学習性無力感の意味とは
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「学習性無力感」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①学習性無力感の意味とは
②学習性無力感の歴史
③学習性無力感の研究
④活かし方
⑤関連コラム
是非最後までご一読ください。
①学習性無力感の意味
学習性無力感とは
強制的・不可避的な不快経験やその繰り返しの結果、何をしても環境に対して影響を及ぼすことができないという誤った全般的ネガティブな感覚が生じることにより、解決への試みが放棄され「あきらめ」が支配する結果となる。[1]
としています。
つまり、回避できない不快な刺激に対して無力感が生じ、行動しても無駄であることを学習してしまうことをいいます。学習性無力感はネガティブな感覚を学習してしまうということで、うつ病や学業不振児などの原因の一つにも挙げられています。
②学習性無力感の歴史
学習性無力感は人の対象よりもまず、動物の実験から始まっています。次第に人の抑うつに関する研究から帰属理論と関連した研究へと流れていきます。では、それぞれ順を追って解説をしていきます。
1.動物実験
学習性無力感はアメリカの心理学者、セリグマン(Seligman,M.E.P)によって提唱された概念です。
(画像:wikipediaより)
1967年に犬を対象とした動物実験を行っています。その実験ではまず、犬に対して回避不可能な電気ショックを与え続けます。次に回避可能な状況においても電気ショックを与えて、その反応を調べました。
その結果、回避可能な状況でもあるにも関わらず、犬は回避しようとはせず電気ショックを受け続けていたのです。
このことから、電気ショックを与えられ続けたことによって、自身の行動が無意味であると学習したということです。そのため、回避可能な状況に置かれても、回避する行動にはいたらずあきらめていたということです。この実験からセリグマンは「学習性無力感」と名付けています。
2.抑うつのメカニズム
1970年代に入ると人間の抑うつにも学習性無力感が働いていることを指摘します。特に、仕事の失敗や、愛するものの喪失、重い病気などに対して、自身が無力であると感じると抑うつ症状となることから、学習性無力感が関連しているとしています。
こうした抑うつを発生させるメカニズムを、LH理論(Learned Helplessness)として呼ばれ、学習性無力感と抑うつとの関連が指摘されていきます。
3.原因帰属理論
さらに、1970年代後半になると、学習性無力感は“帰属理論”と関連付けて研究がされるようになっていきます。帰属理論はWeiner,B.などの理論が基になっています。
帰属理論とは物事の原因を探るときに、何にどの程度原因があるのかを推測する過程のことをいいます。帰属の過程には3つの要素が挙げられています。
・内的-外的
⇒原因が自身にあるか、自分以外の他者にあるか
・安定―不安定
⇒安定は変わらない要因で、不安定は変わる要因
・全体的―特殊的
⇒すべての場面か特殊な場面であるか
この3つの要素から、「内的で安定、全体的な次元」が学習性無力感の兆候であるとしています。
③学習性無力感の研究
原因帰属と学習性無力感
ネガティブな結果の原因を自分自身に向けると、学習性無力感が高まるという研究結果が出ています。荒木(2000)[2]は大学生を対象に、算数問題やアナグラム問題を出題し、外的帰属群と内的帰属群に分けて比較を行っています。
外的帰属とは原因を自分以外の要因に結び付けることを言います。一方で、内的帰属とは原因を自分自身の要因に結び付けることを言います。
この調査において、外的帰属群では失敗の原因について「正答のない課題が含まれていたため、あなたの処理能力が劣っているわけではない」と教示を与えています。
一方、内的帰属群では「平均正答数は40題中35題なので、あなたの成績は相当悪い」と教示を与えています。
その結果、外的帰属群ではテストの成績は下がらず、内的帰属群では成績が低下しています。内的帰属群は学習性無力感が高まっていたため、テストの成績が下がったとされています。
つまり、自分自身に結果の原因が向けられると、学習性無力感が高まるということを示しています。
発達障害と学習性無力感
発達障害がある人は学習性無力感に陥りやすいことが指摘されています。発達障害児は学習面、生活面、対人関係面などで、失敗体験を経験していることが多いです。そのため、自身で困難をコントロールすることが難しいと感じ、学習性無力感に陥っている可能性が高いです。
都築ら(2019)[3]の研究では、定型発達群と発達障害児群に分けてひらがなのアナグラム課題を実施し、両者の比較を行っています。
その結果、無気力感の得点が定型発達群よりも、発達障害群の方が無気力の得点が高く、学習性無力感に陥っていることがわかりました。
つまり、発達障害児はネガティブな経験によって、無気力感に陥りやすく学習面や生活面に影響を及ぼしてしまうことが予測できます。そのため、学習性無力感が生じないように支援をしていくことが必要です。
