ノイローゼの意味とは
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「ノイローゼ」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①ノイローゼとは何か
②ノイローゼと医学上の歴史
③ノイローゼと日本の歴史
④精神疾患,症状
⑤日常生活での使われ方
⑥関連コラム
是非最後までご一読ください。
①ノイローゼとは何か
ノイローゼの意味
ノイローゼは英語では「neurosis」とされています。日本語では「神経質」もしくは直接「ノイローゼ」と翻訳されてきました。現代では以下のように定義されています。
はっきりとした不安または継続的で不合理な、心配、脅迫観念、脅迫的行動、といった苦悩に満ちた感情的な症状によって特徴づけられるさまざまな精神障害の総称(心理学辞典,2013 一部簡略化)[1]
要約すると「ストレスによって精神や身体に症状が現れ日常生活に支障が出る状態」と捉えられます。
たとえば、毎日のように上司からパワハラを受けていると、職場に行くことを極度に恐れ、会社の前につくと汗がだらだら出てきてしまったりします。このような強い不安や恐怖が離れず、日常生活に支障が出る状態はノイローゼと言えます。
②ノイローゼと医学の歴史
1740年代
ノイローゼは、英国の医師ウィリアム・カレン(1712~1790)が提唱した概念です[2][3]。カレンは1730年にカリブ海の船で船医を務め、1734年~1736年までエディンバラ大学で働いていました。
その後、1740年にグラスゴー大学で医学博士号を取得し、1744年からグラスゴー大学で1747年に英国で最初の化学の議長を務めました。カレンは精神的な病を抱えた人を、総称してノイローゼと呼んでいたようです。
1860年代
1869年にアメリカの神経科医G.M.ベアードが「神経衰弱(neurasthenia)」という病名を初めて提唱しました[4]。ベアードは個々の人間が一定量の神経力を持ち、さまざまな活動でそれが消費されると説明しました。個人ごとに保持できる神経力の量には差があり、神経力の「百万長者」から貧乏人まで存在すると考えました。
神経力の収支が収入を上回らないように調整することが重要で、支出が過剰な場合、「神経の破産」、つまり神経衰弱に陥る可能性があると指摘しました。神経衰弱は神経力の不足に起因し、個人の神経力が活動で消費されることで発症するという考え方であると言えます。
1950年代
ノイローゼはしばらくの間、心の病全般に使われていきましたが、段々と意味が限定されていきます。例えば、認知症、脳梗塞、バセドウ病、ホルモンの異常、うつ病、統合失調症、などはノイローゼの意味から除外されていきました。
これら除外されていった病気の特徴は「心の問題以外が大きい」ということです。例えば、認知症は心が健康であってもかかってしまう病気ですよ。心の問題以外で起こる病気については、それぞれに適した、治療をしなくてはなりません。そうして、どんどんノイローゼという言葉は限定されていきました。
このようにノイローゼの意味はどんどん限定されていき、最終的には心の問題が主体となる精神的な病のみを「ノイローゼ」と呼ぶようになっていったのです。精神医学の世界では1950年代から、DSM(アメリカ精神医学会の診断基準)で使われるようになりました。
1980年代
一方で、さらに精神医学が発展すると、ノイローゼという広範な意味を持つ用語は返って使いにくくなり、段々と使われなくなっていきました。そのため精神医学の世界でも1980年代に廃止され、ノイローゼという言葉はほとんど使われなくなりました。臨床心理学の世界でも、ノイローゼという言葉をつかうことはほとんどないと言えます。
ノイローゼと日本の歴史
昭和の用語
神経衰弱やノイローゼは、過去の言論や新聞記事で話題にされていました[4]。日本では、1955年に週刊朝日で掲載された記事「あなたは大丈夫ですか?ノイローゼと現代人」が流行語となりました。特に、戦後から高度成長期にかけて、社会の急激な変化やストレスが「神経衰弱時代」と称されたり、「ノイローゼ的」と表現されたりしたことが、新聞記事の見出しや社会の言葉遣いに反映されていました。
これらの言葉は、社会的な流行語として使われ、当時の社会の不安やストレスを表現する隠喩として機能していました。
以下の図1は、神経 衰弱とノイローゼの一般向けの解説書について、10年ごとの出版点数の推移をグラフにしたものです。
ノイローゼについては、40年代から出版されはじめ、70年代には55件に昇っています。さらに以下の図2は、毎日新聞の記事の見出しに神経衰弱、ノイローゼの語の登場回数の推移を示したもの者です。
このように、50年代から使われはじめ、65-69年代には、70件を超えています。この調査からわかるように、日本では昭和からよく使われるようになったと考えられます。
日常用語として活用
ノイローゼという用語は、総称的な呼び方であるために研究として難しく、1970年代後半から徐々に使われなくなってきました。診断名としては、含める幅が広すぎるため現在では廃止されています。ノイローゼは、精神医学の世界では使われなくなりましたが、日常生活で使われる用語としては現代でもなお定着しています。
ノイローゼは「神経衰弱」「ヒステリー」に代わって用いられるようになり、「主婦ノイローゼ」や「団地ノイローゼ」「育児ノイローゼ」など、女性がうつうつと過ごす際の総称として使われるようになりました。
