神経質の意味とは
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「神経質」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①神経質とは何か
②神経質の種類
③神経質と体の仕組み
④性格と遺伝率
⑤精神疾患との関連
⑥神経症の消滅
⑦関連コラム
是非最後までご一読ください。
①神経質とは何か
意味
神経質は心理学辞典(1999)[1]によると以下の意味があります。
外部刺激の敏感に反応する,小心で不安を示しやすい,心身の状態のバランスを崩しやすい,身体症状を示しやすい,等を示す性質傾向
語源
神経質は英語では、nervousと表記されます。これは「nerve」「osus」が組み合わさった言葉です。「nerve」は中世ラテン語から派生した言葉で「神経」を意味します。「osus」は原始インドヨーロッパから派生した言葉で「いっぱいにする」という意味があります。nervousは神経がいっぱいで、神経質と訳されるわけです。
歴史
1800年代後半に、George Miller Beardという神経内科医が「神経衰弱症」(neuras-thenia)という用語を使いはじめました[2]。その後、神経苦悶症、強迫性神経症、など様々な言葉が生まれました。日本では心理療法家の森田正馬がこれらを「神経質」という言葉で総称し、様々な研究論文を発表し、精神医学や心理学で定着してきました。
②神経質の種類
神経質と言う用語は、包括ワードであり、様々な意味が含まれています。神経質は、最近のHSP研究によると、主に3つに分類できます。HSPはアメリカの心理学者、アーロン博士が1996年に提唱した概念でHighly Sensitive Personと綴られています[3]。直訳すると「とても敏感な人」と訳されます。
刺激に敏感
1つ目は、聴覚、嗅覚、触覚など、5感がとても敏感な神経質です。例えば、音に神経質な人は、繊細な音を聞きわけることができるので、音楽家としての才能を発揮できるかもしれません。一方でちょっとした物音に敏感で、隣人トラブルになってしまうというケースもあります。
失敗や間違いへの繊細さ
2つ目は些細な失敗や、小さなエラーを気にする神経質です。例えば、整理整頓されているものに気がつきやすい方は、プログラミングなどで才能を発揮することができます。一方で、他人の細かい粗にも気がついてしまうので、イライラしやすくトラブルを抱えやすい面もあります。
微妙な変化に気づく
3つ目は他人の表情、雰囲気の変化、感情の変化に敏感な神経質です。例えば、映画などを見ると人一倍入り込むことができるので、楽しむことができます。一方で人の気持ちの変化にいちいち反応してしまうので、気疲れをしてしまう面もあります。
③神経質と体の仕組み
脳と神経の仕組み
私たちは、全身にある神経から情報を受け取り、脳で処理していきます。神経質は脳内の情報処理や身体の神経の過剰な働きが原因であるといわれています。例えば、物音に対して普通の人が、30に感じるものが、神経質な人では100くらいに感じることがあります。
交感神経,副交感神経
私たちの体には副交感神経と交感神経の2つがあります。下図を見てみてください。
図を見ると、交感神経の方が活発に動いている感じがしますよね。交感神経は、興奮したり、集中力を高める神経です。神経質な人は交感神経が優位になりやすく、身体に負担がかかります。その結果、不眠、倦怠感、高血圧などの問題を抱えやすくなります。
④性格と遺伝率
神経質とビックファイブ
現代の性格研究では、人間の性格は概ね以下の5つに分類していきます。これらはビックファイブと呼ばれています。
*ビックファイブ
開放性 外向性 誠実さ 調和性 神経質
このうち、神経質は「Neuroticism」と言われ、神経質傾向が強いと、イライラしやすい、罪悪感を持ちやすい、不安が強くなりやすいということがわかっています。
神経質の遺伝率
行動遺伝学者の安藤(2000)[4]の研究では神経質の遺伝率は41%、家庭環境は7%、外部環境が52%とされています。神経質は先天的に決まっている部分もありますが、環境の影響を受ける面もあるため、過剰になっている場合はある程度改善できると言えます。
⑤精神疾患との関連
現在、神経質という用語は精神医学の世界ではほとんど使われなくなってきています。一方で記述としては少ないですが、WHOの基準であるICD‐10では、神経症性障害(Neurotic disorders)という、大分類が使われています。神経症性障害の大分類の中には、以下のような精神疾患が規定されています。
全般性不安障害
全般性不安障害とは、大きな不安が日常生活において長期的に続く心の病気を意味します。主な症状としては、強い緊張、疲労感、めまい、不安、不眠、集中困難などが挙げられます。
強迫性障害
強迫性障害は、自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れず、わかっていながら何度も同じ確認を繰り返すことを意味します(厚生労働省)。例えば、潔癖症の方は、何度手を洗っても心配になり、1日何百回と洗ってしまいます。
パニック障害
パニック障害は、厚生労働省によると、突然理由もなく、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作(パニック発作)を起こします。そして、また発作が起きたらどうしようかと不安になり、発作が起きやすい場所や状況を避けるようになってしまいます(厚生労働省)。
⑥神経症の消滅
国際診断基準「ICD-11」改訂
かつて、精神疾患の診断や分類において重要な役割を果たしてきた「神経症」という概念は、近年大きく揺らいでいます[5]。1980年代のアメリカ発の診断基準「DSM-III」以降、曖昧で科学的根拠が不十分との批判を受け、2018年の国際診断基準「ICD-11」改訂でついに削除されました。
神経症概念の消滅は、精神疾患の捉え方と診断に大きな変化をもたらします。従来の神経症は、不安症、気分障害、強迫性障害など、より具体的な診断名に置き換えられます。
精神医学の未来
一方で、包括的な視点の喪失への懸念も存在します。今後は、発達障害や心的外傷などの概念を統合し、精神疾患の多様性や複雑性を理解する新たな枠組みが必要です。
神経症概念の消滅は、精神医学における新たな時代への幕開けと言えるでしょう。科学的根拠に基づき、より精緻な診断と治療法の開発が進むことが期待されます。同時に、精神疾患を多角的に捉え、患者一人ひとりに寄り添う医療の重要性もますます高まっていくでしょう。
⑦関連コラム
神経質を治す方法
当コラムでは神経質の意味や研究を紹介してきました。実践的に神経質を改善したい方は以下のコラムを参考にしてみてください。極端な考え方を改善する方法や、神経質な思いにとらわれない手法を紹介しています。
神経質診断
筆者は神経質の強さを簡易的に診断できるシステムを作りました。客観的に神経質の強さを把握したい方は以下の簡易診断を参照ください。
HSPの意味や特徴
HSPは、心理学者のアーロン博士夫妻が提唱した概念で、Highly Sensitive Personの略称です。神経質と近い概念で理解を深めることができます。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1]
[2] Beard, George M. [Miller]. A Practical Treatise on Nervous Exhaustion (Neurasthenia): Its Symptoms, Nature, Sequences, Treatment. New York: William Wood & Company, 1880. First Edition. Hardcover. Condition: Very Good / No Jacket. Item #2305839.
[3] Aron, A., Melinat, E., Aron, E. N., Vallone, R. D., & Bator, R. J. (1997). The experimental generation of interpersonal closeness: A procedure and some preliminary findings. Personality and Social Psychology Bulletin, 23(4), 363-377.
[4] 安藤 寿康 (2000).心はどのように遺伝するか―双生児が語る新しい遺伝観 講談社
[5] 新宮 一成(2019).神経症概念の遺産をわれわれはどう受け継ぐか : 精神病との対比,心的外傷の身分,不安の問題 精神神経学雑誌 = Psychiatria et neurologia Japonica 121 (6), 433-444, 東京 : 日本精神神経学会