トランスジェンダーの意味

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「トランスジェンダー」について解説していきます。

トランスジェンダー,さもち様作成

 

目次は以下の通りです。

①トランスジェンダーとは
②メンタルヘルスの問題
③性同一性障害の廃止
④自己受容のために
⑤関連コラム

是非最後までご一読ください。

①トランスジェンダーの意味とは

ジェンダーの意味

ジェンダーとは、心の性を意味します。生物学的な性であるセックスとは区別されています。ジェンダーは、アメリカの心理学者であるジョン・マネーと精神科医のロバート・ストラーよって提唱されました。ジョン・マネーは、ジェンダー・アイデンティティ・クリニックを設立しています。

ストラーは、ジェンダー・アイデンティティを以下のように定義しました[1]

自分がどの性別に属すると思っているかという感覚、すなわち、「私は男だ」あるいは「私は女だ」という認識である

マネーはジェンダー・アイデンティティは育て方や環境によって変わるという思想を持っていました。1967年には、包皮切除手術に失敗した8か月の男子を無理やり女の子として育てることを提案し、名前を変えさせるなどして実行されました[2]

しかし、その後、その男の子は深く悩みながら成長し、最終的に自殺をしてしまいます。現在ではジェンダーは育て方で変わるのではなく、遺伝的な要因が大きいとされています。

 

トランスジェンダーの意味

トランスジェンダーとは、心の性別と身体の性別が一致しない人を示します。具体的には、

体は男性 心は女性
体は女性 心は男性

これらにあてはまる方を指します。トランスジェンダーはさらに、表現する性や性的指向について8つに分類されていきます。以下は全体のイメージ図です。緑色の枠内がトランスジェンダーとなります。

トランスジェンダー,図

性別違和を感じる時期

中塚(2022)[3]は、トランス女性・トランス男性1167名を対象に「性的違和を自覚し始めた時期」について調査を行いました。その結果が以下の図です。

性的違和を自覚し始めた時期

このように、半数以上が小学校入学以前に自覚していることが分かります。そして、合計すると約8割のトランスジェンダーが小学校卒業までに性的違和を自覚しています。

多くのトランスジェンダーは、幼い頃から自分の性に違和感を持っていると言えるでしょう。

②メンタルヘルスの問題

アイデンティティ拡散

長谷川ら(2013)[4]は一般の学生とトランスジェンダーの学生に対して、ジェンダー・アイデンティティについて比較を行っています。

その結果、トランスジェンダーの学生は一般の学生に比べて、ジェンダー・アイデンティティの得点が低いという結果になりました。つまり、トランスジェンダーの人は、自身の性別に対して不安定な感覚があることがわかります。

自殺率の問題

中塚(2022)[3]は、トランス女性・トランス男性1452名を対象にトランスジェンダーとメンタルヘルスの問題について調査を行いました。その結果が以下の図です。

トランスジェンダー

図のように自殺念慮がもっともグラフが伸びていることが分かります。また、自傷・自殺未遂も不登校とほぼ同じくらい発生していることが分かります。

トランスジェンダーの多くのは、世の中に理解をされず、一人思い悩むことが多いです。そうした、積もり積もった心の傷や悩みが自殺念慮へとつながっていくのです。

③性同一性障害の廃止

性同一性障害の診断基準

精神疾患に関わる疾病分類は、  米国精神医学会発行の DSMと世界保健機構 WHO が作成する ICD があります。両診断とも以前は、トランスジェンダーを精神疾患として扱っていました。しかし、この「病気」という考え方は、トランスジェンダーの方の尊厳を著しく傷つけるものでした。

障害の廃止

そこで2013 年に DSM ‐ 5では、「性同一性障害」 の病名は 「性別違和 Gender Dysphoria」 に変更されました。 さらに 2022 年からは ICD-11 で 「性別不合 GenderIncongruence」が採用され、トランスジェンダーは障害としては扱わないという世界的な流れになっています[5]

