返報性の原理,法則の意味

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「返報性の原理,法則」について解説していきます。

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目次は以下の通りです。

①返報性の原理とは何か
②ポジティブな返報性
③ネガティブな返報性
④返報性の原理と研究
➄返報性と社会学
⑥関連コラム

是非最後までご一読ください。

 

①返報性の原理とは何か

返報性の原理はグールドナーという社会学者が1960年に提唱したことで有名になった概念です。グールドナーは返報性の原理を以下のように説明しています[1]

人は、支援されると、支援をしてくれた人を助けたくなり、以前受け取った援助が大きいほど、返報行為は促進される

人間には、何かをしてもらったら、何かを返したくなるという基本的な本能があります。その対象は、好意、敵意、物質など幅広く挙げられます。返報性の原理はこれらを広く総称したものになります。

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例えば、友達が親切にしてくれたら、その気持ちに応えて感謝の気持ちを示すことが一般的です。これによって、お互いの関係が良い方向に向かいます。ビジネスシーンでも同様で、プレゼントを配ったり、商品を一部無料で提供したりすると、それに応えて何かしら行動を起こすことが期待されます。

つまり、返報性の原理は「Give and Take」の考え方で、お互いが助け合いながら良い関係を築くベースとなる考え方として用いられています。

②ポジティブな返報性

①好意の返報性

好意の互恵性は、バーシェイドとウォルスターという学者が1969年に提唱しました[2]。具体的には自分に好意を示した相手には、同じように好意を返したくなる心理を意味します。例えば、男性から好意を寄せられた女性が、その男性を好きになってしまうことなどが挙げられます。

②譲歩の返報性

譲歩の返報性とは、譲歩されると、譲歩したくなる心理を意味します。たとえば、電車で座席が1つしか空いていない時に、席を譲り合う行為などが挙げられます。

③贈答物と返報性

贈答物の返報性とは、何かをプレゼントしてもらったり、金銭的な援助をもらうと、相手にお返しをしないと…と考える心理を意味します。例えば、年賀状をもらったら返信する、お中元を返す、プレゼントをもらった人にお返しする、これらが贈答物の返報性にあたります。

④自己開示の返報性

自己開示の返報性とは、自己開示をされると、こちらも自己開示したくなる心理を意味します。たとえば、初対面で、自分の出身や好きなことを話せば、相手も同じよう自分のことを話したくなります。

自己開示と関係の深まりを表した図として「アルトマンとテイラーの6分円」があります[3]。これは関係の段階によってコミュニケーションの内容がどのように変化するか表したものです。ざっと以下の図を確認してみてください。

相手の気持ちを知る自己開示の深さと広さの図

図の見方としては、外側から内側に行くにつれて深い自己開示を表します。図を見ると、人物A・人物B、それぞれの矢印が最初は外側の表面的なコミュニケーションから始まり、徐々に内面的な話題へと移行していることが分かります。これは自己開示が自己開示を促進し、お互い深い話題を返報し合っていることを意味しています。

 

③ネガティブな返報性

敵意の返報性

敵意の返報性とは、敵意を示されると、敵意で返したくなる心理を意味します。たとえば、FacebookやTwitterなどSNS上で、自分の投稿を批判した相手に、敵意を覚えるなどが挙げられます。

いじめと返報性

いじめと返報性とは、いじめをされた側は、いじめをする側に回りやすくなる心理を意味します。これは種々の心理学の研究であきらかにされています。いじめの被害者は、いじめられたというネガティブな感情をうまく処理できず、返報性の原理が働き、他人をいじめ返してしまうと考えられます。

虐待の返報性

虐待の返報性とは、虐待を受けた経験がある人は、自分の子供を虐待しやすくなることを意味しています。いじめと同じく、返報性は直接当人に返すわけではなく、別の対象に向けられることもあるのです。

 

④返報性の原理と研究

返報性の原理については、これまで様々な研究がされてきました。

好意の返報性研究

早瀬ら(2018)は男子学生20名を対象に、好意の返報性の実証調査を行いました。実験の参加者はモニターを通して、女性のキャラクターと会話をします。その際好意の返報性がある群ない群で比較を行いました[4]。結果は以下の通りです。

好意の返報性と親密度

上図は、返報性がある群の方がない群よりも全般的に女性のキャラクターに好意を持っていることを表しています。

物質と返報性研究

デニス・リーガン(1971)は、スタンフォード大学の新入生81人を対象に、物質と返報性の関係について調査を行いました[5]。実験は、ジュースをおごってもらった人と、何もなかった人の、福引の購入枚数について差が出るか、と言う手法で行われました。その結果の一部が下図となります。

