嫌悪感の意味
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「嫌悪感」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①嫌悪感とは何か
②嫌悪感と2つのルート
③嫌悪感研究
④関連コラム
是非最後までご一読ください。
①嫌悪感とは何か
心理学辞典(1999)[1]では嫌悪は以下のように定義されています。
身体的、精神的に苦痛や葛藤を引き起こす刺激にさらされた場合、それを避けようとする心理状態(一部簡略化)
私たちの感情は大きく分けて、快-不快の2つの感情がありますが、「不快」と「避けようとする心理」が働く場合に「嫌悪感」と定義することができます。
②嫌悪感と2つのルート
ジョセフ・ルドゥーは感情が起こる過程には、原始的ルート、思考ルート、の2つの経路あると主張しています[2]。
原始的嫌悪感
原始的嫌悪感は、本能的、直感的に沸き起こる嫌悪感です。例えば、クモが突然目の前に現れると、0.1秒ぐらいでびっくりして手で払ったりします。これが原始的嫌悪感ルートです。脳の部位としては、本能をつかさどる、大脳基底核、扁桃核が活性化することで起こります。
原始的嫌悪感は、生きていくために必要な感情で、あらゆる生き物に備わっている感情です。嫌いという感情があるからこそ、毒を避けたり、病気を避けることができるのです。以下原始的嫌悪感の具体例を折りたたんで解説しました。理解を深めたい方は展開してみてください。
・排泄物
咳、体液、排せつ物、病気になるリスクがあるため、嫌悪感を抱きやすくなります。これらは雑菌の温床で、極めて不衛生です。嫌悪感を抱くことでそのような病原菌から身を守ることができます。
・匂いや触感
腐った匂い、異常な味、べとべとした触感、ギィーという音などすべて不快な気持ちを想起させます。日常と異なる刺激に嫌悪感を覚えることで、自分の身を守ることができます。
・外見
黄ばんだ見た目、不潔な人、身体の部位の奇形、痩せこけた人を見ると嫌悪感を覚えます。これは倫理的には誤っていることですが、異常な姿をした人は病気を連想させるので、嫌悪感を持ちやすくなります。
思考系嫌悪感
思考系嫌悪感は、社会通念、倫理観などと照らし合わせ、吟味した上で覚える嫌悪感です。脳の部位としては、思考をつかさどる前頭連合野が活性化することで起こります。例えば、ところか構わず悪口を言う人、あおり運転をする人、街中で子供に怒鳴っている人、を見たらほとんどの方が、不快な気持ちになるでしょう。
人は道徳的ルールを守らない人がいると、集団や個人を守るために嫌悪感を抱くのです。以下思考系嫌悪感の具体例を折りたたんで解説しました。理解を深めたい方は展開してみてください。
・道徳違反
いじめ、パワハラ、セクハラ、過度な悪口、人格批判など、道徳的に誤ったことには嫌悪感を抱きます。
・享楽
旦那がギャンブルで散財してきた、金持ちな政治家が毎晩のようにキャバクラに行く、付き合っている女性が身分不相応なプレゼントを要求してくる…こんな場合に不愉快な気持ちになります。
・甘え
働かずにゴロゴロ生活している人、マザコン、すぐに人を頼る人に嫌悪感を抱く方もいます。
・公序良俗違反
公共の場で放屁、奇声を上げる人間、など、公の風紀を乱す人は嫌悪感を持たれます。
③嫌悪感研究
ここからは嫌悪感に関する心理学的な研究をいくつか紹介します。
嫌悪感を感じる脳部位
Calder (2000)[3] と Adolphs (2003) [4] は、島前部の損傷が嫌悪感の経験と他人の嫌悪感の表情の認識の欠如につながることを示しました。島皮質は感情処理において主要な神経構造です。具体的には以下の部分になります。
神経心理学的研究では、島皮質の損傷が嫌悪感の経験と他人の嫌悪感の表情の認識の欠如につながることが示されています。
特に前島の損傷により、嫌悪感の社会的信号の認識に関与するシステムに損傷が生じ、患者は嫌悪感の減少や表情の誤った分類が報告されています。これらの研究から、島皮質が嫌悪感を感じ、認識する能力に重要な役割を果たしていることが明らかになっています。
心理的汚染とは?
