パーソナルスペースの意味とは

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「パーソナルスペース」について解説していきます。

目次は以下の通りです。

①パーソナルスペースの意味
②物理的パーソナルスーペース研究紹介
③心理的パーソナルスペース研究紹介

是非最後までご一読ください。

①パーソナルスペースの意味

意味

パーソナルスペースは心理学辞典(1999) [1]で以下のように定義されています。

個人を取り巻く目に見えない、持ち運び可能な境界領域で、その中に他者が入ると心的不快を生じされる空間

私たちはそれぞれ目に見えない、物理的なテリトリー、心理的なテリトリーを持っています。この領域は、相手との関係性などによって、広くなったり狭くなったりします。この広さは個人差があるため、対人関係でトラブルになることがあります。

物理的距離

パーソナルスペースは大きくわけて2つあります。1つは「物理的な距離感」です。例えば、初対面が50センチの距離感にいたら、大概の方は不安になります。一方で、家族や恋人であればすぐ近くに家族がいても自然なこととして受け入れることができます。

心理的距離

2つ目は心理的な距離感です。例えば、私たちは初対面では、通常お互いのことがよくわからないので、最初は天気の話題や、食べ物の話題などで警戒心を取るようにします。距離感を取るのが苦手な方はいきなり、深い話をしたり、恋愛関係の話をしてしまい、なれなれしいと感じられることがあります。

②物理的なパーソナルスペース研究

物理的なパーソナルスペースについて4つの研究を紹介します。

①4つの距離感

エドワード・T・ホール(1966) [2]は、観察と面接を通して、人間には4つの距離感があると主張しました。

画像:wiki

①Intimente Space
インティメントスペースは、親しい中の人しか入れない領域です。
例:家族、恋人

②Personal Space
パーソナルスペースは、比較的私的な関係が入れる領域です。
例:仲の良い友人

③Social Space
ソーシャルスペースは、公的な関係の人が入れる領域です。
例:上司と部下、接客

④Public Space
パブリックスペースは、より公的な関係性が強い場合に入ってよい領域です。
例:演説をする場面、複数人と公的な場所でコミュニケーションをする場面

人との距離感がわからない人は、パーソナルスペースには4つの距離感があることを意識し、相手と関係性や場所、状況に応じて適切な距離を使い分けることが大切です。

②パーソナルスペースは男女で異なる

渋谷(1985)[3]は大学生184人を対象に、パーソナルスペースについて調査を行いました。調査では、図に描いてある人物像を自分自身と見なし、日頃持っていると感じている空間の大きさを各方向について描いてもらいました。その結果がこちらの図です。

このように、女性と比べ、男性はパーソナルスーペースが広いことがわかりました。一つ目にご紹介したホールの研究では、パブリックスペースが7メートルぐらいでした。つまり日本人の男性は、パーソナルスペースを比較的大きめにとっていると言えるかもしれません。

一方でパーソナルスペースは、環境や文化によって大きく変わります。例えば以下のような例が挙げられます。

・暗い夜道を歩く
男性より女性の方が警戒心が強くなるためパーソナルスペースが広くなります

・同性との距離感
男性と男性との場合、パーソナルスペースが広くなる 女性と女性の場合は、狭くなる

さらには人それぞれ異なるパーソナルスペースを持っており、状況によって距離感の取り方も変わります。

③座る場所が気分に影響する

山口ら(1996)[4]は、初対面の大学生男女20名(男性10名/女性10名)を対象に、座席配置が気分に及ぼす影響について調査を行いました。その結果を以下に簡略化します。

正面に座った時 緊張38.6
斜めに座った時 緊張35.2
隣りに座った時 緊張30.7

真正面に座ると、相手の視線をすべて集めるため見られている感覚が強くなるため緊張感が高まってしまいます。緊張しやすい人は、横並びの席を選ぶと緊張感がほぐれ、良い距離感が保てると言えそうです。初デートや大切な食事会は、隣に座れるテーブルを予約するのもおすすめです。

