ソーシャルサポートの意味
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「ソーシャルサポート」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①ソーシャルサポートとは
②ソーシャルサポートの種類
③効果的,有害なサポート
④心理的効果
⑤国際比較
是非最後までご一読ください。
ソーシャルサポートとは
意味
ソーシャルサポートは以下のような意味があります。
その人を取り巻く家族、友人、地域、専門家などから受けるさまざまな援助[1]
対人関係から得られる、手段的・表出的援助[2]
ソーシャルサポートは基本的に周りからもらえるサポートを指します。例えば、家族の支え、職場の上司のサポート、公的機関の相談窓口、ペットなど広く含まれます。
提唱者
ソーシャルサポートは1970年代から、ストレスを緩和効果があるとして欧米で研究され、キャプラン(Caplan, G)が概念化しました[3]。キャプランはイギリスの心理学者であり、メンタルヘルスの予防やコンサルテーションなどの研究を進めています。特に、地域の中でサポートシステムの確立が大事であるとし、サポートシステムは必ずしも精神衛生の専門家だけではないということを主張しています。これは、ソーシャルサポートの考え方の中心になるものです。
また、Cassel(1974)[3]は、ストレスフルな状況において疾病をする人と疾病を帰結しない人が存在することに着目し、社会的環境や社会的紐帯のありようが個人の脆弱性を規定するという仮説を提唱しました。彼は、社会的環境の改良強化を通じて、ストレスからの個人の保護に役立つ手段としてソーシャルサポートの概念を初めて提示しました。キャプランと同様に、Casselもソーシャルサポートが個人の精神的な負担を軽減し、健康に対する予測的な重要性を強調しました。
幸福の6つの指標
世界幸福度報告は以下の6つの説明変数によって、調査されています。
1.人口あたりGDP
2.ソーシャルサポート
3.健康寿命
4.人生の選択の自由度
5.寛容さ・気前の良さ
6.腐敗の認識
出典:”FAQ”. worldhappiness.report.
(※一部改変)
国際的には上記の6つが幸福に必要だと考えられており、その中の1つにソーシャルサポートも含まれています。周囲に頼れる存在がいるかどうかは、人類の精神的な豊かさにつながっていると考えられるでしょう。
そのほか、世界保健機関(WHO)が提唱した幸福な状態を意味する「ウェルビーイング」の1つの要素に「良好な関係性」が挙げられています。
ソーシャルサポートの種類
House(1981)[4]は、ソーシャルサポートについて、大きく4つに分類しています。
情緒的サポート
共感や同情など情緒的な結びつきのことを指します。例えば、落ち込んだ友人を励ます、友人の相談に乗る、声をかけてあげるなどのサポートが挙げられます。
手段的サポート
仕事、看病、金銭などの直接的な支援のことを指します。例えば、子どもに机を買ってあげる、PC環境を用意してあげる、学校に行くためのお金を出してあげるなどが挙げられます。
情報的サポート
有益な情報の提供し、困難に対処できることを促すことを指します。例えば、仕事でアドバイスをする、道に迷っている人に目的地までの道のりを教えてあげるなどが挙げられます。
評価的サポート
相手を認めるサポートのことを指します。例えば、相手の意見に賛同したり、仕事ぶりを認めるなどが挙げられます。
その他にも、研究者によっては「道具的サポート」や「所属的サポート」などを挙げられているものもあります。
効果的,有害なサポート
ソーシャルサポートの定義についての問題点
ソーシャルサポートの定義にはいくつかの重要な問題が浮かび上がります[3]。まず、ソーシャルサポートが個人の健康や安寧に対して効果をもたらすかどうかに関して、一義的な合意が得られていません。
一部の場合、提供されたサポートが意図せずに反健康的な結果を招く可能性も示唆されています。このような場合、それが真のソーシャルサポートとみなすべきかについて議論が生じます。
さらに、ソーシャルサポートの定義は、その受け手にとっての「援助的なもの」を単純にサポートと定義する傾向があります。しかしこのアプローチでは、サポートの有効性を結果的な事態にのみ依存させ、個人の健康や幸福に対する影響を無視する可能性があります。ソーシャルサポートを捉える際、受け手が何を必要とし、それが結果的にどのような影響を及ぼすかをより包括的に考慮する必要があります。
「受け手の知覚」と「送り手の意図」
Shumaker & Brownell (1984)[3][5]によれば、ソーシャルサポートを次のように定義しています。
ソーシャル・サポートとは、 『受け手の安寧 well-beingを増すことが意図されている』 と、送り手・受け手によって知覚される。2人以上の人間のあいだでの資源の交換である
ソーシャルサポートを定義するには、「受け手の知覚」と「送り手の意図」の2つの視点から考えることが重要だと主張しています。以下は受け手の知覚と送り手の意図のパターンを図示したものです。
このうち、色のついた4つのパターンはソーシャルサポートには該当しません。受け手の知覚が中立的であり、送り手の意図も中立的である場合は両者、「サポートされた」「サポートした」と考えていないため、ソーシャルサポートとは呼べません。
