偏見の意味とは
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「偏見」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①偏見とは何か
②偏見の種類
③偏見のメカニズム
④偏見についての研究
ぜひ最後までご一読ください。
①偏見とは何か
意味
偏見とは心理学的には以下のように定義されています。
特定の集団に対する否定的な態度のこと。態度の三要素説によれば,認知・感情・行動が態度を構成する。偏見は認知的要素・感情的要素の複合体をさす(心理学辞典,1999)[2]。
具体例
・あの国はうるさい人ばかりだ
・研究者は頭が固そう
・A型は生真面目だ
偏見研究の歴史
1910年ぐらいまでは、偏見は問題として認識されていませんでした。人種間の違いは、生物学的な違いにあるとされ、差別や偏見はごく当たり前のものとされていました[3]。
偏見の研究は1920年代から始まりました。しかしこれらの研究は白人至上主義を裏付ける目的で行われたものでした。Garth(1930)[4]は人種に関する73の研究を分析し、白人の方が優秀であると結論付けました。その結果、余計に偏見が助長されてしまいました。
その後の偏見研究の歴史を折りたたんで記載しました。気になる項目をクリックしてみてください。*歴史の流れは英語版WIKIを参考に要約して作成しました[5]。
1930年~1940年代には、ナチスの反ユダヤ主義への関心が高まり、偏見は問題であるという機運が高まっていきました。そして偏見を持つ人のパーソナリティの研究が進んできました。
その中の1人であるテオドール・アドルノは、偏見を持つ人は「権威主義的パーソナリティ」があると考えました。権威主義的パーソナリティとは、強者や権威を批判なしに受け入れ、立場の弱い人に批判的になる社会的性格のことです。アドルノは権威主義的パーソナリティを持つ人々は、低い地位のグループに対して偏見を持つ可能性が高いと考えました。
1954年、ゴードン・オルポートは、自身の著書「偏見の性質」[6]で、偏見をカテゴリー的思考に結び付けました。カテゴリー思考とは、複雑な世界を理解できるように単純化・構造化する思考のことです。オルポートはカテゴリー思考について以下のように説明しています。
人間はカテゴリーの力を借りて考えなければなりません。そして、カテゴリーは先入観の土台です。私たちは、ほとんどの場合、カテゴリー思考のプロセスを避けることはできません。
オルポートは、偏見は人間にとって自然で正常なプロセスであると主張しました。つまり、カテゴリー的思考で物事を単純化する中で、偏見が構築されると考えたのです。
1970年代になると、偏見は自分の集団に対する好意が大きいほど起こりやすいということがわかってきました。社会心理学者のマリリン・ブリューワーは、
偏見はグループの外から嫌われているからではなく、賞賛、共感、信頼などの前向きな感情がグループ内に留まっているために発生する可能性がある
と説明しています。自分のグループを肯定的に見るほど、他のグループに対する偏見が強まると考えたのです。
②偏見の種類
偏見には様々な種類があります。人種、性別、年齢、宗教、ジェンダー、社会的地位など、さまざまな要因によって偏見が生まれます。偏見は人々の心に潜むものであり、無意識のうちに行動や判断に影響を与えることがあります。
偏見を理解し、それが私たちの思考や行動にどのように影響を与えるかを認識することが大切です。下記に偏見の種類を解説していきます[5]。
人種差別(Racism)
人々をその人種に基づいて判断し、ある人種を他の人種よりも優れているとか劣っているといった先入観や偏見を持つことです。人種差別は長い歴史を持ち、社会に深い影響を及ぼしてきました。
性差別(Sexism)
ある性別を他の性別よりも優れているとか劣っているといった先入観や偏見を持つことです。特定の性別に対して不適切なステレオタイプや役割を割り当てることが含まれます。
年齢差別(Ageism)
年齢に基づいて個人やグループを判断し、特定の年齢層に対して否定的な偏見を持つことです。特に高齢者への偏見が問題となっています。
宗教差別(Religious Prejudice)
特定の宗教や信仰に属する人々に対して、先入観や偏見を持つことです。宗教的な信念に基づいて差別や排斥が行われる場合があります。
ジェンダー差別(Gender Prejudice)
ジェンダーの多様性を理解せず、特定のジェンダーに対して偏見や差別的態度を持つことです。LGBTQ+コミュニティに対する偏見も含まれます。
ソーシャルクラス差別(Classism)
社会的地位や経済的な要因に基づいて、特定の社会階層を差別し、偏見を持つことです。経済的な格差が顕著な社会ではより深刻な問題となります。
エイブリズム(Ableism)
身体的・知的・精神的な障害を持つ人々に対して、先入観や偏見を持つことです。彼らに対して差別的な態度をとることがあります。
