公的自己意識と私的自己意識
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「公的自己意識と私的自己意識」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①公的・私的自己意識とは何か
②事例で理解
③研究紹介
④関連コラム
是非最後までご一読ください。
①公的・私的自己意識とは何か
公的自己意識とは
公的自己意識は以下の意味があります。
自己意識が公的で外面的な側面(容貌や言動など)に注意を向ける傾向[1][2]
具体的には、自分が周りからどう見られているか気がかりになる、いつも人に良い印象を与えようと考えている、自分の容姿をいつも気にしている、などが挙げられます。
公的自己意識は、一般的には負の側面が大きい概念ですがメリットもあります。周囲の目を気にすることで、相手の感情の機微に気づいたり、自分の過ちを正すことができたりと良い側面があることも抑えておきましょう。
私的自己意識とは
私的自己意識は以下の意味があります。
自己意識が私的で内面的な側面(感情,動機,思考など)に注意を向ける傾向[1][2]
具体的には、自分の感情に注意を払っている、自分の行動は常に把握している、自分自身を客観的に捉えているときがある、などが挙げられます。
一方で、私的自己意識が過剰になると、相手の気持ちがわからなくなったり、自己中心的な生き方になったり、周囲から拒絶されてしまう可能性もあります。公的自己意識と私的自己意識をうまく使い分けることが大切なのです。
②事例で理解
事例を通して、公的自己意識と私的自己意識の理解を深めていきましょう。
事例1
「好きな人と2人きりで散歩」している場面を想定します。
「話し方が変じゃないかな・・・」
⇒公的自己意識
「デートができて幸せだなあ~」
⇒私的自己意識
このような異性とのデート場面では緊張してうまく話せないことがあります。公的自己意識が強いと、嫌われたくないと思うあまり、言葉を選びすぎて結局黙ってしまいがちです。
一方私的自己意識が高いと、自分の内面に注意が向かい、相手への印象を気にする傾向が減っていきます。その結果、デートを混じり気なく楽しむことができるのです。
事例2
「会社で50人を前にスピーチをする」場面を想定します。
「失敗をして評価を下げてはいけない」
⇒公的自己意識
「自分が話すことに集中しよう」
⇒私的自己意識
失敗をしてはいけないと思うと、余計に緊張してしまい、いつも通りのパフォーマンスが発揮できません。自分の話す内容に目を向けて、自分の世界に入り込むと集中力も高まりパフォーマンスが上がります。
③研究紹介
公的自己意識と私的自己意識について、心理学の研究を見てきましょう。
公的自己意識と私的自己意識の男女差
髙久ら(2009)[3]の研究では、大学生 138 名を対象に、公的自己意識と私的自己意識の男女差について調査を行いました。その結果が以下の図です。まずは男性から見ていきましょう。
このように男性は私的自己意識が高い人が多い傾向にあることが分かりました。男性は周りを気にせずに自分のやりたことに集中する傾向にあると言えそうです。
次に女性の結果を見ていきましょう。以下の図をご覧ください。
このように男性とは対照的に、女性は公的自己意識が高い傾向にあることが分かりました。
ここからは考察になりますが、女性の場合、「安全に出産する」「子どもを守る」という本能があり、周囲に危険がないか気を配る必要がありました。そのため、男性よりも公的自己意識が強い結果となったのかもしれません。
対人恐怖心性との関連
堀井(2001)[4]は対人恐怖と公的自己意識に関する調査を行っています。その結果が下図となります。
上図は、男子、女子ともに、対人恐怖傾向が高いと公的自己意識も高いという結果が出ています。図の中にある数字は、相関係数と呼び、関連の強さを表します。.500以上の項目は心理学的に影響は比較的大きいと考えます。対人恐怖傾向と「他人の評価が気になる」という心性は関連があることがわかります。
社交不安障害との関連
日本医療開発機構の川上(2016)[5]は世代ごとの社交不安障害の有病率を調査しました。その結果が以下の図となります。
上図は、若い方ほど有病率が高いことがわかります。社交不安障害は公的自己意識が過剰な方ほどかかりやすい心の病気です。その意味で、公的自己意識は特に思春期から34歳ぐらいまでに最も強くなると推測されます。
自己顕示性との関連
菅原(1984)[6]は大学生454名を対象に、自意識を測定する「自意識尺度」の日本語版の作成を行いました。その結果の一部が以下の図です。
このように、公的自己意識が強い方は、自己顕示性が増えることが分かりました。公的自己意識が強いと、他人の目が気になり自己主張が控え目になる一方で、「自分を認めてほしい!」という気持ちも同時に強くなると言えそうです。
自己関連付けとの関連
金子(1999)[7]は学生261名を対象に被害妄想の心理について調査を行いました。その結果以下のことがわかりました。
