シンパシーの意味とは
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「シンパシー」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①シンパシーとは何か
②シンパシーの発達
③シンパシーを感じにくい人
④脳科学とシンパシー
⑤関連コラム
是非最後までご一読ください。
①シンパシーとは何か
意味
まず初めにシンパシーの意味から確認していきましょう。シンパシーは
他人の苦しみや苦痛に対する哀れみや悲しみ
他人の気持ちを共有する能力[1]
(APA Dictionary of Psychology,2018 より一部改変)
他者の感情による自分の反応を意味し、その直接的反応ではない[2][3]
とされています。私たちは誰かが苦しい思いをすると、気の毒に感じたり、心配することがあります。このように他人のマイナス感情をくみ取ることをシンパシーと言います。日本語では「同情」と訳されます。
empathyとsympathyの違い
よく混同されるのが、empathyとsympathyです。
エンパシー
「共感」と訳されます。距離感が近い、相手の心情をあたかも自分の事のように感じる、プラス感情でもマイナス感情でも使われる、などの特徴があります。
シンパシー
「同情」と訳されます。距離感が比較的ある、あいての感情を自分の事のように感じているわけではない
他人の苦しい気持ちを気の毒に感じる、などの特徴がありあます。
これらの微妙な違いがあるものの、ざっくりと言ってしまえば、エンパシーとシンパシーはほぼ同じ意味です。違いがあるとすれば、エンパシーは広い感情、シンパシーはマイナス感情に特化した感情と覚えておくと良いでしょう。*詳しい両者の違いは下記の表にまとめました
empathy | sympathy | |
日本語 | 共感 | 同情 |
距離感 | 近い | 遠い |
感情の種類 | プラス感情 マイナス感情 |
マイナス感情 |
専門職 | 良く使う | 使わない |
効果
シンパシーを感じると様々な効果があります。例えば、
他者への気づかいができる
困っている人をサポートできる
いじめなどの防止
などが挙げられます。こうした他者への気づかいや、サポートなどができる性質のことを「向社会性」といいます。人はだれでも向社会性を持っていますが、シンパシーが高い人は、より向社会性が高いと言えます。
②シンパシーの発達
Hoffman(2000)によれば、シンパシーの力は年齢と共に発達していきます[4][5]。
0~1歳
生後間もなくから1歳になるぐらいまでは、「情動伝染」が見られます。情動伝染とは、ある人の感情が周りに伝わっていくことを意味します。
例えば、周りの赤ちゃんが泣くと自分もなく、周りの赤ちゃんが笑うと自分も笑うなどが挙げられます。ただ、この時期は「自分」「他人」という区分けが出てきていないので、シンパシーとは言えず、反射的な共感と言えます。
2~3歳
2歳前後になると、自他の感情を区別し、他者の苦しみに対して援助的な行動を起こします。泣いている友人のもとに母親を連れて行くなど、自分が落ち着く行動をする場合もあります。この頃に他人の視点を考えられるようになると、相手の要求を理解し、より自己中心的にならない援助が見られます。
4~6歳前後
4歳を超えると、他人の心をより詳細に理解していきます。
ごめんね… 痛かった? 苦しい?
