シャーデンフロイデの意味
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「シャーデンフロイデ」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①シャーデンフロイデとは
②シャーデンフロイデと進化心理学
③シャーデンフロイデの研究
④関連コラム
是非最後までご一読ください。
シャーデンフロイデとは
意味
シャーデンフロイデは以下のような意味があります。
ドイツ語の「Schaden(害)」と「Freude(喜び)」を組み合わせた造語。人の不幸を見聞することで生まれる喜び。
不幸に見舞われた他者に対する喜びの感情(加藤ら,2020)[1]
”人の不幸は蜜の味”という言葉があるように、人間には他人の不幸を喜ぶ性質があります。シャーデンフロイデが強いと他者の気持ちを無視することが増え、自己中心的な行動が増えてしまいます。
過剰になりすぎると、
・嫌がらせ
・いじめ
・犯罪
などにつながる恐れがあります。
シャーデンフロイデが生まれやすい状況
Ben-Ze’ev(1992,2000)[2][3]は、シャーデンフロイデが生まれる状況の典型的な特徴について、以下の3つを挙げています。
・他者の不幸が相応
他人が悪いことをした結果であれば、それが起こったことに対してシャーデンフロイデが生まれやすいです。
・不幸の原因が相手のミス
起こった不幸が他人のミスや失敗によるものであれば、シャーデンフロイデが生じやすくなります。逆に、避けられない事態であれば、シャーデンフロイデは生まれにくくなります。
・他者の不幸が軽微
比較的小さな不幸に対しては、シャーデンフロイデが生まれやすい傾向があります。一方で、誰かが亡くなるような深刻な不幸に対しては、シャーデンフロイデが生まれにくくなります。
ベン・ゼェヴが指摘するポイントは、他者の不幸に対して受動的であり、意図的な攻撃行動やサディズムとは異なる点が重要です。また、復讐心がシャーデンフロイデの喚起に影響する可能性も示唆されています。
シャーデンフロイデと進化心理学
ここからはシャーデンフロイデの進化心理学的な機能を見ていきましょう。
裏切り者検出モジュール
ヒトが集団を形成し、生存と繁栄のために維持する際には、協力や適正な資源の分配が不可欠です。集団内での協力規範を逸脱する個体が存在すると、これが集団全体にとって不利益となり、生存に影響を及ぼす可能性が高まります。
進化心理学的な視点からは、このような集団規範を守るために、人間は「裏切り者検出モジュール」(Cosmides & Tooby,1992)[4]と呼ばれる進化的なメカニズムを発展させてきたと考えられます。
シャーデンフロイデの機能
シャーデンフロイデは、他者の不幸を喜ぶという特殊な心理現象です。この感情は、集団規範から逸脱した行動を取る個体に対して、一種の制裁行動を促進する可能性があります。進化心理学的には、裏切り者や不正行為を感知し、それに対して喜びや共感を減少させることで、集団の安定性を確保し、生存戦略を支える役割があるとされています。
裏切り者検出モジュールは、集団協力の維持において特に重要であり、集団が協力を重んじるなかで、逸脱行動を早期に検出し、適切な制裁を行うことが生存に寄与するとされています。シャーデンフロイデの感情は、進化の中でこのような役割を果たすために発展した可能性があります。
集団規範に適合せず、裏切り行為を行う者に対するシャーデンフロイデの感情は、その不幸を通じて集団全体が危害を蒙るリスクを減少させ、他の個体にとっては模範的な行動を促進することが期待されます。
シャーデンフロイデの研究
ここからはシャーデンフロイデに関する研究を見ていきましょう。
感情移入が強いと減る
葉山(2016)[5]の研究では、平均年齢20.6歳の大学生132名を対象にして実験を行いました。実験では、対象者が課題ビデオの登場人物に、感情移入したとき、シャーデンフロイデに影響があるのかを検討しています。
課題ビデオは、
ビデオの内容は少年と病気の母親が登場する話です。少年は、母親に反抗的な態度をとることもありますが、長期入院直前には母親と別れるさみしさに耐えきれず泣いてしまうといった内容です。
その結果、感情移入が強いと、シャーデンフロイデが減ることが分かりました。
つまり、感情移入は、他者の不幸を喜ぶ気持ちを減らすことができると言えるのです。