④自己受容のために

トランスジェンダーの方が自己受容するためにできることは様々なものが挙げられます。

ホルモン注射

トランスジェンダーの人々は、ホルモン療法を通じて性別適合の身体的変化を追求することがあります。例えば、トランス女性(男性から女性への性自認)は、エストロゲンとアンチアンドロゲンを投与することで女性的な体格や体毛の減少を促進できます。またトランス男性(女性から男性への性自認)は、テストステロンを投与することで筋肉量が増えるなど、男性的な特徴を発達させられます。ホルモン治療は、医師の監督の下で行われるべきです。

性別適合手術

性別適合手術とは、性器の形態を変更する外科手術のことです。トランス女性の場合は、精巣(睾丸)の切除や陰茎の切除などの外性器の一部を取り除く手術、または外陰部の形成や造膣術などの形成手術が含まれます。トランス男性の場合は、乳房切除・乳腺摘出、子宮・卵巣摘出術、陰茎形成術、膣閉鎖などがあります。

心理的なプロセス

トランスジェンダーの方に対しては、来談者中心法により、行われることが多くなります。以下須藤による、治療プロセスを引用します[6]

カウンセラーはクライアントの「固有の物語(narrative)」の理解、共有をめざし、理 解できない点はひとつひとつクライアントに質問しながら互いの信頼感に基づく治療関係の構築につとめた。クライアントが用いるコミュニティやセクシュアリティに関する専門用語については、カウンセラーの理解している意味で齟齬が無いかどうか、あるいは、クライアント自身がどのような意味で用いているかについての確認を慎重に行った。こうした治療関係構築の過程で、クラ イアントはカウンセラーに少しずつライフヒストリーを語りはじめ、「固有の物語」を再構築することで来談当初の混乱した状態は収束し始めた。

当事者の体験談

過去の当事者の話などを参考にしながら、自己理解を深めていくことです。例えば、LGBTの支援団体に参加してみる、Twitterで同じ悩みを持つ人とつながる、YouTubeで体験談を調べるなどが挙げられます。

トランスジェンダーはセクシャルマイノリティであり、普段の生活の中ではなかなか理解されないことが多いです。そこで、能動的に当事者とつながることで、「自分は一人ではない」という安心感や自信を得ることができます。

社会の受容

社会的な理解や支援が必要で、ハラスメントや差別のない安全な環境が必要です。例えば、学生服において、男子はネクタイにズボン、女子はリボンにスカートが絶対でした。

一方で、近年では価値観の多様化から、生徒自身が選択できるよう校則を刷新する学校も増えています。また「パートナーシップ制度」によって、以前では法的に認められていなかった同性婚も、現在では自治体が婚姻関係を保証できるようになりました。こうした社会制度の柔軟化は、トランスジェンダーの自己受容に貢献するでしょう。

⑤関連コラム

性別違和

以下のコラムでは、トランスジェンダー、ゲイ、レズビアンなど、性別違和についての基本的な知識をまとめています。初めて学ぶ方はご参照ください。

性別違和とは何か

アイデンティティ確立

ジェンダーの問題はアイデンティティーの問題と深く関連しています。以下のコラムではアイデンティティを確立する方法を解説しています。自分がわからない・・・受けいられない・・・という感覚がある方は参考にしてみてください。

アイデンティティを確立する方法

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トランスジェンダーの意味とは,心理学講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Stoller, R. J. (1964). “A contribution to the study of gender identity” . International Journal 

[2] コラピント, J. (2000). ブレンダと呼ばれた少年―ジョンズ・ホプキンス病院で何が起きたのか. 村井智之 (翻訳). 無名舎.

[3] 中塚幹也(2022).トランスジェンダーとメンタルヘルス 女性心身医学 J Jp Soc Psychosom Obstet Gynecol Vol. 26, No. 3, pp. 314-317

[4] 長谷川悠乃,松嵜くみ子(2013).性別の3要素からみたジェンダー・アイデンティティと自己肯定意識の状態との関連 跡見学園女子大学文学部臨床心理学科紀要 第 1 号

[5] 日本精神神経学会 監修 (2014).DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

[6] 須藤武司(2019).トランスジェンダー当事者支援における臨床心理学的課題 跡見学園女子大学文学部臨床心理学科紀要 第 1 号