選択のパラドックスの意味とは
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「選択のパラドクスの意味」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①選択のパラドックスとは
②2種類の後悔
③選択のパラドックスと関連研究
④関連研究コラム
最後まで読むと選択のパラドックスの意味を一通り理解することができます。是非最後までご一読ください。
①選択のパラックスとは
提唱者
選択のパラドクスは心理学者のバリーシュワルツが「The Paradox of Choice – Why More is Less」[1]という著書を執筆し、世に広めた言葉です。
シュワルツは主に、意思決定や社会の相互関係を、心理学や経済学と絡めながら研究を行っています。心理学をベースにニューヨークタイムズへも頻繁に社説を投稿しています[2]。2016年からカリフォルニア大学バークレー校の客員教授を務めています。
意味
シュワルツ(2002)は選択のパラドクスを以下のように定義しています[3]。
選択肢が増えるほど、困惑しやすくなり、選択後に後悔しやすくなること
私たちは決断をするときに、できれば複数の選択肢があるほうが有利と考えます。一方で、選択肢が多いほど、迷いが生じてしい、さらには決断した後も、後悔をしやすくなるとされています。具体例としては以下が挙げられます。
仕事の選択肢が多すぎて何をすればいいかわからない。
就職した後も、他の仕事が気になり転職を繰り返す。
・
出会いが多い環境で、どの異性と付き合うか決めきれない。
付き合ったとしても他の異性が気になり長続きしない。
主張
シュワルツ (2004)[1]は著書の中で以下のように主張しています。
Autonomy and freedom of choice are critical to our well being , and choice is critical to freedom and autonomy. Nonetheless, though modern Americans have more choice than any group of people ever has before, and thus, presumably, more freedom and autonomy, we don’t seem to be benefiting from it psychologically
自律性と選択の自由は私たちの幸福にとって極めて重要であり、選択は自由と自律性にとって極めて重要です。それにもかかわらず、現代のアメリカ人にはこれまでのどの集団よりも多くの選択肢があり、したがっておそらくより多くの自由と自律性があるにもかかわらず、心理的にはその恩恵を受けていないようです。
②2種類の後悔
シュワルツは著書において2種類の後悔を述べています。
決定後後悔
選択肢が複数ある中で、選んだ結果、後になって後悔するのが決定後後悔です。英語表記ではpostdecision regretとされています。例えば、昼ご飯の選択肢が複数あるなかで選んだ結果、もっと別のものにしておけばよかったなど後悔します。
見越し後悔
目の前の選択肢だけでなく、未来の選択肢まで考えすぎて、決断できないのが見越し後悔です。英語表記ではanticipated regretとされています。例えば、家の購入を考えていた時に、もっといい家が今後出てくると考え続け、決断できず、結局、気に入っていた物件を買うことができないなどが挙げられます。
③選択のパラドックスと関連研究
商品数と売上への影響
Sheena S. Iyengarら(2000)[4]は選択肢の多さと、消費行動との関連について調査を行いました。研究では、スーパーマーケット内に以下の2つの売り場を設けました。
実験内容
・スーパーマーケットにジャムの試食コーナーを設置します。
・試食コーナーで24種類のジャムを陳列した日と、6種類のジャムを陳列した日の2つの条件で購入率を調査します。
6種類のジャムの試食販売をする
24種類のジャムの試食販売をする
その後、売り場に訪れた人数を記録して、それぞれの購買率を比較しました。6種類の売り場には、242人の買い物客が通りかかり、24種類の売り場には、260人の買い物客が通りかかりました。
その結果、試食販売後の購入率は、以下のようになりました。
6種類の売り場 ⇒約40%が立ち止まり、約30%が購入(31人が購入)
24種類の売り場 ⇒約60%が立ち止まり、約3%が購入(4人が購入)
つまり、選択肢の多さによって集客力はあがりましたが、購入率は選択肢が少ない場合よりも10倍も低い結果が報告されたのです。ビジネス上は選択肢を絞ることが重要であることがわかります。
生活の質が下がる
原田等(2007)[5]は女性看護師227名を対象にQOL(クオリティオブライフ)についての調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
上図は、20代、30代にとって優柔不断な傾向が高いほど、人生の充実感がマイナスになるという結果になってます。ここからは推測となりますが、選択肢が多く、優柔不断な状態になりやすい環境は、生活の質を下げる可能性があることが示唆されます。
④現代社会と選択の多さ
シュワルツ (2004)[6]の著書の中では第2章で以下のような具体的な事例が挙げられています。
・電話・電力のプランの選択
・米国の任意加入健康保険のオプションの保障
・米国の年金プランの複雑さ
・米国の健康診断の診断項目の選択
・実際に病気にかかった時の治療法の選択
・種々の民間療法や代替療法における選択
・美容整形により好みの要望を選択
・転職先の情報を監視することの時間的負担
・職場に行く時の服について選択肢の複雑さの問題
・結婚における選択。誰と結婚するか、共働きかなど
・宗教における選択
・個人のアイデンティティにおける選択
これらの項目を受けて、長谷川ら(2013)[7]出典はシュワルツの主張は必ずしも日本国内では当てはまらないものの「つまり同じ構造の、適切な選択が困難になっているという点は日本においても共通しているように思われると主張しています。
④関連コラム
優柔不断の心理と治し方
選択のパラドクスと近い概念として優柔不断が挙げられます。研究も豊富で、選択のパラドクスをより深いすることに役立ちます。以下のコラムでは、研究や治し方を解説しています。興味がある方がご参照ください。
後悔しない生き方
選択のパラドクスを理解する上では「後悔」について理解を深めることが大事です。シュルツは複雑な状態での決断は後悔を生みやすいと主張していますが、実際には決断をすると後悔は少ないという研究もあります。以下のコラムでは後悔の研究と後悔しないコツを解説しています。参考にしてみてください。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] Schwartz, Barry (2004). The Paradox of Choice. New York, United States: Harper Perennial.
[2] Barry Schwartz(psychologist) Wikipedia
[3] Schwartz, B., Ward, A., Monterosso, J., Lyubomirsky, S., White, K., & Lehman, D.(2002)「Maximizingversus satisficing : Happiness is a matter of choice.」Journal of Personality and Social Psychology
[4] Sheena S. Iyengar Mark R. Lepper(2000).When Choice is Demotivating: Can One Desire Too Much of a Good Thing? Journal of Personality and Social Psychology Vol. 79, No. 6, 995-1006
[5] Maddux, J.E. (2014). Mental health and self-esteem. In W.C. Cockerham, R. Dingwall, & S. Quah (Eds.), Wiley-Blackwell Encyclopedia of Health, Illness, Behavior and Society. New York: Wiley-Blackwell.
[6] 原田貴史,中村明美, 友竹正人大森哲郎(2007).女性看護職の強迫傾向が主観的QOLに及ぼす影響 47 巻 1 号 p. 33-40
[7] 長谷川芳典,藤田益伸(2007).高齢者における選択のパラドックスの実情 心身医学 47 巻 1 号