パズルを解くと
初日には報酬がもらえず、2日目には報酬がもらえ、3日目にはもらえないグループ
B.パズルを解いても
3日間ともに報酬をもらえないグループ
その結果、給料が支払われた2日目の休憩時間には、Aの方がBよりもパズルをプレイする時間が多かったのですが、給料が支払われなかった3日目には少なかったことが示されました。
これは、Aは初日にはパズルの面白さに内発的動機づけが高まって、取り組む時間が長かったとされています。しかし、2日目には報酬が得られたことによって、3日目にはやる気が報酬に依存するようになってしまったのです。
内発的動機づけが高まると、学習や作業の時間が持続しやすいという効果があります。一方で報酬を与えてしまうことで、やる気がそがれてしまうのです。この現象を心理学では、アンダーマイニング効果と言います。
周りの内発的動機を高める
教える側の内発的動機づけが高いと、教えられる側の内発的動機づけが高まることが知られています。これを「動機づけの社会的伝達モデル」と言います。
寺尾・中谷(2019)[6]を大学生・大学院生158名対象に、教師の内発的動機づけが高いと認知すると、生徒の内発的動機づけが高まるかどうかを調べています。
下の図は結果の一部です。
ざっと解説をしますと、「認知された教師の内発的動機づけ」が高まると、学習活動への期待に影響をして、「生徒の内発的動機づけ(2回目)」が高まるということです。
言い換えると、「この先生は教えること自体が楽しそうだ」と生徒が感じると、「この授業内容は楽しそうだ」と内発的動機づけが高まるか?ということです。
つまり、教師の内発的動機づけが高いと生徒が認知すると、生徒の内発的動機づけが高まることがわかりました。
このように、内発的動機づけは教師から生徒へ伝達される性質があり、教師側の内発的動機づけも重要だということを示しています。
④その他の影響要因
内発的動機が高い人は以下の特徴があります。
深い学習行動
田中(2018)[7]は大学生121名を対象に内発動機づけについて、学習行動や自己効力感などの関係を調べています。その結果、内発的動機づけは深い学習行動との関連が強いことがわかりました。
深い学習行動とは、
・新しいことを勉強するときは前に学んだことと関連させて勉強する
・わかりやすいように図や表を作る
・重要なポイントをもう一度自分でまとめ直す
など、単純な暗記に頼らない勉強方法です。内発的動機づけが高い人は、学習方法もより効果的な方法を取ると言えます。
開放性が高い
開放性とは、ビックファイブとよばれる性格の5因子のうちの1つです。開放性が高い方は、新しいことに挑戦することが好きで、好奇心が旺盛な傾向があります。内発的動機が高くなりやすいと推測されます。
アイデンティティが確立
内発的動機が高い方はアイデンティティが確立されている傾向があると言えます。アイデンティティが確立されている人は、自分なりの価値観が定まっています。外部の報酬よりも自分が何をすべきかの基準が明確になっていると言えます。
関連コラム
外発的動機
内発的動機づけの対立概念としては外発的動機が挙げられます。動機づけ理論の理解を深めたい方は参考にしてみてください。
好奇心を引き出す方法
内発的動機に近い概念として好奇心が挙げられます。以下のコラムでは好奇心を引き出す方法を解説しました。参考にしてみてください。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1]
[2] 鹿毛雅治(1994).内発的動機づけ研究の展望 Japanese Journal of Educational Psychology,42, 345-359
[3] Young, P.T.(1961). Motivation and emotion . NewYork: Wiley.
[4] Murray, E.J.(1964). Motivation and emotion. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.
[5] EDWARD L. DECI(1971).EFFECTS OF EXTERNALLY MEDIATED REWARDS ON INTRINSIC MOTIVATION Journal of Personality and Social Psychology Vol. 18, No. 1, 105-115
[6] 寺尾香那子,中谷素之(2019).教師の内発的動機づけが学習者の期待形成および内発的動機づけに与える影響 日本教育工学会論文誌 43(2), 117-125
[7] 田中希穂(2017).学習動機と自己効力感が学習行動におよぼす影響 同志社大学教職課程年報 (7),3-18