筆者が調べた限りでは、ノイローゼの月間検索数は22,000あり、孤独感の5000、悲しい18000、よりも大きな数字です。ノイローゼは広い意味があるので、一般の方にとっては使いやすい言葉として使われていると考えられます。
③精神疾患,症状
ここまで解説したように、ノイローゼは広い意味があり、幅広い精神疾患や症状と関連しています。立てば、以下のようなものがあります。
パニック障害
理由もなく激しい不安に襲われ(不安発作、パニック)、動悸や頻脈など身体の反応も伴う
全般性不安障害
何となく漠然とした不安に常にとりつかれている状態
強迫神経症
自分では不必要、不合理であるとわかっていながら、ある考えやイメ-ジを打ち消したり、衝動、行為などをやめる事ができない
解離性障害
本人自身が気づかない心のゆがみによって、運動や感覚機能、意識などに障害が起こる
抑うつ神経症
何となく気分がふさぐ、重苦しい、悲観的といった気分がずっと続く
心気症
自分の体に常に注意を払って、実際には病気でないのに、病気であると思い込む
このように、ノイローゼ(神経症)には多くの症状があります。ノイローゼの原因となるストレスは、わかるものもあれば、本人が意識していないものもあります。診察や心理カウンセリングの中で徐々に分かることもあります。
④日常生活での使われ方
ここまで解説したように、ノイローゼは医学的には使われなくなっていますが、日常用語としては様々使われ方をしています。
育児ノイローゼ
育児ノイローゼ(育児不安)とは、住田ら(2000)[5]によれば以下のように定義されています。
育児ないし育児行為から喚起される漠然とした怖れの感情
子どもへの育児に対して、不安や心配、嫌悪感などを感じる状態と一般的には言われています。原因としては、核家族化により母親が充分な育児アドバイスを受けられないこと、少子高齢化により日々子どもとの接触が少ないことが挙げられています。
仕事ノイローゼ
仕事ノイローゼとは、以下のような意味があります。
仕事でのプレッシャーや職場の人間関係により、心理的なストレスがかかり、神経症を引き起こすこと
主に職場で感じるストレスが強い状態です。例えば、上司からのパワハラ、電話への恐怖、重大なプレッシャーを課せられるなどが引き金となって、不安感や抑うつなどの症状が現れるケースがあります。
またキャリアについて不安を感じる「キャリアノイローゼ」などの用語で使われています。
便秘ノイローゼ,下痢ノイローゼ
便秘ノイローゼは、以下のような症状があります。
便秘に対する過度な不安や心配が原因で生じる精神的な症状
この状態は、日本で刺激性下剤(センナやアロエなど)が広く使用され、便秘解消の手段として一般的であるために起こります。患者は便秘を「病気」として捉え、便が出ないと不安を感じ、過剰に下剤を摂取することで依存症のような状態に陥ります。
一方で下剤ノイローゼは、以下のような状態を指します。
下剤による心理的依存症
日本では刺激性下剤が広く利用されているため、便秘が解消されると逆に下痢が生じ、患者は下痢を恐れ、再び下剤を使用することで下痢が繰り返されることがあります。これにより、下痢ノイローゼが発生します。
刺激性下剤を常用してしまうと、便秘解消への効果が低下し、耐性が生じます。これは、大腸の自立蠕動能力が低下する結果です。また、刺激性下剤の連用により、大腸粘膜が黒色化し、大腸メラノーシスと呼ばれる症状が現れます。この状態では、大腸の健康が損なわれ、さらに刺激性下剤への依存性が高まります。
⑤関連コラム
ノイローゼを改善する方法
当コラムではノイローゼの意味や研究を紹介してきました。実践的にノイローゼを改善する方法は以下のコラムを参考にしてみてください。心構えや生活リズムの整え方を紹介しています。
神経質診断
筆者は神経質な傾向を簡易的に診断できるシステムを作りました。客観的な神経質のなりやすさ把握したい方は一度チェックしてみてください。
コミュニケーション講座のお知らせ
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] VandenBos, G.R. (Ed.). (2007). APA Dictionary of Psychology. Washington, D.C.: American Psychological Association. (ファンデンボス, G.R. (監修)繁枡 算男・四本 裕子(監訳) APA 心理学大辞典 p. 444 培風館)
[2] Knoff, William F. (July 1970). “A History of the Concept of Neurosis, with a Memoir of William Cullen“. American Journal of Psychiatry. 127 (1): 80–84. doi:10.1176/ajp.127.1.80. ISSN 0002-953X. PMID 4913140
[3] Neurosis wikipedia
[4] 近森高明(1999).二つの「時代病 」神経衰弱とノイローゼの流行にみる人間観の変容一.p197-199 京都大学文学部社会学研究室
[5] 住田正樹・中田周作(2000).父親の育児態度と母親の育児不安.九州大学大学院教育学研究紀要,2:19-38,
[6] 清水陽香・中島健一郎・森永康子 (2016). 対人的文脈における防衛的非観主義の役割 パーソナリティ研究 第24巻 第3号