Fallon & Rozin(1983)[5][6]は食物選択の背後にある嫌悪感について調査を行いました。研究によると、食べものの嫌悪感は、以下の4つに分かれるとされています。
まずい食物(distaste)
危険な食物(danger)
不適切な食物(inappropriate)
嫌悪される食物(disgust)
特に「嫌悪される食物」は、例えば糞便、ゴキブリ、腐敗物、人肉など、かなり強烈で避けたくなるものが挙げられます。
これらの嫌悪感は、味や匂いだけでなく、危険性や不適切さ、そして何よりも心身が「汚れる」という観念が絡んでいることをRozinは強調しました。この汚れた感覚を、「心理的汚染」と呼ぶことがあります。心理的汚染は、
永続性
伝染力
時間を逆行する
という3つの特徴があります。
例えば、イヌの糞便を踏んだことを考えてみましょう。直接触れてなくても、何故か全身が汚れた感じがするかもしれません。その感覚は何時間か経過しても残り続けることもあるでしょう。また同じ経験を他の誰かがしたら、自分もなんとなく汚れた気分になってしまうこともあります。
さらに後の研究で、Rozinは時間を逆行してその効果を発揮する可能性を指摘しました。例えば、食事の最後に皿からゴキブリの羽が出てきたとしよう。その食事すべてが急に嫌悪的に思えてくるでしょう。このように、心身が「汚れる」という観念は、嫌悪感と密接に結びついているのです。
女性は嫌悪感を持ちやすい
羽成(2009)[7]は、大学生228名を対象に、対人場面における嫌悪感情について調査を行いました。その結果が下記となります。
図を見ると、嫌悪感は女性の方が持ちやすいことがわかります。なぜ女性の方が嫌悪感を抱きやすいのでしょうか?
これは川島の仮説ですが、子育てに関する意識が本能的に強く、子どもを菌やウイルスから守る必要があるため、嫌悪感を抱きやすいと推測できます。
中年男性は嫌悪感を持たれやすい
羽成(2014)[8]は大学生275名を対象に、青年期の両親に対する嫌悪感を調査しています。
質問紙の内容としては以下の状況に対して、どの程度それを嫌だと感じるか、 3段階 (そう思う、どちらかと言えばそう思う、そう思わない)で評定してもらい、測定しました。
1.その人が使った後のトイレを使用すること
2.その人が入った後のお風呂(湯船)に入ること
3.自分の服とその人の服を一緒に洗濯すること
4. その人と一緒の鍋をつつくこと
など…
その結果が下記のグラフです。以下のグラフの数値は8項目の合計値となります。
女性、男性共に、父親に近い年齢の男性に対して最も嫌悪感を感じるという結果となっています。筆者はアラフォーの男性なので、清潔感に気を付けねば!と気を引き締める結果になっています。
過剰な嫌悪感のデメリット
嫌悪感は防衛する上で役立ちますが、これが過剰になると、実はマイナス面も大きくなってきます。細田ら(2009)[9]は中学生305名を対象に「自己肯定感」と「他者肯定感」の関連を調べました。その結果が以下の図です。
自己肯定感と他者肯定感が「プラスの相関」を示していることがわかります。つまり、自分を肯定は高い人は、他者肯定感が高くなりやすいということです。
逆に他人に対する嫌悪感が強いということは、自己嫌悪に陥りやすいということも推測できます。自分に自信がないという方は、もしかしたら他人を嫌いになる習慣があるのかもしれません。
④関連コラム
自己嫌悪を改善する方法
当コラムでは嫌悪感の意味や研究を紹介してきました。嫌悪感には様々な種類がありますが、以下のコラムでは自己嫌悪について重点的に解説をしています。自分が嫌い・・・という感覚が強い方は参考にしてみてください。
他者嫌悪を改善する方法
以下のコラムでは人が嫌いになりやすい方向けに、改善策を重点的に解説をしています。人が嫌い、他人に嫌悪感を持ちやすい・・・という感覚が強い方は参考にしてみてください。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 中島 義明 子安 増生 繁桝 算男 箱田 裕司 安藤 清志 (1999).心理学辞典 有斐閣
[2] レイチェル・ハーツ(2012)あなたはなぜ「嫌悪感」をいだくのか 原書房
[3] Calder AJ, Keane J, Manes F, Antoun N, Young AW. Impaired recognition and experience of disgust following brain injury. Nat Neuroscience. 2000 Nov;3(11):1077-8. doi: 10.1038/80586. PMID: 11036262.
[4] Adolphs, Ralph; et al. (2003). “Dissociable neural systems for recognizing emotions“. Brain and Cognition. 52 (1): 61–69. doi:10.1016/S0278-2626(03)00009-5.
[5] April E. Fallon & Paul Rozin (1983). The psychological bases of food rejections by humans, Ecology of Food and Nutrition, 13:1, 15-26, DOI: 10.1080/03670244.1983.9990728
[6] 今田 純雄(2019).嫌悪感情の機能と役割──Paul Rozinの研究を中心に── エモーション・スタディーズ 第4巻Special Issue pp. 39─46
*[5]の記述は[6]を参考にしました。
[7] 羽成,河野,伊藤(2009).対人認知における嫌悪感情の分析 椙山女学園大学 文化情報学部紀要 9 (1), 59-65
[8] 羽成,河野,伊藤,角田(2014).青年期の女性の父親に対する回避傾向 椙山女学園大学 文化情報学部紀要,第 14巻
[9] 細田 絢,田嶌 誠一(2009).中学生におけるソーシャルサポートと自他への肯定感に関する研究 57 巻 3 号 p. 309-323