これらの相手の気持ちに配慮した言葉が増えていきます。これらの言葉が見られたら、順調にシンパシー能力が育っている証拠です。他者の誤信念理解として有名な、”心の理論”というものがあります。興味がある方は下記を展開してみてください。
他者の気持ちを推し量る実験として、サリーとアンの課題というものがあります。せっかくなので皆さんも以下の課題を解いてみてください。
①サリーとアンの2人の女の子が出てきます。
②サリーはカゴにビー玉を入れます
③そしてサリーは部屋の外へ出ていきます
④アンはサリーのビー玉をカゴから取り出して、別の箱に入れました
⑤帰ってきたサリーがビー玉を探すのはどこでしょうか
A.「サリーは元にあったカゴを探す」
B.「サリーは別の箱を探す」
この課題が出された時に、A「サリーは元にあったカゴを探す」と推測するのが正解です。サリーは外へ出たので、アンが別の箱に入れたことを知らないからです。この問題に対して3歳児はほとんど間違えます。正解できるようになるのは、主に4歳以降と言われています。サリーとアン課題については動画もありました。下記を参考にしてみてください。
7歳以降
6歳ぐらいまでに基本的な心の機能が出来上がると、人生経験を重ねていく度に、シンパシー力が増していきます。辛いこと、苦しいこと、失敗した痛みを味わうと、他人のマイナス感情を理解する幅が広がっていくのです。
③シンパシーを感じにくい人
精神医学や心理学の世界ではコミュニケ―ションに関する障害があり、シンパシーを感じにくい人がいることがわかっています。
自閉症スペクトラム
自閉症スペクトラムとは、社会性やコミュニケーション、想像力などの障害で発達上の障害がみられる疾患です。他人と目線を合わせることや、表情を読み取ることが苦手で、シンパシーを感じにくい特徴があります。
自己愛性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害とは、賞賛されたい欲求が強く、自分が特別な存在であるという信念が強い症状です。そして、共感性の欠如があり、他人に対してのシンパシーを感じにく傾向があります。相手の気持ちを理解しようとせず、時には相手を不当に利用したりすることもあります。
④脳科学とシンパシー
シンパシーと脳の関係については様々な説があります。
ミラーニューロン
ミラーニューロンとは、他者を見て自分も同じ反応をする脳の機能を意味します。パルマ大学のジャコモ・リッツォラッティらによって、1996年に発見されました[6]。ミラーニューロンは鏡のように反応することから、この名前が付けられました。ミラーニューロンは共感や同情と関りが深い脳の部位と考えられています。ミラーニューロンは、脳の下前頭皮質、下頭頂皮質という部位が関わっているという報告があります。
メンタライジグネットワーク
脳ネットワークの中でも「メンタライジングネットワーク」は、空気を読むために重要とされています[7]。メンタライジングとは、他者のこころの状態(欲望、意図、信念)を推測することで相手の行動を説明し、予測することをいいます。この機能を使うことで、相手とのやりとりで他者を欺いたり、だましたり、教えたり、説得することができるのです。
出典:Frith, U., & Frith, C. D. (2003)を参考に作成
⑤関連コラム
共感力をつける方法
当コラムではシンパシーの意味や研究を紹介してきました。実践的にシンパシーの力をつけたい方は以下のコラムを参考にしてみてください。姉妹コラムとして共感のトレーニング方法を解説しています。
シンパシー力診断
筆者はシンパシーの大きさを簡易的に診断できるシステムを作りました。客観的にシンパシー力の大きさを把握したい方は一度チェックしてみてください。
コミュニケーション講座のお知らせ
人間関係に関するトレーニングをしたい方、心理学をより深く学びたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] American Psychological Association(2018).APA Dictionary of Psychology
[2] Bloom,Paul(2016).Against Empathy: The Case for Rational Compassion. The Bodley Head,London, , p.40.
[3] 永島聡(2020).多文化共生社会における“empathy”と「共感」― 両概念は本当に重要なのか ― 神戸常盤大学紀要 Vol.13, pp.161-169
*[2]は[3]を参考にして記述しました。
[4] Hoffman, M. L. (2000). Empathy and moral development: Implications for caring and justice. Cambridge
[5] 溝川藍,子安増生(2015).他者理解と共感性の発達 Japanese Psychological Review Vol. 58, No . 3, 360-37
*[4]は[5]を参考にして記述しました。
[6] Rizzolatti G, Fadiga L, Gallese V, Fogassi L. (1996).Premotor cortex and the recognition of motor actions. Brain Res Cogn Brain Res. Mar;3(2):131-41. doi: 10.1016/0926-6410(95)00038-0. PMID: 8713554
[7] Frith, U., & Frith, C. D. (2003). Development and neurophysiology of mentalizing. Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B: Biological Sciences, 358(1431), 459-473.