④無力感の低減の仕方
帰属療法
帰属療法とは帰属理論を援用した心理療法です。特に帰属の仕方を変化させることで、抑うつにつながりやすいネガティブな考え方に陥ることを防げます。
方法としては、
・成功⇒内的で安定的なものに帰属
・失敗⇒外的で一時的なものに帰属
原因のとらえ方を変化させることで、学習性無力感を軽減するというものです。
一つ例をとって考えてみましょう。
例:
1日4時間勉強してテストに挑み、国語のテストの成績が返ってきた
・90点だった場合
⇒「勉強をして自分の学力が向上したためだ。国語以外のテストでも勉強をすれば成績が上がるだろう」
(内的で安定的なものに帰属)
・40点だった場合
⇒「今回は問題が難しかったからだ。他のテストではいい点が取れるだろう」
(外的で不安定-変えられるものに帰属)
このように、原因の帰属を再構築することで、ネガティブな思考からポジティブな思考へ転換できます。すると、学習性無力感からくる抑うつにも対処していけます。
自己効力感を上げる
学習性無力感を低減させるには、自己効力感を上げる必要があります。自己効力感とは自分の能力への確信度、信頼感のことをいいます。自己効力感が高いほど、困難な状況でも「自分ならできる」と期待感を持つことができます。
自己効力感を活かして、教育場面での成績向上につなげる例も挙げられています。手嶋・金川(2021)[4]では、簿記の教育課程において、学習性無力感に陥った学生に対して自己効力感を高める教育方法を提案しています。
自己効力感を「効力期待」と「結果期待」という2つの概念に分けて考察をしています。
効力期待:結果に必要な行動を自分で実行できる確信度
結果期待:ある行動がある結果に至る予期
としています。
マイナスの場合
「1日に1時間勉強もすることができない」⇒効力期待(-)
「勉強しても成績があがらない」⇒結果期待(-)
こうした状態では、効力期待も結果期待もマイナス(-)であるため、学習性無力感に陥っている状態です。
プラスの場合
「1日に1時間勉強することができる」⇒効力期待(+)
「勉強すれば成績が上がる」⇒結果期待(+)
という状態に変化させることで、学習性無力感を解消できるとしています。
このように、効力期待と結果期待を相互にプラスにすることで、自己効力感が高まり、成功体験から学習性無力感を軽減できるとしています。
行動力を身につける
学習性無力感の特徴として、「自分では変えることができない」という、考え方に陥って行動ができないでいることがあります。
行動できないことによって思考もネガティブに陥って、さらに行動ができなくなる…という悪循環に陥ってしまいがちです。
そこで、先に行動に移すことで無気力から脱却する3つのポイントを紹介したいと思います。
対策① スモールステップで行動
最初から最後までやり通そうとせず、まず一つずつ行動していくことが大事です。勉強をすることに具体的に例をとると、
とりあえず参考書を開く
↓
1行だけ読んでみる
↓
1段落だけ読む
↓
1ページだけ読む
など、目標を細かく設定して行動に移します。小さな目標から行動することで、“変えることができない”という思い込みも徐々に緩和させていくことができます。
対策② 恐怖突入
恐怖突入とは、不安や恐怖にあえて飛び込むことで恐怖を軽減させることです。恐怖とは逃げようとすればするほど増幅する特徴があります。逃げようとせず、恐怖にそのまま飛び込んでいくことで、想像以上の恐怖や不安は薄れていきます。
対策③ 完璧を求めない
学習性無力感から行動力をあげるためには、100点を目指さないことが大事です。完璧主義ではなく、60点~70点できればいいやくらいの気持ちでいることが大事です。
学習性無力感を軽減して、行動に結び付けるためには行動療法という心理療法も有効です。こちらのコラムでは行動療法について詳しく解説しています。
⑤関連コラム
アパシー
アパシーとは感情体験が生起せず、無感動、無関心になる状態です。学習性無力感とも関連が深い概念になります。アパシーについて理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
抑うつ状態
学習性無力感によって抑うつ状態になることも知られています。ネガティブな感情が増えて、元気がない状態を指しますが、うつ病とは異なり疾患ではありません。
さらに詳しい解説は以下のコラムで解説をしています。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典
[1]中島ら編(1999) 心理学辞典 有斐閣
[2]荒木有希子(2000)教示による原因帰属の操作が学習性無力感に与える効果 心理学研究 (6), 510-516
[3]都築繁幸,花井志帆(2019) 発達障害児の学習性無力感 東京通信大学紀要 (2), 75-87
[4]手嶋 竜二, 金川 一夫(2021) 簿記教育における目標志向性と学修意識が学修行動に及ぼす影響 環太平洋大学研究紀要19 57-66, 2021-11-30