非言語コミュニケーションの意味
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「非言語コミュニケーション」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①非言語コミュニケーションとは
②非言語コミュニケーションの目的
③非言語コミュニケーションの種類
④メラビアンの法則とは
⑤非言語コミュニケーションの研究
是非最後までご一読ください。
非言語コミュニケーションとは
意味
非言語コミュニケーションは心理学辞典(1999)[1]によると以下の意味があります。
言語記号による意味を手がかりとするコミュニケーションに対する概念であり言語記号以外の手がかりからなる過程
少し難しい言葉ですね。わかりやすく言い換えると「表情、身振り手振りを使ったやりとり」と考えると良いでしょう。
言語,非言語の違い
私たちは日々、以下の手段を元に、コミュニケーションをしています(末田ら,2003)[2]。
上の図のように、書いたり、話したり、言葉そのものを使ってやり取りすることを言語コミュニケーションと言います。一方で外見、しぐさ、身振り手振りなど、言葉以外のあらゆるやり取りは非言語コミュニケーションに分類されるのです。
歴史
・1872年
チャールズダーウィンは「人間と動物の感情の表現 」[3] において、人間を含むすべての哺乳類が、表情を通して感情を伝達することを主張しました。例えば、哺乳類の多くは怒ると、嫌悪感を感じた時は鼻にしわを寄せます。
・1900~1950年代
1800年代に非言語コミュニケーションと言う概念は出てきたものの、研究はあまり発展しませんでした。理由としては、多くの心理学者の興味が、心の病気の改善に目が向いていたことと、そもそもどう研究すれば良いか?その手法が未発達だったからと言えます。
・1950年代
1950年代になると、コンテキスト分析と呼ばれる分析手法が確立されます。コンテキスト分析は、人間の行動パターンを、記録することで、詳細な分析を可能とする手法となります。心理学の研究手法が発展していくにつれて、徐々に非言語コミュニケーションの研究が盛んになり始めます。
・1960年代半ば
1960年代になると、アーガイル、ジャネットディーンという有名な心理学者が非言語コミュニケーションの詳細な研究を始めました。そのころから、アイコンタクト、パーソナルスペース、身振り手振り研究などが行われるようになっていきました。
*人間と動物の感情の表現
非言語コミュニケーションの目的
非言語コミュニケーションには、以下の3つの目的があります。
信頼関係を構築する
言語情報だけのやり取りでは、相手と信頼関係を構築することはとても難しくなります。例えば、LINEでのやり取りなどでも、文字だけの人は、お堅い人だと思われがちです。一方で、バランス良く、スタンプや絵文字などが入っていることで、感情交流を可能にし、信頼関係を構築しやすくなります。
話の内容を補う
言葉の内容を身振りや手振りを使って、より分かりやすく表現することができます。例えば、「これくらい」という言葉を使う時に、両腕を使って〇を書くことで、大きさを視覚的に伝えるなどがあります。
相手に深い共感を示す
非言語コミュニケーションを用いることで、相手の話に対する「リアクション」がより明確になります。相手が悩みを打ち明けている時に、ゆっくりと深く頷きながら話を聞くことで、”寄り添ってもらえている”という印象を残すことができます。また、相手がユーモアを言った時に、それに対して自分も笑うことで、共感が深まっていきます。
非言語コミュニケーションの種類
Knapp,M.L(1978)[4]によれば、非言語コミュニケーションは次の7つに分類されます。
①身体動作
身振り手振り、表情、視線などのボディランゲージが当てはまります。ジェスチャーや視線の動き、わずかな表情の動きによっても、与える印象が変わってきます。例えば、真顔で「好きです!」と言われるより、笑顔で「好きです!」と言われた方が好印象な場合が多いです。
②身体の特徴
髪型、顔の作り、身長、体形などが挙げられます。人の容姿によって、同じ発言でも説得力が変わったり、好意的に思われる確立が変わったりします。例えば、太っている人が「運動をしましょう!」というより、引き締まった体の人が「運動をしましょう!」といった方が説得力があります。
③接触行動
ボディタッチ、ハグ、握手、ハイタッチなどが挙げられます。接触行動は相手との距離の近さを感じさせる非言語コミュニケーションです。相手のパーソナルスペースに入る必要があり、物理的な距離が近くなることで、心理的な距離も近くなっていきます。ただ、関係性ができていない段階では、警戒心があるため、馴れ馴れしい印象を与えることも多いです。
④近言語