④接近の仕方による違い

吉田ら(1989)[5]は大学36名を対象に、人が近寄ってくるパターンを分析し、パーソナルスペースが変化するかを調査しました。以下は接近されるときの違いになります。

パーソナルスペースの変化

条件A~Cは3人のうち2人は友人となります。その結果、以下のように感じるスペースに違いが出たのです。

パーソナルスペースの違い

上記のように1対1で接近してくるケースが一番、パーソナルスペースが広く取られ警戒されやすくなります。一方で条件Cのように、周りを囲まれるように接近されるケースでは、友人に守られていると感じ、パーソナルスペースを狭く取るようになります。このように接近する条件や人数によってもパーソナルスペースは変化するのです。

③心理的なパーソナルスペース研究

次に心理的なパーソナルスペースについて2つの研究を紹介します。

①自己開示と距離感

アルトマンとテイラー(1973)[6]の社会的浸透理論で以下の6分円を提唱しました。円は外側から中に行くほど深い自己開示を示しており、矢印は話題の進捗度を表します。

アルトマンとテイラーの6分円

円の外側:表面的な話題
円の中間:やや踏み込んだ話題
円の内側:深い話題

アルトマンとテイラーの6分円では、自分が自己開示をすると相手もしやすくなり、徐々に深い話ができるようになっていくことを意味しています。初期は、外側の表面的な話題からスタートし、中期には内側の話題へ移行していきます。そして後期には、より一層踏み込んだ非常に深い話題にも触れていくことが図からわかると思います。

人との距離感がわからない人は、相手が内側の話題に触れたら、自分も内側の話題に進むくらいゆっくりと人間関係を深めていくと良いことが示唆されています。

②母親との心理的距離

金子(1991)[7]は、国立A大学の女子学生139名, 私立B女子高校生149名を対象に、友人関係・親子関係の心理的距離について研究をしました。具体的には、女子学生と女子高校生を2つのグループに分け、母親との心理的距離感を調査しています。以下はその結果を簡略化して示しています。

学校に行きたくないグループ:15.73
学校が楽しい・行きたいグループ:10.77

母親との心理的距離感が遠いほど、登校したくない気持ちが強くなり、母親と距離感が近いほど学校が楽しいと思える傾向があるとわかりました。

子どもと母親との心理的距離感があると、日ごろの疲れを回復する場所がないため、学校に行きたくない気持ちが強くなるのかもしれません。子どもとの距離感がわからない、難しいと感じている方は、学校でのストレスを自宅で回復できるような環境を作ってあげるいいでしょう。

心理的距離感のまとめ

心理的距離感についての研究は、非常にたくさんあります。ここでは数ある心理的距離感の研究を参考に、近い人遠い人の良い点と悪い点を図にまとめました。

このように心理的距離が近い人は、チームワークがよく、親友になりやすい傾向がある一方で、ネガティブな発言で相手を傷つけてしまう、仲が良くなりすぎるがゆえに依存的になりやすいので注意が必要です。

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人間関係講座のお知らせ

人間関係に関するトレーニングをしたい方、心理学をより深く学びたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。

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パーソナルスペースの意味とは,心理学講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 中島 義明・子安 増生・繁桝 算男・箱田 裕司・安藤 清志(編)(1999).心理学辞典.有斐閣 P712
[2] Hall.Edward T.(1966).The Hidden Dimension, Doubleday&Company, Inc.論文
[3] 渋谷昌三(1985) .パ―ソナル・スペースの形態に関する一考察,山梨医大紀要  第2巻,41-49(1)
[4] 山口創,鈆木 晶夫(1996).座席配置が気分に及ぼす効果に関する実験的研究,実験社会心理学 36巻 2号
[5] 吉田富二雄・堀洋道. (1989). 仲間集団の存在および視線遮断がパーソナル・スペースに及ぼす効果. 心理学研究, 60(1), 53-56.
[6] Altman, I., & Taylor, D. A.(1973). Social penetration: The development of interpersonal relationships. Holt, Rinehart & Winston.
[7] 金子俊子(1991).青年期女子の親子・友人関係における心理的距離の研究,青年心理学研究 第3卷 p.10-19