無気力症候群の意味とは
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「無気力症候群」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①無気力症候群の意味とは
②無気力症候群と関連用語
③無気力症候群になる原因
④フローモデルと無気力症候群
⑤関連コラム
是非最後までご一読ください。
①無気力症候群とは何か
意味
無気力状態とは、心理学ではアパシー(apath)という言葉で研究されてきました。アパシーは心理学辞典(1999)によると以下のように定義されています
。本来なら反応すべき感情体験が生起せず、無感動、無関心、感情鈍麻になる状態(一部簡略化)
例えば、無気力症候群になると、食欲が低下し、朝の起床が難しくなり、笑顔が少なくなり、意欲がわかなくなるなど、心と身体にさまざまな影響が現れることがあります。
歴史
アパシー(無気力症候群)という用語は約1600年頃から使用され始めました
。この言葉の語源は、ギリシャ語の「a(失う)」と「pathos(苦悩)」が組み合わさって生まれたものです。最初は哲学のストア派という学派で使われていました。ストア派では、感情が少ない状態は心配事が少なく冷静な行動ができるため、アパシーは理想的な状態とされていました。
しかし、19世紀以降、近代の精神医学では、知的で自由な精神活動が妨げられる否定的な状態を示す言葉として、広く使用されるようになりました
。アパシーが広く使われるようになったのは、第一次世界大戦後でした。戦場で過酷な経験をした兵士たちは、戦闘から帰還した際にアパシーの状態になることが多く、これは社会的な問題となりました。最初はこのような退役兵のメンタルヘルスを改善するために、アパシーという用語が使用されるようになりました。
現在でも、アパシーはモラトリアム、うつ病、認知症などさまざまな分野で広範な概念として使用されています。
無気力症候群と診断
。
②無気力症候群と関連用語
アパシーシンドローム
アパシーシンドロームとは、個人の自発性や意欲が低下し、特に重要な事柄に対して無気力な状態を指します。たとえば、趣味には情熱を示す一方で、仕事に対しては意欲を感じなくなるなどの状況が該当します。
スチューデントアパシー
スチューデントアパシーは、Walters(1961)
によって提唱された用語で、自己確立に不安を感じ、失敗や挫折を避けようとするため、学業上の競争を回避しようとする反応を指します。主に学校に入学後に発生し、授業をさぼる、留年するなどの結果につながることがあります。空の巣症候群
空の巣症候群は、子育てをしていた親が子供が巣立った後に経験する無気力症候群を指します。子育ての役割を果たすことから生まれていたアイデンティティが変わったために、母親などが陥りやすい傾向があります。
③無気力症候群になる原因
筆者が整理したところ、無気力症候群になる原因は大きくわけて3つ考えられます。
原因①学習性無力感型
学習性無力感型は、避けることのできない長期にわたるストレスが積み重なり、その結果アパシー状態に陥る心理状態を指します。成果が上がらず、自己への信頼感を喪失することで、意欲を喪失してしまいます。例えば、以下のような状況が考えられます。
仕事の負荷が増えすぎて思考がまとまらない
努力しても成績が向上しない
連続してミスや失敗が続く
自分には無理だという考えが浮かび上がる
原因②モラトリアム型
モラトリアム型は、人生の目標や意味を見いだせない状態において無気力症候群が現れます。このタイプの人々は、目標を見失ったり、既に達成してしまったことにより、次に取るべき方向性が見つからなくなると、無気力症候群に陥る可能性が高くなります。例えば、次のような状況が挙げられます。
日常が退屈で感じる
日々が目標を持たずに過ぎてしまう
自分がやりたいことが見当たらない
大学合格などの大きな目標を達成してしまった
子供たちが巣立った後、何をすべきか分からない
原因③脳の問題
脳の問題は、無気力症候群がうつ病、統合失調症、アルツハイマー病、脳梗塞などの脳に関連する障害の症状として現れることを示唆しています。こうした場合、脳の機能に何らかの異常が生じている可能性が高いです。以下のような状況が考えられます。
突然無気力に襲われる
起床がつらく、ベッドから出ることが億劫になる
日々の生活に変化がないのに無気力感が続く
消え去りたいという思いが浮かび上がる
言葉が支離滅裂になることがある
④フローモデルと無気力症候群
フローモデルとは、個人が特定の活動に没頭し、その活動に完全に集中する状態を指します。この状態では、自己意識が薄れ、時間感覚が失われ、その活動自体が楽しさや満足感をもたらします。フローモデルは、適切な挑戦とスキルのバランスが取れた状況において、しばしば現れるものです。
具体的な概念は以下の図のようになります
。このように、高い難易度と高いスキルを持つ場合に、フロー状態が生じやすいことが示されています。逆に、難易度が低くスキルも低い場合には、無気力症候群が起こりやすいことも明らかです。
無気力症候群は、難易度や自身のスキルによっても影響されるため、何かに取り組む際には「自分に可能なのか?」「どの程度までなら達成できるのか?」といった点を丁寧に検討することが重要です。
④関連コラム
無気力を改善する方法について
先述の記事では、アパシーの意味や関連する研究について紹介しました。無気力症候群を実際に改善したい方々には、以下の記事を参考にすることをおすすめします。原因に応じた改善方法が紹介されています。
モラトリアム
無気力状態の1つの形態としてモラトリアムが挙げられます。モラトリアムについて理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
無気力診断
筆者は無気力の強さを簡易的に診断できるシステムを作りました。客観的に無気力状態の程度を把握したい方は一度チェックしてみてください。
心理療法を学びたい方へ
無気力症候群コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。
・心を休める心理療法の基礎
・人の心とやる気の関係
・充実感を得る,フロー心理学
・暖かい人間関係を築く方法
皆さんのご来場をお待ちしています。興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。*無気力症候群専門の講座ではないのでご了承ください
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 中島 義明 子安 増生 繁桝 算男 箱田 裕司 安藤 清志 (1999).心理学辞典 有斐閣
[2] Apathy – Definition and More from the Free Merriam-Webster Dictionary”. Merriam-webster.com. Retrieved 25 February 2014.
[3] 山口 修平(2011).神経疾患におけるアパシーの神経基盤 認知神経科学 Vol. 13 No. 1 P15を引用した
[4] Robert P, Onyike CU, Leentjens AF, Dujardin K, Aalten P, Starkstein S, Verhey FR, Yessavage J, Clement JP,Drapier D, Bayle F, Benoit M, Boyer P, Lorca PM,Thibaut F, Gauthier S, Grossberg G, Vellas B, Byrne J.(2009).Proposed diagnostic criteria for apathy in Alzheimer’s disease and other neuropsychiatric disorders. Eur Psychiatry 24, 98-104./山口 修平(2011).神経疾患におけるアパシーの神経基盤 認知神経科学 Vol. 13 No. 1 表1を引用した
[5] Walters, P. A. 石 井 完 一 郎 ら (監 訳)(1975).学生の情緒問題 文光堂 Pp.106-120.(Walters, P. A. 1961 Student apathy. Blain, G. B. et al.
(eds.) Emotional problems and student. New York: Appleton-Century-Crofts.)
[6] 奥上紫緒里,西川一二,雨宮俊彦(2013).4チャンネル ・フローモデルに4分類に基づ く 授業内における主観的経験の比較 大手前大学論集 調査報告 第14号 pp.319-330