選択的知覚・注意の意味

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「選択的知覚・注意」について解説していきます。

選択的知覚・注意,くろまめ様作成

目次は以下の通りです。

①選択的注意とは何か
②選択的注意テストとは
③初期選択説,後期選択説
④選択的注意と精神疾患
⑤心理療法による改善

是非最後までご一読ください。

①選択的注意とは何か

意味

選択的注意とは、心理学辞典(2013)[1]によると以下のように定義されています。

ある環境内にある特定の刺激のみに集中することで、偶発的な刺激と、重要な刺激とを区別することを可能にする(一部改変)

簡単にまとめると、自分にとって重要だと認識された情報だけを選択して、それに注意を向ける認知機能です。選択的知覚、カクテルパーティー効果という用語を使うこともあります。

具体例

例①
かなりにぎやかな店内でお話をしているとします。そんなとき私たちは、いつもよりも集中して、目の前にいる会話の相手の声に傾けて、情報を集めようとします。これが選択的注意です。

例②
私は、心理学の専門家です。そのため街中で「心理学…」という用語が聞こえてくると、脳が勝手に反応してしまいます。これも選択的注意です。

例③
血液型診断を信じる花子さんがいたとします。花子さんはB型は自分勝手だと信じています。実際に日常生活でB型の人と会うと、自分勝手な部分を強く知覚するようになります。これも選択的注意です。

機能

選択的注意には2つの機能があります。1つ目は、重要な情報を集める機能です。わたしたちは、日常生活でたくさんの情報を受け取っています。すべての情報を受け取り、処理するとパンクしてしまいます。そこで脳が情報に優先順位を決め、効率良く処理をしてくれるのです。

2つ目は、不要な情報を遮断する機能です。選択的に知覚することで、無駄な情報を得ないようにすることができます。そのおかげで集中力を保つことができます。

②選択的注意テストとは

選択的注意を体験できる、有名な実験「選択的注意テスト」があります。選択的注意テストは、ハーバードの特別実験で、動画がネット上で公開されています。興味がある方は折り畳みを展開してみてください。

1分ほどの動画です。まずはテストを実施してみてください。

このテストからもわかるように、私たち人間は、処理できる情報量は限られていて、一度意識が行くと、そこに集中してしまい、全体が見れなくなってしまうのです。

可能であれば、黒シャツ、白シャツの方のボールの受け渡しすべてをカウントしてみてもいいかもしれません。相当難しいと思います笑

*別実験もあります。興味がある方はチャレンジしてみましょう。

 

③初期選択説,後期選択説

選択的知覚には初期選択説と後期選択説があり、知覚における情報処理の段階において仮説があります。

初期選択説

初期選択とは、Broadbent(1958)[2][5]によって提唱された仮説です。Cherry(1953)[3][7]の両耳分難聴というパラダイムを用いた実験や自らの実験結果を考察し,注意が情報処理の初期段階,つまり知覚段階で作用すると説明しました。

初期選択説では、私たちは外界から入ってくる情報を、感覚器官で初期的に処理する段階で、ある種の選択を行っていると考えられています。この選択は、情報の特徴や背景知識、期待などに基づいて、一定の規則に従って絞り込まれ、必要な情報だけが次の処理段階に進みます。

後期選択説

後期選択説とは、Deutsch and Deutsch (1963)[4][5]によって提唱された仮説です。Moray(1959)[6][7]などの研究結果から、 情報処理の段階が進んでから、必要な情報だけが選択されると説明しました。

つまり、全ての情報が処理された後に、目的に応じて必要な情報だけが選択され、意識的に認知されるという考え方です。

両者の違いは、情報処理の段階での選択のタイミングにあります。初期選択説では、情報が初期的に選択され、処理の途中で必要な情報だけが次の段階に進みます。一方、後期選択説では、全ての情報が処理された後に、必要な情報だけが選択されます。

関連研究

下記に選択的注意の初期選択説・後期選択説に関する研究を紹介しています。興味がある方はクリックして展開してみてください。

Cherry(1953)[3]は選択的注意を研究するために両耳分離実験と呼ばれる実験を行いました。

実験では参加者に以下の内容が求めました。

・左耳と右耳から、それぞれ異なる話者の話を聞かされる
・片方の話者に集中しながら、話を復唱する

その結果、参加者は問題なく片方の話者の話を復唱できました。一方で、注意を向けなかった話者の話を復唱することができませんでした。注意を向けていない情報は失われ、注意を向けた情報だけ意味処理されるという考え方から「初期選択説」が生まれました。

Moray(1959)[6]は、Cherryの両耳分離実験を改良して、初期選択説の正当性を調べました。Cherryの研究結果に基づくと、周囲に雑音が多くても自分の名前は聞き取れるという「カクテルパーティ効果」が成立しなくなります。