被害妄想の1つ目の因子として「自己関連付け」があることがわかりました。自己関連付けとは、周りに起こるなんらかの出来事が自分と関連していると感じる心を意味します。
この意味で被害妄想がある方は、周りの出来事を自分のこととして考える傾向が強いと推測されます。金子の研究では以下の結果も得られています。
こちらの図は、自己関連付けが強い人は、他人の心を読みやすい、人間関係であれやこれや考えやすい、周りの人の見た目に囚われやすいことを意味しています。
猜疑心との関連
金子(1999)[7]は学生261名を対象に被害妄想の心理について調査を行いました。その結果以下のことがわかりました。
被害妄想の2つ目の因子として「猜疑心」があることがわかりました。
被害妄想がある方は、疑い深く、自分が攻撃されているのではないか、ネガティブな評価をされているのではないか、と感じやすいと推測されます。金子の研究では以下の結果も得られています。
こちらの図は、猜疑心が強い人は、周りからみた自分をあまり考えない、自分の気持ちに焦点をあてやすい、人間関係で不安を抱えやすいことを意味しています。
被害妄想を抱えている方は、周りからの評価を感じる余裕がなく、自分のことで精いっぱいになっていると推測されます。
拒否されたくない心理の改善
菅原(1986)[8]では、4年制大学の男女学生401名を対象に、公的自己意識と拒否されたくない欲求について調べました。
その結果が以下の図です。
このように、公的自己意識が強いほど、拒否されたくない欲求が高いことが分かりました。公的自己意識とは、周囲からどう見られるかを気にする意識のことです。
拒否されたくないという気持ちがあると周りの目を気にしがちになります。周囲から拒否されたくないと感じるのは自然なことですが、過剰になると人間関係で伸び伸びと振る舞えなくなるため、バランスを取ることが大切です。
拒否されたくない、と感じる心の根底には、見捨てられ不安があることがあります。あてはまると感じる方は以下のコラムを参照ください。
賞賛を求めすぎない
菅原(1986)[8]では、公的自己意識と賞賛されたい欲求についても研究を行いました。
その結果が以下の図です。
このように、公的自己意識が強いほど、賞賛されたい欲求が高いことが分かりました。
周りからの賞賛を求めすぎると、周りの目が気になり、精神的に疲れてしまいます。そのため、程よく折り合いをつけることが大切です。たとえは、SNSで、自分を背伸びして見せない、人の興味を引こうとしない、などが挙げられます。
④関連コラム
公的自己意識の改善
当コラムでは公的自己意識・私的自己意識の意味や研究について解説してきました。メンタルヘルスの改善としては、人の目を気にする心理の改善が大事になります。公的自己意識が強く、緊張が強いと感じる方は以下のコラムを参照ください。
社交不安障害
公的自己意識が過剰になっている人の中には社交不安障害を抱えている方が一部いらっしゃいます。人と話すと緊張してひどく疲れる・・・という感覚がある方は以下のコラムを読むことをおすすめします。
コミュニケーション講座のお知らせ
人間関係に関する心理学を学びたい方、トレーニングをしたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] Fenigstein, A., Scheier, M. F., & Buss, A. H. (1975). Public and private self-consciousness: Assessment and theory. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 43(4), 522–527.
[2] 趙善英 松本芳之 木村裕(2009).公的自己意識と対人不安,自己顕示性の関係への自尊感情の調節効果の日韓比較 第80巻 第4号 pp. 313-32
*[1]の記述は[2]を参考にしました。
[3] 髙久沙織(2009).自己意識タイプと生活・メディア利用 文教大学情報学部 社会調査Ⅲ 研究報告
[4] 堀井俊章(2001). 青年期における自己意識と対人恐怖心性との関係 山形大学紀要12,4
[5] 川上憲人(2016).精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究:世界精神保健日本調査セカンド厚生労働省厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)(H25-精神-一般-006)国立研究開発法人日本医療研究開発機構 障害者対策総合研究開発事業(精神障害分野)(15dk0310020h0003)
[6] 菅原健介(1988).対人不安研究における公的意識の意識について 東京都立大学人文学報,196, 103116.
[7] 金子 一史(1999).被害妄想的心性と他者意識および自己意識との関連について 性格心理学研究 8 巻 1 号 p. 12-22
[8] 菅原健介(1986).賞賛されたい欲求と拒否されたくない欲求 公的自意識の強い人に見られる2つの欲求について東京都立大学 心理学研究 57 (3), 134-140 公益社団法人 日本心理学会