返報性の効果

上図は、ジュースをおごってもらった人の方が、福引の購入枚数が多いことを表しています。福引を勧める人は同じ人なので、返報性の原理が働いていると推測されます。このように私たちは物質的なものをもらうと相手にも返そうという心理が働くのです。

お互いのコミュニケーションが活性化

遠藤(1993)[6]では、大学生男子61名を対象とした調査から、自己開示を促す会話の特徴が明らかになりました。その結果が以下の図です。

話し方 自己開示

このように自分自身の情報を相手に開示することで、相手も同様に情報を共有する傾向が強まることが分かりました。つまり、自己開示は双方向のコミュニケーションを活性化させる効果があるといえます。

➄返報性と社会学

社会的交換理論とは

社会的交換理論は、人と人との相互作用において、コストと報酬を評価し、その結果としての社会的行動を研究する理論です。

C・ホーマンズ(1961)は社会的交換を以下のように定義しました[6]

少なくとも2人の人間の間での、有形または無形の報酬や費用を伴う活動の交換

この理論は経済関係だけでなく、恋愛、友情、仕事上の関係などさまざまな状況に適用されます。関係において、コストが報酬よりも高い場合、つまり一方が多くの労力や費用をかけても見返りが少ない場合、その関係は破綻する可能性があります。

社会的交換理論における返報性の原理は、人々が他者に親切や協力的な行動をする際に、将来的に同様の利益やサポートを受ける期待があるという考え方です。返報性の原理は、関係においてコストが報酬を上回る場合でも、将来的な報酬を期待することで関係を続ける動機付けとなります。

これによって、人と人との結びつきが深まり、社会的なネットワークや支え合いの仕組みが形成されるのです。

互酬性の規範とは

返報性は互酬性という言葉で、用いられることがあります。互酬性は文化人類学でよく用いられ、その代表的な理論にマルセル・モースの『贈与論』(1925)が挙げられます[8]。モースによれば、贈与は自発的な行為のように見えますが、実施には義務的に行われるとしています。互酬性の規範には、

・与えること
・受け取ること
・お返しをすること

といった3つの義務が含まれています。また、贈与には権力関係が発生し、与え手が優位な立場に立つことがあり、受け手は負い目感情を抱くことが指摘されています。さらにモースは、贈与は経済的な面にかかわらず、宗教的、道徳的、政治的、法的、審美的な面の含む「全体的な社会現象」であるとしています。

⑥関連コラム返報性の原理とは何か

好意の返報性を実生活で

好意の互恵性は返報性の中でも代表的なものです。相手に好意を示すこと、前向きに関わると相手も同じように自分に対して肯定的に接してくれるようになります。誉め上手になりたい方は以下のコラムを参照ください。

誉め上手になる方法

自己開示を実生活で

自己開示は相手の信頼を獲得し、相手の自己開示を同じように促す効果があります。自分の気持ちを表現する力をつけたい方は以下のコラムを参照ください。

自己開示が苦手,を改善

コミュニケーション講座のお知らせ

人間関係に関する心理学を学びたい方、トレーニングをしたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。

・人間関係の心理学の学習
・返報性を活かす方法
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ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Alvin W. Gouldner(1960).The Norm of Reciprocity: A Preliminary Statement American Sociological Review
Vol. 25, No. 2 (Apr., 1960), pp. 161-178 (18 pages)Published By: American Sociological Association

[2] Berscheid, E., & Hatfield-Walster, E. (1969). Interpersonal Attraction. Menlo Park, CA: Addison-Wesley.

[3] Altman, I. and Taylor, D.A. (1973) .Social Penetration: The Development of Interpersonal Relationships. Holt, Rinehart, & Winston, New York, 459.

[4] 早瀬光浩 ,中村太郎,加納政芳(2018).好意の返報性を表出するエージェントがユーザの親密度に与える効果 The 32nd Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence,

[5] Dennis T. Regan (1971).Effects of a Favor and Liking on Compliance JOURNAL OF EXPERIMENTAL SOCIAL PSYCHOLOGY 7, 627-639

[6] 遠藤公久 (1993).自己開示の引き出しやすさに関する聞き手の発話特徴 一会話の質的分析を通して一. 筑波大学心理学系, 15, 201-209.

[7] Homans, G.C. (1961).Social Behavior: Its Elementary Forms. Harcourt, Brace, and World, New York.