また受け手が中立的であり、送り手の意図が有害的である場合は、送り手はサポートするつもりがないため、ソーシャルサポートには該当しません。そして、受け手の知覚が有害的であり、送り手の意図が「中立的」または「有害的」である場合も、ソーシャルサポートには含まれません。
ただし、この定義は経験的研究への応用には制約があります。受け手と送り手の双方の知覚と行動を考慮する場合、コミュニティなどの規模での経験的研究は実質的に難しい場合があります。したがって、実際の状況での適用が限定されます。
心理的効果
ストレス緩和
ソーシャルサポートはストレス緩和の効果があることで知られています。今村ら(2017)[6]では中学生を対象に、ストレスとソーシャルサポートの関係について調べています。その結果、「怒りなどの感情を伴うストレス」は情緒的サポートが有効であることを示しています。
孤独感の低減
ソーシャルサポートは実際に支援を受けるだけでなく、「助けてもらえるだろう」と知覚しているだけでも孤独感を低減することができるとしています。
福岡(2018)[7]は大学生を対象に、ソーシャルサポートや孤独感、ソーシャルスキルなどの関連性について調査をしています。
その結果、知覚されたソーシャルサポートと孤独感の相関関係について示されています。これは、ソーシャルサポートが高まれば、孤独感が低減することを示しています。
⑤国際比較
国際連合は、世界幸福度報告を行っており、その中の指標の1つにソーシャルサポートを挙げています。
ソーシャルサポートランキング
世界幸福度報告(2021)[8]によれば、2018-2020年のソーシャルサポート得点の国際ランキングは以下の通りです。
上記のように、1位がアイスランド、次いでトルクメニスタン、デンマークという順位となっています。日本の順位は62位という結果となりました。アイスランドは大学までの義務教育が無料で行われており、社会制度が充実している面から、ソーシャルサポート得点が高く推移していると考えられます。
文化による違い
アジア系
多くのアジアの文化では、人は社会の集合的な単位であると見なされています。そのため、社会的が相互依存しており、自分の個人的な悩みを打ち明けられないなど、助けを求めない傾向があります。
日本では行間を読む、配慮、思いやりなどが尊重される文化です。それらの価値観が影響して、”個人が助けを求める”のではなく、”周りが察して”て助けてあげるというサポート様式が求められるのです。
ヨーロッパ系系
西洋の文化は個人主義的であり、自分の悩みを打ち明け、相手に助けを求めることができます。その助けを求める行為の総称として、ソーシャルサポートを概念化しています。
たとえば、ヨーロッパ系アメリカ人は、ストレスが多い場合、アジア系アメリカ人・アジア人よりも、頻繁にソーシャルサポートや社会的なつながりを求めることがわかっています。
ソーシャルサポートにおける上記の違いは、異なる文化的考えに根差していると言えるでしょう。またこうした違いは、道具的サポートよりも感情的サポートの方が強いと考えられています。
関連コラム
ソーシャルサポートをもらう
以下のコラムではソーシャルサポートを実際のもらための方法を解説しています。実践的な理解を深めたい方は参照ください。
コミュニティを増やす方法
ソーシャルサポートの土台は温かいコミュニティーに所属することにあります。コミュニティが少なく孤独感がある方は参照ください。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] キ ャプ ラ ン (著) 近藤喬一 ・ 增野肇 ・ 宮田洋三郎(訳) (1979). 『地域ぐるみの精神衛生』 星和書店 (Caplan, G., 1974, Suf)port system and community mental health. Behavioral Publications)
[2] 菊島勝也(2009).ソーシャル・サポートのネガティヴな効果に関する研究 愛知教育大学教育実践総合センター紀要 巻 6, p. 239-245
[3] 稲葉昭英,南隆男,浦光博(1987).「ソーシャルサポート」研究の現状と課題 三田哲學會 哲學No.85 (1987. 12),p.109- 149
[4] House, J. S. (1981). Work stress and social support. Reading, MA: Addison-Wesley.
[5] Shumaker, S. A., & Brownell, A. (1984). Toward a theory of social support: Closing conceptual gaps. Journal of Social Issues, 40(4), 11–36. https://doi.org/10.1111/j.1540-4560.1984.tb01105.xrk.
[6] 今村,関山(2017).中学生におけるストレス反応の検討 : レジリエンスおよびソーシャルサポートとの関連 鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要26,163-172
[7] 福岡欣治(2018).ソーシャルスキルと知覚されたサポート,実行されたサポートが大学生の孤独感と抑うつに及ぼす影響 : 短期縦断的研究 27(2), 303-312
[8] World Happiness Report(2021)Data for Figure 2.1