これらは偏見の一部であり、社会には他にも様々な形態の偏見が存在します。偏見を理解し、これらの問題に対処することは、より包括的で公正な社会を築くために重要な課題となっています。
③偏見のメカニズム
ステレオタイプ
「ステレオタイプ」という言葉は、ウォルター・リップマン(Walter Lippmann)が1922年に著書「Public Opinion」で初めて提唱しました[7]。彼はこの言葉を、人々が世界を理解する際に簡略化されたイメージや固定観念を使う傾向を指摘するために使用しました。
「ステレオタイプ」とは、特定のグループや物事に対して一般的に持たれる固定されたイメージや判断のことを指し、しばしば偏見や先入観につながることがあります。
ステレオタイプは、人々が社会の複雑な現実を簡単に理解し、情報を処理するために使われる認知の手段です。人々は無意識のうちに、特定のグループや個人に対して共通の特徴や行動パターンを把握しようとします。これにより、大量の情報を処理する時間とエネルギーを節約できますが、同時にステレオタイプは偏見の根源となり得ます。
アンコンシャスバイアス
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)という概念は、マザリン・バナジ,アンソニー・グリーンウォルドが提唱しました[8]。1980年代から1990年代初頭にかけてこの概念を研究し、無意識の心理的プロセスが人々の判断や行動にどのように影響を与えるかに焦点を当てました。
アンコンシャスバイアスとは、人々が意識的に気づいていない、あるいはコントロールできない無意識の心の中で形成される先入観や偏見を指します。これらのバイアスは、人々が自己の意識に対して持っている意図や価値観とは無関係に、思考や意思決定に影響を及ぼす可能性があります。
④偏見についての研究
李ら(2018)[9]は、20代の男女42名を対象に、認知的不協和理論を用いた偏見を抑制する研究を行いました。手順は以下の通りです。
①偽善テーマを書かせる,書かせない
まず初めに以下の2群に分けます
・統制群
何もしない群
・疑似統制群
タトゥーへの偏見をなくすべきというエッセイを書いてもらうグループ
②現実に直面させる
実際それが出来たかを書いてもらいます。そして参加者の多くは偏見的な態度をとったことがあります。即ち強制的に認知的不協和を作り出したのです。先ほど書いた偏見をなくすべきというテーマとギャップが生じ、認知的不協和となります。
③偏見の大きさを調査する
この2つのプロセスで偏見の大きさがどうなったのかを調査しました。グラフでは
「偽善モデル導入群(偽善テーマを書いた群)」
「統制群(
を比較しています。
表から「統制群」に比べて「偽善モデル導入群」がタトゥーに対する偏見が小さくなっていることが分かります。
この実験から言えることは、とりあえず偽善でも良いので、偏見はだめだ!と書くことで、現実の自分との認知的不協和が生じ、不協和を解消するために、実際に偏見をなくそうと心が変化していくことが示唆されています。
この原理を応用すると、例えば、犯罪を犯してしまった少年に、本来ならどう生きるべきだったか理想を掲げてもらうことで、実際に自分の考えを変えるきっかけにできるかもしれません。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] Allport, Gordon (1979). The Nature of Prejudice. Perseus Books Publishing. p. 6
[2] 中島 義明・子安 増生・繁桝 算男・箱田 裕司・安藤 清志(編)(1999).心理学辞典.有斐閣
[3] 池上 知子(2014).差別・偏見研究の変遷と新たな展開 大阪市立大学大学院 教育心理学年報 53 (0), 133-146
[4] Garth, T. Rooster. (1930). “A review of race psychology“. Psychological Bulletin. 27 (5): 329–56. doi:10.1037/h0075064.
[5] Wikipedia Prejudice
*[6]は[5]を参考にして記述しました。
[6] Wikipedia The Nature of Prejudice
[7] Lippmann, Walter(1922).Public Opinion: The Original Edition. Suzeteo Enterprises
[8] Greenwald, A. G., & Banaji, M. R. (1995). Implicit social cognition: Attitudes, self-esteem, and stereotypes. Psychological Review, 102(1), 4–27.
[9] 李瑋琳,宮下達哉,岡隆(2018).偏見の低減への認知的不協和理論に基づく偽善モデルの適用 日心第82回大会