「あぁ」「えぇ」「はい」といった相槌や、声のトーンやイントネーション、滑舌や発音などが挙げられます。相槌の多さや、滑舌の良さなどによって、メッセージの伝わり方が変わってしまいます。例えば、暗いトーンで「おはようございます」と話すより、明るいトーンで「おはようございます」と話す方が、好印象になることが多いです。
⑤プロクセミックス
プロクセミックスとは、人類学者E.T.ホールが提唱した理論で、相手との距離のとり方はコミュニケーションの1つであるという考え方になります。パーソナルスペース、対人距離、縄張りなどが挙げられます。
先ほどの接触行動でも触れましたが、距離の近さによってもコミュニケーションの意味が左右されてしまうのです。信頼関係のある人には、パーソナルスペースでの交流はストレスになりませんが、赤の他人とは一定の距離を取らないと、ストレスを感じてしまいます。ただ、文化的な差があり、日本より欧米の方が近い距離でも、気にならない傾向にあります。
⑥人工物の使用
ファッション、アクセサリー、化粧、香水などが挙げられます。装飾品を見つけることは、特に第一印象を良くする場合はに有効です。例えば、現在では整形メイクと呼ばれるものがあり、目を大きくしたり、鼻筋を通らせたりすることで、化粧によって美人になるメイクの方法が流行っています。
⑦環境
場所、インテリア、明るさ、温度、湿度などが挙げられます。非言語コミュニケーションというと、個々人の行動に規定されると思いがちですが、その場所の環境によってもコミュニケーションに影響が出てしまうのです。例えば、ある研究では、気温が熱い方が説得されやすいという報告があります。
メラビアンの法則とは
メラビアンの法則とは
非言語コミュニケーションの重要性を説いた法則として、「メラビアンの法則」があります。メラビアンの法則とは、「言語と非言語の意味が不一致している場合、人は非言語的な情報を優先して受け取る」という法則です。1971年に心理学者のアルバート・メラビアンが提唱した法則です。Mehrabian, A. (1971)[5]は、以下の2つの実験を行いました。
声とトーンの実験
被験者たちに、合計で9つの「好意」「中立」「悪意」を連想させる単語を聞いてもらいました。9つの単語は、言葉の意味とは反する声のトーンで録音されています。例えば、笑顔で嫌いと言われるなどです。
その後、被験者たちは話し手はどんな感情だったか、尋ねられました。結果、多くの被験者は話し手の非言語的な部分を重視して、感情を評価していることが分かりました。
そうかもしれない実験
被験者たちに「好意」「中立」「悪意」を連想させる声色で録音された「maybe(そうかもしれない)」という単語を聞いてもらいました。それと同時に、「笑顔」「無表情」「怒った顔」の3種類の女性の写真を見てもらい、女性の感情を評価してもらいました。
その結果、多くの被験者は写真の表情をもとに、感情を判断していることが分かりました。この2つの実験から最終的にコミュニケーションで与える影響は、それぞれ以下のようになりました。
視覚情報(Visual)
→影響度55%
・
聴覚情報(Vocal)
→影響度38%
・
言語情報(Verbal)
→影響度7%
上記のような結果から、メラビアンの法則は、別名3Vの法則、7-38-55の法則と呼ばれることがあります。しかし、この実験結果は、あくまでも言語と非言語の不一致が起きている時の影響度を表しています。言語と非言語が一致している場合は、その限りではありません。
非言語コミュニケーション研究
これまで心理学の世界では非言語コミュニケーションに関する様々な心理学的な研究がなされてきました。以下折りたたんで記載しましたので、気になる項目をクリックしてみてください。
梅野(2005)[6]は非言語コミュニケーションと好感の関係について、大学生230名に対して調査を行いました。その結果、笑顔は印象形成において一番大事であることが分かったのです。
女性の場合、にこやかな表情よりも髪色や洋服に人生をかけている時間が長そうですが、それと同じぐらい笑顔のあり方が印象形成に関わるのです。
男性は笑顔の訓練をしている方は少ないかもしれません。もしあなたがお客さんと対面するサービス業をしている場合はビジネス的に不利になっている可能性があります。
青山・戸北(2005)[7]は、小学5年生を対象にアイコンタクトと発話の関連を調べています。その結果の一部が下図となります。概観してみてください。
この図からわかるように、視線を感じている人は、発話数が増える傾向にあることがわかります。特に女性は視線を受ける・受けないが発話数の変化に大きく影響しています。
会話場面でうつむいていたり、スマホをいじっていると、会話に入れない可能性が高まると言えます。
八重沢ら(1981)[8]の研究によれば、女子学生38名を対象に「対人距離が不安・緊張に与える影響」を調べています。