社会的に望ましくない特性を持つ
稲垣(2018)[6]では、大学生 105 名を対象にシャーデンフロイデと、社会的に望ましくない特性である「ダークトライアド」との関係を調べました。ダークトライアドは以下の3つの要素に分けられます。
・サイコパシー
サイコパシーとは、自分以外の人への愛情、共感性、思いやりが欠けている特性
・
・ナルシシズム
ナルシシズムは、歪んだ自己愛のこと。常に自分が優位に立っていないと気が済まない。
・
・マキャベリアニズム
マキャベリアニズムとは、目的を達成すべく、冷徹に人を操作する特性。
この3つの傾向が高いと、他人を攻撃したり、利用したりなど社会的に望ましくない行動を起こしやすくなります。
結果は以下の図です。
このように、シャーデンフロイデが高いと、ダークトライアドの各要素の結びつきも高まっていることが分かります。他人の不幸を喜ぶ人ほど共感力に乏しく、自分が好きで、目的のためなら手段を選ばない人が多いと言えそうです。
同情が低い
稲垣(2018)の同研究では、シャーデンフロイデと同情との関わりについても結果が出ています。以下の図をごらんください。
このようにシャーデンフロイデが高いと、同情も低い結果となりました。サイコパシー傾向が強いことからも頷けますが、やはりシャーデンフロイデがある人は、人の気持ちに寄り添う気持ちも少ないと考えられます。
罪悪感が低い
澤田(2008)[7]では、大学生225名を対象に、シャーデンフロイデと罪悪感について調査を行いました。
その結果が以下の図です。
上図のようにシャーデンフロイデが高いと、罪悪感が低いことが分かります。他人の不幸を喜ぶ人は、罪の意識が低く、バレなければ不正を行っても構わないと考える傾向があるかもしれません。
妬み感情が高い
澤田(2008)の同研究では、シャーデンフロイデと妬み感情の関係を調べました。
その結果が以下の図です。
このように、シャーデンフロイデが高いと妬み感情も高いことが分かります。これも直感的にわかりやすいと思いますが、やはり他人の不幸を喜ぶ傾向がある人は、他人が成功していると嫉妬心が高まってしまうのです。
先の研究で、ナルシシズムとの関連を紹介しました。ナルシシズム(自己愛)が高いと、常に自分が周りより上でないと気が済まないため、嫉妬心が高まることも自然な結果といえるでしょう。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 加藤伸弥, 藤森 和美(2020).シャーデンフロイデの機能 : 他人の不幸を喜ぶことの進化的基盤 武蔵野大学心理臨床センター紀要 (20), 22-32, -12
[2] Ben-Ze’ev, A. (1992). Pleasure-in-others misfortune. Iyyun: The Jersalem Philosophical Quarterly. 41, 41-61.
[3] Ben-Ze’ev,A. (2000). The subtlety of emotions . Cambridge : MIT Press.
[4] Cosmides, L., & Tooby, J. (1992). Cognitive adaptations for social exchange. In J. H. Barkow, L. Cosmides, & J. Tooby (Eds.), The adapted mind: Evolutionary psychology and the generation of culture (pp. 163–228). Oxford University Press.
[5] 葉山大地(2016).共感関連反応を規定する要因の検討-共感性、心理的重なり、教示の効果を中心として- 中央学院大学人間・自然論叢 = The Bulletin of Chuo-Gakuin University ―Man & Nature― 41 41-57
[6] 稲垣勉(2018).Dark Triad とシャーデンフロイデ —特性妬みとの関連も踏まえて— 鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science 70 133-142.
[7] 澤田 匡人(2008). シャーデンフロイデの喚起に及ぼす妬み感情と特性要因の影響-罪悪感、自尊感情、自己愛に着目して- 感情心理学研究, 16, 36-48.