そこで、初期選択説の効果を深く調べるために、実験では参加者に以下の内容が求めました。

・左耳と右耳から、それぞれ異なる話者の話を聞かされる
・片方の話者に集中しながら、話を復唱する
・集中していない方の音声に参加者の名前を含ませる

実験の結果、実験参加者の30%程度がこの注意を向けていない方のヘッドホンから聞こえてきた自分の名前を報告することが出来ました。このことは、注意を向けていない方の情報も、意味的な処理まで行われていることを示唆しています。

このように、いったん全ての情報の意味処理が行われた後で、注意の配分を決めるという考え方から「後期選択説」が生まれました。

 

④選択的注意と精神疾患

選択的注意が働くと、危険なものを優先的に察知できます。例えば、車が近くに来たら、集中してよけることができるなどです。選択的注意にはこのようなメリットがあり、著しく欠如すると、障害と診断されることもあります。

欠如した場合

認知症
認知症になると、選択的注意が働かず、会話が散漫になる、忘れ物を毎回する、目的地に近づけないなど、日常生活および社会生活が困難になるります。

注意欠陥多動性障害
発達年齢に見合わない多動‐衝動性、あるいは不注意、またはその両方の症状が、7歳までに現れます。注意欠陥多動性障害の方は、選択的注意が苦手で、1つのことにじっとして取り組むことが苦手です。

過剰な場合

気分障害
気分障害は感情の揺れ動きが大きく、落ち込んだり、興奮したり、と精神的に不安定になる障害です。うつ病や双極性障害が当てはまります。特にうつ病の方は、ネガティブな出来事に対して、選択的知覚が過剰になっていることがよくあります。

強迫性障害
強迫性障害は、非現実的な可能性を恐れ、不健康な行為を繰り返してしまう精神疾患です。例えば、潔癖症の方は、バイキンや菌に対して選択的知覚をしてしまい、1日100回近く手を洗ってしまう方もいます。

 

⑤心理療法による改善

選択的知覚が過剰になっている場合、心理療法で改善していくことがあります。以下、代表的なものを紹介します。

①認知療法

1つ目は、認知療法がおすすめです。認知療法は、自分の価値観とは異なる情報に目を向け、考え方をほぐしていく手法を意味します。例えば、災害について選択的知覚が起り、根拠のない情報を信じ込んでいたら、学者の正しい見識の情報などに触れるようにしていきます。このように認知療法では様々な角度から、物事を捉える練習をしていくのです。詳しくは以下のコラムを参照ください。

認知療法の基礎

 

②現実検討能力をつける

心理学の世界には「現実検討能力」という言葉があります。現実検討力は、思い込みや、感情で決めつけるのではなく、実際のありのままの姿をベースに物事を冷静に考えていく力を意味します。具体的には、証拠のバランスを大事にする、確率計算をする、事実をベースに考えるなどが挙げられます。思い込みや、感情で物事を決めつけてしまう場合には、下記のコラムを参考にしてみてください。

現実検討能力をつける

 

③リフレーミング力をつける

選択的知覚が強い方は、考え方が偏りがちで視野が狭くなりがちです。そこでカウンセリングを行う際に、リフレーミング練習を行うことがあります。リフレーミングには、1つの事象に対して、様々な意味を持たせて、価値観を再構築していく意味があります。

具体例
自分は口下手でモテない
↓リフレーミング↓
口下手は穏やかな印象を与えるので安心感を求める女性には好かれる

リフレーミング力をつけると、1つの事実を様々な角度で考える引き出しを増やすことができます。練習してみたい方は下記のコラムを参照ください。

リフレーミングコラム

 

心理学講座のお知らせ

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選択的注意・知覚の意味とは,心理学講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] VandenBos, G.R. (Ed.). (2007). APA Dictionary of Psychology. Washington, D.C.: American Psychological Association. (ファンデンボス, G.R. (監修)繁枡 算男・四本 裕子(監訳) APA 心理学大辞典 p. 527  培風館)

[2] Broadbent, D. (1958). Perception and communication. London, UK: Pergamon Press.

[3] Cherry, C. (1953).Some Experiments on the Recognition of Speech, with One and with Two Ears, JOSA, 25(5), 975-979

[4] Deutsch, J. A., & Deutsch, D. (1963). Attention: Some theoretical considerations. Psychological Review, 70(1), 80–90.

[5] 室井みや(2000).選択的注意における知覚的負荷の影響 一知覚的負荷とは?一 京都大学大学院教育学研究科紀要 46: 183-195
*[2][4]の記述は[5]を参考にしました。

[6] Moray, N. (1959). Attention in dichotic listening: Affective cues and the influence of instructions. The Quarterly Journal of Experimental Psychology, 11, 56–60.

[7] 八木 善彦, 熊田 孝恒, 菊地 正(2004).注意の初期選択説・後期選択説を巡る研究動向 ――注意の負荷理論を中心として―― 心理学評論   47 巻 4 号 p. 478-500
*[3][6]の記述は[7]を参考にしました。