研究では、面識のない男子学生に接近されるという状況で、距離の違いによってどのような心理的な影響ができるかを調査しました。その結果が以下の図です。
このように、距離が近いほど不安・緊張の大きさが高まっていることがわかります。つまり、面識のない相手とは一定の距離を保ってコミュニケーションを行った方がよさそうです。
藤原(1986)[9]の研究では、大学生162名を対象にジェスチャーが印象形成にどのような影響を及ぼすかを調べています。実験では、参加者たちを無作為に、
・ハンドジェスチャーあり
・ハンドジェスチャーなし
のグループに分かれてもらい調査を行いました。その結果が以下の図です。
このように、ハンドジェスチャーありの方がグラフが伸びていることがわかります。つまり、ジェスチャーを使った方が、知的にみられる傾向が高まるということです。
ミラーリングは、言葉通りに鏡に映っているように仕草をまねることです。ミラーリングの効果について、内田ら(2018)[10]は対人魅力に及ぼす影響を報告しています。実験では、初対面の者と実験者と受験協力者が2回対面します。
・対面:1回目
実験者と実験協力者は、実験前に対面して簡単な自己紹介を行います。実験者が退出後、実験協力者の印象について回答してもらう。
・対面:2回目
実験者と実験協力者が再び対面し、対面中でミラーリングを行い、その後、もう一度印象について回答をもらいました。
ミラーリングでは、鼻をつまむ、口を触る、前髪をおさえる、など、15個の仕草を模倣しました。
結果について、以下の2つの視点で解説します。1つ目は「社交的魅力」です。社交的魅力とは、好感や親しみやすいと感じる魅力です。
ミラーリングすることで、相手に自分のことを
「好感を持てる人だな」
「親しみやすい人だな」
と感じてもらえます。
2つ目は「成熟的魅力」です。成熟的魅力とは、理解があり誠実だと感じる魅力です。
ミラーリングをすることで、相手に自分のことを
「理解力のある人なんだな」
「とても誠実な人だな」
と感じてもらえます。この研究から、ミラーリングをすることは、対人関係において、相手にプラスの印象を与える効果があることがわかりました。
好意の返報性の効果が得られるミラーリングをすることで、円滑な人間関係を築きやすくなります。
関連コラム
パーソナルスペース
人間関係の心の距離感、物理的な距離感を表す言葉としてパーソナルスペースがあります。非言語コミュニケーションとして代表的な用語です。
第一印象をよくする方法
より実践的に非言語力をアップさせたい方は以下のコラムを参照ください。第一印象を良くする方法を解説しています。
嘘を見抜く方法
嘘は非言語によく表れます。非言語的てがかりから嘘を見抜くコツを知りたい方は以下のコラムを参照ください。
コミュ力をつけたい方へ
コミュニケーションに関する学びを深めたい方、トレーニングをしたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。
・笑顔、姿勢、非言語トレーニング
・印象を良くする,会話の基礎練習
・人前で活き活きと話す練習
・ストレスに強くなる,心理療法の学習
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 中島 義明 子安 増生 繁桝 算男 箱田 裕司 安藤 清志 (1999).心理学辞典 有斐閣
[2] 末田ら(2003).コミュニケーション学 : その展望と視点 松柏社
[3] チャールズダーウィン(1931).人及び動物の表情について 浜中浜太郎 訳 岩波書店
[4] Knapp,M.L.(1978).Nonverbal Communication in Human Interaction, 2nd ed.
[5] Mehrabian, A.(1971).Silent messages. Wadsworth, Belmont, California.
[6] 梅野莉奈(2015).好感をもたらす非言語コミュニケーションに関する研究 目白大学大学院 修了論文概
[7] 青山 康郎・戸北 凱惟(2005).発話を促す話し合いの場に関する研究 日本教科教育学会誌 第28巻 第1号
[8] 八重沢敏男・吉田富二雄(1981).他者接近に対する生理・認知反応―生理指標・心理評定の多次元解析― 心理学研究 52(3), 166-172, 公益社団法人 日本心理学会
[9] 藤原武弘(1986).態度変容と印象形成に及ぼすスピーチ速度とハンドジェスチャーの効果 The Japanese Journal of Psychology, Vol. 57, No. 4, 200-206 広島大学
[10] 内田空・寺坂明子・池田浩之(2018).対話状況におけるミラーリングが対人魅力に及ぼす影響 発達心理臨床研究 42,9-16.